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<4月8日>(火)

○言論という仕事は、基本的に虚しい仕事であります。論敵との議論に時間を費やすにせよ、身内同志の見苦しい褒めあいに終わるにせよ、爽快なことってあんまりありません。でもね、今朝の不肖かんべえはちょっといい気分なのであります。以下は3月13日に産経新聞正論欄に寄稿した論考です。

●豪州と経済連携しTPP打開を

○この文章の前段はTPP交渉への悲観論で、アメリカの政治状況を見ると非常に妥協しにくくなっているという状況を説明している。そして最後の部分では、以下のような提言をしておるのです。
 そこで日豪経済連携協定(EPA)交渉の推進を提案したい。オーストラリアはTPP交渉参加国であり、貿易自由化に積極的だ。安全保障面でも協力の余地が大きい。折もよく4月にはアボット首相が初来日し、7月には安倍首相がキャンベラを訪れる予定だ。

 何よりこれが決まると、日本では米国牛よりも豪州牛の関税の方が安くなる。いうまでもなくビーフは、日米交渉の最大の懸案のひとつである。豪州との貿易自由化交渉は、米国をTPP交渉の場に引き戻すひとつのカードになり得るのではないか。

 いつまでも「しつこく言われてからしぶしぶカードを切る」という交渉スタイルではいられない。仲間を増やし、交渉の主導権を握り、時には米国の袖を引っぱることも必要だ。

 通商交渉を積極的に展開することが国内の改革を進める原動力ともなる。アベノミクスに燃料を追加するためにも、安倍内閣のしたたかな交渉に期待したい。
○昨日の日豪首脳会談では、ほぼ上記の通りとなりました。もちろん上記の拙稿が政府を動かした、なんてことはないわけですけれども、少なくとも自分が言っていた通りになる、ってのは気分がいいものです。それにしても、7年越しの日豪EPA交渉がTPPより早く決まる、ってのは意外でありました。

○ここの部分がまだ正確に伝わっていないんじゃないかと思うのは、「関税撤廃」に関する部分です。アメリカのフロマン通商代表は、日本に対して農産品の関税撤廃を求めている。日本側としては、そもそも昨年2月の日米首脳会談では、双方が「両国ともセンシティブ分野があるので、一方的に全ての関税を撤廃することをあらかじめ約束することを求められるものではない」ことを確認してTPPに参加しているのだから、そんなに言われても困るよということになる。そもそも2012年12月の総選挙では、自民党は「聖域なき関税自由化の交渉には参加しない」ことを公約しているのだから、「完全撤廃」と言われると困るのです。

○そこで豪州を相手に、日本は「現在は38%の牛肉関税を、18年かけて19%に下げます」という条件で妥結してしまった。豪州から見れば、別に関税ゼロにこだわる必要はないわけで、日豪EPAで米国産牛肉に対して豪州牛が日本市場で有利になるならオッケーである。これをアメリカがどう見るかであるが、おそらくアメリカ・ビーフのロビーは、「ばっかもん!早いところ、豪州と同じ条件をゲットして来い!」ということになるだろう。そうやって揺さぶりをかけるという戦法なのである。

○なにしろ日本市場では、豪州牛と米国牛が激しい競争を演じている。端的に言えば、マクドナルドは米国牛で、モスバーガーは豪州牛(タスマニア産)である。吉野家は米国牛で、すき屋は豪州牛である。2002年にBSE問題で米国牛が入ってこなくなり、豪州牛は日本でわが世の春をエンジョイした。ところが最近は検査の緩和もあって、米国牛が急速に盛り返してきた。これを逆転するために、豪州はEPAカードを切ってきたわけである。

○これでアメリカ側が前のめりになってくれれば言うことなし。一定の関税を残してTPP交渉が妥結に向かうことができる。逆にうまくいかないケースも考えられて、それはオバマ政権が国内の自動車産業に気兼ねしている場合ですな。アメリカは自国の自動車産業を、2.5%の関税をかけて守っている。アメリカともあろうものが、これはかなり恥ずかしい話である。でも、オバマ政権は2012年選挙の際には、「自動車産業を守ってあげたでしょ!」が大きな売りとなった。そういえばこんなスローガンを使っていましたわなあ。"Bin Laden is dead, GM is Alive."

○長年にわたってリコール隠しをしていたGMが、本当に生かすべき相手だったのかどうかは疑問が残るが、この手の「経済愛国主義路線」のおかげでオバマが再選されたことは間違いがない。はたして自動車業界に対して喧嘩を売れるかどうか。・・・・この辺はちょっと邪推が入ってますけどね。おそらくTPP交渉の妥結は、確率的にフィフティ・フィフティくらいまで戻したんじゃないかと思います。日本外交も、なかなかやるではありませんか。

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