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偏差値重視の大学選びから脱却しよう。大学中退・ミスマッチ問題の解決策「WEEKDAY CAMPUS VISIT」について川原祥子氏に伺った

WEEKDAY CAMPUS VISIT」というすばらしい取り組みを行っている、NPO法人NEWVERYを取材させていただきました。お話を伺ったのは「WEEKDAY CAMPUS VISIT(以下、WCV)」事業を率いる川原さんです。

高校生の進路発見プログラム | WEEKDAY CAMPUS VISIT(ウィークデー・キャンパス・ビジット)


高校生が「いつもの大学の授業」を受ける

イケダ:まず初めにWCVについて、どういったプログラムなのか教えてください。

川原:簡単にいえば、大学で行われている通常の授業を、高校生にも同じように受けてもらうというプログラムです。狙いとしては、高校生のために用意された模擬授業ではなくて、実際に行われている授業を受けて、こんなことを学んでいるのか、こんなに難しいのか、こんな様子で大学生はノートを取っているのか、なんてことを体験していただこうと思っています

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単に受けてもらうだけではなく、授業の前にガイダンスと授業後の振り返りのワークも用意しています。高校生はお客様扱いのオープンキャンパスに慣れていますけど、ある程度のイメージと仮説をもって授業を受けるということや、その学部で学べることなどを、事前のグループワークで理解してから見に行ってもらっています。

授業後には、実際に授業を受けてイメージと違ったところ、変わったところをチェックしていて気付きを深めるということまでやっていきます。

イケダ:何とも合理的なプログラムだと思いますが、逆に、今まではそういう取り組みってやられて来なかったんですね。

川原:ありそうでなかったとよく言われるますね。授業を公開してもらうハードルはかなり高いので、難しいところではあるんですけどね。


大学入学後のミスマッチが深刻化している

イケダ:お客様目線の模擬講義じゃなくて、リアルな授業を体験していろんなことを学び取っていくと。そもそも、どういった背景から立ち上げようと思ったのですか?

川原:背景としては、大学に入学したあとにミスマッチを起こす大学生が増えていることがきっかけですね。

年間6万人ほど大学中退をしている現状ですし、大手予備校の調べでは2013年の時点で大学を再受験をするいわゆる「仮面浪人」が4万人いるという報告も出ています。つまり、再受験しているということは経済的な理由ではない、ということで純粋に大学選びでのミスマッチが起きていると考えられます。

参考:朝日新聞デジタル:大学入学後の「再受験」急増 9年で60倍、予備校調査 - 受験ニュース - 2013年度大学入試センター試験 - 教育

川原:もうひとつの問題は、大学の学問分野が複雑化していることもあります。学部の種類が514種類、学士号で690種類もあって、今もどんどん新設されている状況です

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そんな状況ですので、高校の先生も何学部で何やっているかを指導できず、同じように高校生もよくわかっていない、ということが起こっています。高校側が大学について詳しく知らないので、「とりあえず大学」という感じで進学してミスマッチが起きていると見ています。

イケダ:なるほど、そんなに学部・専攻多いんですか…。たしかに教師、生徒ともに把握できないですよね。もう少し具体的にオープンキャンパスとの違いを教えてください。

川原:オープンキャンパスもこれまで通りあってもいいと思っていて、受験制度や学内の施設になどついて説明してもらう場だと思っています。一方でWCVは、志望校じゃなくてもいいので大学の生の授業を見て、一年生が文理選択の前に見に行ってみようとか、そういう使い方もできると思うんです。経済学部って何っているかわからないか見に行ってみよう、みたいな見方もできます。そういったやり方で学部についての理解を深めていただきたいと思います。

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オープンキャンパスは高校生向けにアレンジされているものが一般的で、例えば文学部の模擬授業というとどの大学も同じような内容なんですよね。ですので、大学の特色がなかなか出てきづらいんですね。WCVは実際の授業を90分フルで受けてもらい、ノートもしっかり取って、議論スタイルの講義ならそれにもにも参加してもらったり、実習もできる範囲で参加してもらうというかたちでやっています。

イケダ:高校生にとって有意義な体験になりそうですね。実際に参加した方の反応はどのような感じなのですか?

川原:高校生からはかなり面白い反応が返ってきています。大学の大講義では寝ている先輩がいたり、スマホをいじっている先輩がいたりしてびっくりしたなど(笑)。ただそれは、前の方で熱心に聞いている人がいるので、授業が悪いわけではなく、先生が悪いわけでもないんです。そこで、自分の希望する大学でしっかりと目的意識をもたないとだめだな、ということに気付いてもらえればいいと思っています。

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イケダ:リアルな反響ですね(笑)具体的な話なんですが、3年生の参加が多いんでしょうか?

川原:はい、3年生が約5〜6割を占めていますね。全体でいうと去年一年で、延べ600人くらいが参加しました。担任の先生から勧められる高校生が多いみたいです。

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開催は、春のゴールデンウィーク、海の日、体育の日、勤労感謝の日、県民の日、都民の日など、祝日月曜日の授業日が多いです。

イケダ:いろんな日程で開催されているんですね。現在WCVにはどのくらいの大学数が参加しておられるんですか?

川原:去年は21校で開催しました。来年新しく実施予定の大学は現段階で11校、調整中で20〜30校くらいですね。偏差値でいえば上は京大から地方大学まで様々な大学に参加して頂いています。


多様化・複雑化が進む大学

イケダ:背後にある問題についてもっと詳しく聞きたいのですが、入学後のミスマッチが起こる理由はどこにあると考えていますか?

川原:この社会の流れのなかで、大学の役割が多様化していると思っています。そのなかで、大学側がそのニーズに付いていけていなかったり、受験する側も大学に求めるものを誤ってしまったりすることでそのようなミスマッチが起こると考えています。

イケダ:「大学の多様化」ですか。言われてみれば、今はいろんな大学のかたちがありますもんね。

川原:問題は大きくわけて2つあります。ひとつは大学進学率が上がっていくと、これまでとは違って、様々な人たちが入ってくるわけです。その上で、研究機関、教育機関がどんな役割を果たしていくかということを考え、社会の要請にこたえていく必要があります。

もうひとつは、社会に求められる人材の要求が高くなっているということです。これからの時代には、コンピューターができないような、高いレベルの仕事をしていく必要があります。大学教育がその状況に追いついているかというと、必ずしもそうとはいえない現状です。


偏差値重視から脱却するために

川原:NEWVERY自体が大学向けの教育そのものを良くするための取り組みをやっていました。そちらがスタートだったんですが、大学教育の質向上にコストを割いても結局受験生が集まらないでしょう、となって改革が進まないんですよね。

大学は学生を集めることがミッションになっていくので、受験者側が賢い消費者になって、きちんと評価していけるようにならないと適切な競争原理が働いていかないと思っています。結果的に大学そのものを変えていき、それが評価されるマーケットを作っていくことが必要になってくると思います。

イケダ:これまでの偏差値重視だった評価軸からどう脱脚して、適切な競争原理にもっていくか…具体的にはどういった解決策がありえるんでしょうか。WCVはもちろんそのひとつだとは思いますが。

川原:難しい問題ですが、根本的な価値観を変えて「自分のものさし」で選べるようにしていかないといけないでしょうね。どんなに偏差値が高くても、自分がその授業についていけなかったら意味がないですし、大学名だけでは意味がない時代なので、低偏差値でも自分を伸ばしてくれる大学を選んだ方がいい、という啓蒙活動が必要だと考えています。

私自身が新卒採用のコンサルティングをやっていたんですが、就職活動でも同じことが起こっています。やはりどうしても大企業や上場企業を優先的に選んでしまいがちなんですよね。大学選びで自分のものさしができれば、就職活動においては自分に合った企業を自分のものさしで選ぶことができるんじゃないかと思っています。

イケダ:実際に、WCVを通して大学選びが偏差値重視じゃなくなっているデータみたいなものってあるんですか?

川原:アンケートやインタビューのような定性データであれば出ています。高校生のコメントでいうと「偏差値でしか見ていなかったけれど、人間的に魅力が高まるような大学を選びたい」、なんて声が来ていたりしますね。資格のようなものに囚われず、純粋に学問に興味を持てるかで学部を選びたい、と考えている方は少しづつ増えてきていると思います。

私自身このプログラムをやっていて感じるのが、高校生のポテンシャルの高さです。ある高校一年生が先生に言ったことなのですが、夏にオープンキャンパスに行って、秋にWCVに行ったら、「オープンキャンパスって誰でも行きたくなるようになっているんですね」、という感想を抱いていたのが印象的でおもしろかったですね。

イケダ:関連して、大学教育においては「FD(Faculty Development:大学の授業改革のための組織的な取り組み)」が行われていますが、実態ってどう考えていますか?

川原:活動のなかではそれが正しいやり方なのか疑問に思うことはありますね。2時間の講演会をやって、「それがFDです」という扱いだったり…。

あとはFDをやっていくというなかで分かったことなんですが、大学の授業改革をできる人材が、大学の中にも外にもほとんどいないんですね。これまで質の高いFDが提供されてこなったというのは背景としてあると思います。


高校の進路指導が抱える問題

川原:進路指導においては高校側の責任というのを感じています。高校も学生募集にこだわっているので大学への進学実績で評価されていますよね。たとえば「MARCH、早慶◯人合格」みたいな。

イケダ:高校は高校で、そういうメカニズムがあるんですねぇ。

川原:私自身、田舎の進学校だったんですが、そこでは「国公立大学に進学する」というのがすべての価値観での評価だったんですね。当時は開発経済学を勉強したかったので、進路指導を受けた時に「中央大学の総合政策学部に行きたい」と言うと、「六大学以上じゃないと東京に行ったら遊んじゃう」と担任に言われて…(笑)

イケダ:なんですかそれ、そもそも「六大学」って野球の話ですよね(笑)

川原:はい(笑)そういった自分の原体験はありますね。地方の先生と話すと国公立至上主義はやはりあって、なかには疑問を持っている方もいます。それで結局押し込んで、辞めてしまった生徒と向き合ってジレンマに苦しむ方もいらっしゃいますね。本人だけの責任かというと、そうではなくて大人の利害が絡んでる場合も多いです。

イケダ:複雑ですね。悪者がいるというわけではなく、誰もがそれなりに合理的に判断した、大学選びに失敗する子どもたちが出てくると…。

川原:中学から高校は親身にケアしてくれますが、大学の場合は、高校の先生が「卒業生がどのくらい辞めないで続けているか」、「ちゃんと勉強しているか」といった情報を知りたくても出してくれません。

本当はある程度学力に問題があったり中退のリスクがあっても、お互いに情報を隠したままになってしまっているケースが多いんですよね。

一度、通信制サポート校の方とお話をしたのですが、高校大学間でしっかり情報共有ができるとお互いに何をしてあげられるかを考えられるし、大学の方に伝えられるという利点があるなと感じました。

イケダ:なるほど、しっかりとした情報共有を行っていく必要はありそうですね。

川原:まずはWCVを全国の全大学に広げることがミッションだと思っていますが、その先にリアルな高校大学間の接続を考えていきたいと思っています。

イケダ:最後に下世話な話ですけど、WCVのお金の巡りはどうなっているんですか?

川原:モデルとしては大学の方々の協同組合、ネットワークをつくり上げるという扱いにしています。そこで会員費を会員から頂いているかたちです。WCVというブランド、やるノウハウ、告知のプラットフォームを大学側に公開するという仕組みですね。私たちがコーディネートをするのはキリがないので、大学の方々に自立的に運営してもらうようにサポートしています。


「NPOで働く」って実際どう?

イケダ:川原さん自身のキャリアについてお聞かせください。

川原:WCVをはじめたのが1年くらい前です。それまでは4年くらいサラリーマン生活をしていました。周りの人には「波瀾万丈だ」と言われるんですが、新卒で入った会社がいきなり分割されちゃったんですよ。

別れる側の会社で2年勤めて、その後、人材研修系の社員5人くらいの小さな会社に入りました。

が、入って一ヶ月で社長さんが病気で倒れてしまって…。それで辞めざるをえなくなって、一ヶ月くらい無職で「どうしよう」となったときに、思い切ってNPOで働こうと思ったんです。

もともと社会人2年目のときから「夢職人」のボランティアをやっていた経験も活かせるかな、と思って。

イケダ:そういった経緯なんですね。実際、NPOで働くのはどうですか?

川原:NPOで働くようになってから、「NPOで働きたいんだけど」という相談をよく受けるようになりました。そこで話しているのは、うちは事業型なので会社と変わらないんですよ、ということですね。

イケダ:確かに。NEWVERYは普通に収益事業を行っているNPOなので、寄付を集めてサービス提供するNPOとはまた違いますよね。

川原:企業との比較でいえば、NPOは存続することに執着がないのがいいと思っているんです。企業は存続して社員を守らないといけない、というところで第一に利益を考えなくてはいけないじゃないですか。

私はひたすら理念を追い求めたいというタイプだったんです。NPOは社会課題を解決して解散するのがゴールと言われていますし、必要なくなったらそれでいいじゃん、というくらいが気持ちいいな、と思っていますね。

本当にラッキーな時代になったな、と思っています。理事長の山本とか、夢職人の岩切さんとか、先人たちがアルバイトをしながらなんとか組織を立ち上げてきた歴史があって、今は雇ってもらえる立場で入れるようになったので。

イケダ:NPOの中途、新卒の求人は実際増えていますよね。

川原:イケダさんも同世代ですが、私たちの世代がジョインしていって事業として拡大させていくというフェーズにしていきたいですよね。

イケダ:まさに。いわゆる第二新卒の方なんかに、もっともっと関わってもらいたいですね。

川原:ただ、うちでも中途募集はなかなか集まりませんね。応募はそれなりには来るんですが、「事業をつくりたい」、「チャレンジしたい」というより、社会福祉的なニュアンスで来られる方が多いようです。困っている人を助けたい、みたいな人が多くて中には併願先は市役所だったり。

イケダ:どちらかといえば起業家っぽい人が理想ですよね。ベンチャーみたいなものですから。

川原:NPOは就職先として認知されるのは大切ですが、どういう就職先かというブランドまで作っていくのが大切なんでしょうね。


というわけで、教育に関わる方はぜひチェックしていただきたいWCV。これからの「当たり前」をつくる、すばらしい活動です。

高校生の進路発見プログラム | WEEKDAY CAMPUS VISIT(ウィークデー・キャンパス・ビジット)

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