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民営賭博の推進論者に答えて頂かなければならないこと

昨年末の臨時国会に提出され、すでに審議入りを待っている状態にあるIR推進法案。法案自体はすでに200名を超える超党派議連の支持と、自民党を含む3党の党内了承を得ている状況であり、ザックリとした「票読み」の範囲では審議に入りさえすれば、法案成立の可能性は非常に高いと言って良いでしょう。問題は、IR推進法案以外にも沢山の法案が審議を待っている状態の中で、「どの法案が優先されるべきか」という事と、果たして今期国会の限られた期間の間にIR推進法の審議にまで至る事が出来るかという点にあります。

一方、制度論議の部分において最大の論点となるのは、「民営賭博としてのカジノ合法化」という現在のIR議連が示している法制スキームです。この主張が「賭博は公の独占事業」として形作られてきた我が国の既存の賭博法制と齟齬を起こすことは自明であり、これを実現するためには幾つものハードルを乗り越えなければなりません。そして、そのハードルの高さを考えれば、現行法制に則った形の「公設民営」案(すなわち公の施行の元で民間資本とノウハウを利用する制度)の方が、制度案としてよほど現実味が高いというのが私の研究者としての主張であるのは、繰り返し述べてきた通りです。

一方、IR議連やそれを取り巻く識者などは、「民営案」に大きな拘りを見せているわけですが、「ならば早急に明示して頂く必要がある」という幾つかの項目が私の立場からは出てきます。公開質問状などと大上段に構えるつもりもないのですが、今回はそれら事項についてご紹介をしたいと思います。

1. 刑法解釈について

「公の独占業務である」として法制化されてきた我が国の賭博事業ですが、これらは賭博を明確に禁止している我が国の刑法第185条、第186条の解釈に基づいて合法化がなされてきたものです。この環境下において「民営賭博としてのカジノ」を実現するためには、当然ながらこれまで行なわれてきた刑法の解釈とその運用を変更する必要が出てくるワケで、この事実は民営賭博推進論者も方々で認めているところです。

そこで、最初の質問事項となりますが民営賭博の合法化を推進している方々は、現行の刑法解釈を具体的にどのように変更させるつもりなのでしょうか? すべての論議の大前提として、この点を明確にして頂く必要があります。

2. 刑法解釈変更の手続き

「解釈をどう変えるのか」を具体的に示して頂いた先に必要なのは、その解釈変更を実現するためにどのようなプロセスを想定しているのか?です。

実はこの点に関して、私の方で親交のある刑法学研究の権威の一人として名前が挙げられる法学者さん(政府有識者会議で座長を勤めるレベルの方)に個人的に伺ってみたことがあるのですが、彼の見地の範囲でも過去に「刑法解釈が明確に改定された」事例は殆どないとのことです。彼が数少ない参考事例の一つとして挙げたのは、1973年の尊属殺人事件に関連して行なわれた刑法がかつて定めていた「尊属殺人罪の違憲判決」。この判決によって刑法の解釈変更が行なわれ、尊属殺に対する加重規定は適用がなされなくなりました。

そもそも刑法は、あらゆる法分野の中で「類推解釈の禁止」の原則(拡大解釈や縮小解釈をしてはならない)が最も厳しく求められてきた分野です。それこそ今、国政で別途解釈論議が起こっている自衛権に関する憲法論などと比べると、元々かなり緻密な解釈論議が積み上げられているもの。その刑法において既存解釈を変更するというのであれば、当然ながら相応のプロセスが必要となる。すなわち、民営賭博の合法化を主張している人達には、それをどのように実現するのかを明示して頂く必要があります。

3. 解釈改定の影響範囲

次に疑問となるのは、上記刑法解釈の変更による影響範囲です。この点に関して、民営賭博の推進論者は「カジノ論とパチンコ論は切り分ける」とか「カジノ論とその他の公営競技論は別もの」などの発言を繰り返しているのですが、これは全くもって不見識なもの。法と制度というのはそれぞれが重なり合い、そして影響し合いながら存在しており、一つの法律の解釈変更はその他の関連する法令解釈にも当然影響を与えます。特に今回論議となっているのは、我が国の法治体制の根幹を形作っている六法のひとつ、刑法に関する解釈変更です。その影響範囲は非常に広い。

私がザッと見ている範囲でも、競馬法、モーターボート競走法をはじめとする各公営賭博の法制度はもとより、それに類似する運用が行なわれている宝くじ、totoくじなどの制度には当然ながら大きな影響を与えます。一方、これら既存の公営賭博および富くじ業種とは対照的に、「賭博ではないもの」として法令上規定されているパチンコや商品先物、FXなどを規制する風営法や金融商品取引法などの運用にも、当然ながら影響がある。

当り前すぎる話なのですが、これら多くの法令が同じ刑法条文に基づいて成り立っているのですから、一つのエリアに適用される解釈変更は、その他の別のエリアでも同様に適用されます。すなわち、「政策論としてカジノとパチンコ(公営競技)は切り分ける」という主張は正当性を持つとしても、「それをどのような法制下で実現するのか」に関する法制論議自体は全体に影響を与えるものという前提で行なわなければならない。その辺を理解せずして「切り分け」論を主張しているのならば法制論を語る人間としての適性が疑われますし、判っててあえて「ソレとコレとは別」と強弁をしているのであれば非常に不誠実な主張であると言えるでしょう。この点を、民営賭博の推進論者の方々には、明確に認知して頂く必要があります。

4. どれ程の時間を要するのか

そして最後に示して頂かなければならないのが、上記のような様々な論議をどのようなタイムフレームの中で遂行してゆくつもりなのかという点です。少なくとも今のIR導入論議は2020年の東京オリンピック開催をマイルストンとして設定をしながら語られているものであって、実際の開業が五輪前となるのか五輪後となるのかの論議は別として、限定された時間軸の中で語られているものであります。

そもそも現在国会に上程されているIR推進法は、法の施行後1年の目処をもって政府に具体的なカジノ合法化とIR導入を実現する法律の想起を求めているワケですが、上で説明したような難解な論議を経た上で、実際の法の上程まで1年で実現できると本気で思っているのか?という事を、私は民営賭博の推進派に聞きたいです。ここまで説明してきた様々な論議というのをどのようなタイムフレームで実行に移すつもりなのか、最後にこれを示して頂く必要があります。



という事で、民営賭博としてのカジノ合法化を主張している方々には、まずもって上記事項に関して明確な方針を示して頂く必要があるのと同時に、私としては無理に民営案に拘らず、既存法制と齟齬のない「公設民営」を前提に論議を進めた方がはるかに現実味の高いカジノ合法化論となるという事を改めて主張しておきたいところです。

一方で、民営賭博推進論者が主張している我が国における既存の賭博統制に対する問題点の指摘や改革論に関しては、私も共感する部分は勿論あるにはあるのですが、その種のものは現行法制下の中でカジノ合法化をスムーズに進行させた上で、別の論議としてジックリと時間をかけて行なった方が絶対に良いですって…というのが私の正直な思いです。カジノと違ってそれら業界には、官にも民にも政にも既に関与者が山ほどいるワケで、カジノだけの勝手な「モノ言い」で全体に影響する乱暴な制度論を突っ込めば、その先には軋轢が生まれるだけ。というか、既にその軋轢は生じ始めているわけで、カジノ合法化の実現にとっては何も良い事はありません。

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