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法人化後の国立大学の学術論文数の推移とその要因の分析(その7.やっぱりお金のパス図)

 昨日無事に入学式が終わりました。学長の式辞を学生が覚えていないということについては、何回もブログで書いており、最近の卒業式の式次については「3つのイエス」という工夫をご紹介しましたね。今回の入学式では、また、新しい工夫をしてみました。でも今日は、論文の分析の続きにして、次のブログで入学式の工夫をご紹介します。

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③高注目度論文数に影響を与える要因の時間的関係の分析

  表5および表6より、2000年から2010年の10年間における各指標の増加度(2010年値-2000年値、時間軸10年に対する傾き)、および増加率((2010年値-2000年値)/2000年値)を求め、それぞれについて各要因間の相関を検討した(表10、11)。高注目度論文数および通常論文数の増加度および増加率とも、はGDP増加度および増加率と強い相関を示した。

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  Top1%補正論文数増加度を目的変数として、通常論文数および国際共著率を説明変数とする重回帰分析を行なった(図24)。寄与率0.91234の重回帰式が得られ、標準化係数は1.0833および0.4328であった。

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  また、Top10%補正論文数増加率を目的変数として、通常論文数および一人当たりGDP増加率を説明変数とする重回帰分析を行なったところ、寄与率0.96176の重回帰直線が得られ、標準化係数はそれぞれ0.5343、0.4801であった(図25)。なお、Top1%補正論文数増加率では寄与率0.92053、標準化係数はそれぞれ0.5945、0.3967であった。

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  つまり、主要国間におけるこの10年間の高注目度論文数の増減の相違(ばらつき)の9割以上は、通常論文数、GDP、国際共著率の増減の相違(ばらつき)説明できると考えられる。

<含意>

 以上の主要国における高注目度論文数に影響する諸要因の横断面および時間的関係の相関分析から、諸要因間の因果関係を推定し、図26のパス図を仮説として提案する。

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 ここでは、GDPに比例して税収が増え、政府支出研究費が増えると仮定し、今回の分析では観察していない「研究費」を潜在変数として加えた。また、同じく今回の分析では観察していないが、「イノベーション」という概念(特許件数や製品化件数などである程度測定可能と思われる)を潜在変数として加えた。

 高注目度(Top1%)論文はイノベーションに結び付く確率が9倍高いとされているが3)、量的には通常論文からもイノベーションが多数生まれていると考えられる。つまり、通常論文数はTop1%論文数の約99倍存在するわけであるから、Top1%論文が9つのイノベーションに結び付くとすると、通常論文は99のイノベーションに結び付くことになる。そのために、高注目度論文数だけではなく、通常論文数からもイノベーションへ矢印を引いた。また、イノベーションが経済成長を促す可能性があることから、全体としてループを形成するパス仮説とした。

 e1、e2、e3は誤差項であり、測定誤差や他の要因の存在を意味する。

 今回観察できた諸要因の相関・回帰分析から、寄与率および標準化係数の値にもとづき、妥当と考えられる因果関係の重みを、概略の数値として記入した。

 今回の主要国における高注目度論文数およびそれに影響する要因の相関分析の結果から、高注目度論文数を増やすためには、まず、通常論文数を増やすことが根幹であり、そのためには、研究費(GDP)が必要であると考えられる。そして、高注目度論文数を増やすためには、それに加えてさらに研究費(GDP)が必要であると考えられる。

 高注目度論文数は9割がた研究費で決まるが、それに加えて国際共著率を高めることがさらに高注目度論文数を増やすことにつながり、また、その他の因子が関与する可能性もある。

 長岡ら4)の報告によれば、日本および米国において、被引用数上位1%の高被引用度論文を産生した研究グループでは、通常論文を産生した研究グループに比べて、研究費(研究者数および研究時間を含む)が多くかかっていた。これは、今回の分析から推定した、高注目度論文数を増やすためには通常論文数に要する研究費に加えて、さらに研究費が必要であるというパス仮説を支持するデータである。

 たとえば、日本の臨床医学研究論文の相対インパクトは現在でも約0.8という低い値がずっと続いているが、筆者は国際共著率以外の要因として、わが国の小規模~中規模病院の分散型の医療提供体制が、良質の臨床研究に欠かせない多数の症例数を集積するという基本的な要件を満たす上で大きくマイナスに働いていると考える。これを克服するには、欧米・アジア諸国並みの病院の集中化、または、大規模な医療データベースの構築が必要であると考えられるが、そのような論文の質を高める研究システムの改善には、やはり資金が必要である。

 今回の仮説は、GDPに研究費が比例するという仮定を前提としているが、日本は、他の先進国に比較して、GDPあるいは人口に見合った論文数を産生しておらず、外れ値的存在となっている。同じ研究費のもとで、日本が他の先進国に比べて論文数の産生が低いとは考え難く、日本と他の先進国との差は「GDP⇒研究費」の過程に存在すると推定される。つまり、先進国に比してGDP当りの研究費の少ないことが、日本の学術論文数の国際競争力低下の主要な原因であると推定する。

<参考文献>

4)長岡 貞男、伊神 正貫、John P. WALSH、伊地知 寛博:科学における知識生産プロセス:日米の科学者に対する大規模調査からの主要な発見事実 。科学技術政策研究所調査資料 - 203、2011 年 12 月

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 「論文数は金次第」というブログを以前から書いているのですが、今回の科学技術政策研究所の報告書のデータに基づいて分析した結果でも、それを裏付ける結果になりました。

 僕が、論文数を増やすためには研究費を増やすしかない、と発言すると、政府関係者から猛反発をくらうのです。政府関係者はお金をかけずに日本の国際競争力を高める方法を知りたいのだという。しかし、現実は現実として、受け入れていただく必要があると思います。

 残念ながら、お金をかけずに論文数を増やす魔法の薬は存在しないと思います。しかも、注目度(質)の高い論文を増やそうと思うと、もっとお金がいる。

 論文数=f(研究者数、研究時間、狭義の研究費、研究者の能力)

と考えていますが、最初の3つ「研究者数」、「研究時間」、「狭義の研究費」はお金ですね。そして「研究者の能力」もひょっとしたらお金かもしれません。高い研究能力を持つ研究者は、良い条件を提示する研究機関に引っこ抜かれる時代になりましたからね。

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