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ウクライナ危機、存在感を見せたメルケル独首相に対して、なぜ安倍首相の影は薄いのか?

僕はウクライナの首都、キエフを訪れたことがある。1965年、まだソ連時代のことだ。街の建物には趣があふれ、家々の庭先には花々が植えられていた。美しくて豊かな街だ、というのが僕の印象だった。

そのキエフで昨年末から騒乱が続いている。大統領退陣を求めるデモが繰り広げられた。次第に動きは過激になっていき、年が明けた2月には治安部隊と衝突、ついに75人の死者を出したのだ。あの美しく平和だった街を知る僕は、少なからずショックを受けた。

その後、犠牲者の数はさらに増えていったが、親露派だったヤヌコビッチ大統領は国外脱出し、EU寄りの新政権が樹立する。新しい国づくりが進むものと思われた。ところが、ロシア系の住民が6割を超える、ウクライナ南部クリミア自治共和国に、ロシアが軍事介入したのだ。3月16日には、クリミア自治共和国でロシア編入の是非を問う住民投票が行なわれた。この住民投票は、賛成が96.77%と圧倒的な多数を占める結果だった。

選挙でこのような一方的な数字が出るときは、だいたい怪しいものだ。たとえロシア系住民が6割を占め、少数民族が棄権した影響があったとしても、100%近くという数字には疑問が残る。不当な圧力がかけられたのは間違いない、と僕は思っている。この投票結果を受けて18日、ロシアのプーチン大統領が、クリミア自治共和国のロシア連邦への併合を宣言したのだ。

欧米諸国は当然、いっせいに批判の声をあげ、「制裁」へと動き出した。だが、ロシアとしては、「では、アメリカはじめ西側諸国はどうなのか」という気持ちだろう。アメリカは、イラクやアフガニスタンを侵攻しているのだ。アフガニスタンは国連決議があった。だが、イラクはアメリカ単独での軍事行動だ。そのような過去を棚にあげて、ロシアに対して「国際秩序を乱す」と批判しても、プーチン大統領は皮肉に笑うだけだろう。

そもそもクリミア自治共和国には、不凍港セバストポリがある。ここにはソ連時代からロシアは、海軍基地を持っていた。「凍らない港」は北国ロシアにとって、手放してはいけないものなのだ。

クリミア自治共和国を、ロシア編入という形にせず、ウクライナからの独立だけにする。そして、セバストポリにはこれまでと同じように基地を置く。このような形にすれば、欧米もここまで強硬な制裁へと動かなかったのではないか、と日本の多くの人は思っているだろう。だが、これはきっと国際情勢を見るうえでは甘い考えなのだ。いまの時代の国際社会は、食うか食われるかだ。同様に、日本政府も甘い考えのようだ。島国の宿命なのかもしれない。

プーチンと良好な関係を築いてきた安倍首相が、クリミアの問題でどのような立ち回りを見せるか注目だ、と以前、僕は書いた。だが、いまのところ政府の動きは、パッとしないようにみえる。

一方、ドイツのメルケル首相である。実はメルケル首相は、プーチンとの距離が近い。プーチン大統領はドイツへの留学経験があり、メルケル首相と親交があったといわれる。また、メルケル首相は旧東ドイツ出身だ。当然、ソ連との交流もあり、ロシア語も堪能である。

3月2日、メルケル首相はプーチン大統領と電話会談した。欧州安全保障協力機構(OSCE)監督のもと、クリミア情勢を調査するグループを立ち上げることで合意。その後、ロシアに対する強い警告も発表している。大変な存在感を示しているのだ。

対する安倍首相はどうか。メルケル首相と比べると、どうしても影が薄い印象をもってしまうことは否めない。もちろんドイツはEUに加盟する当事国だから、危機意識の持ちかたが違う。だが、そもそも日本は、食うか食われるかという外交の駆け引きに弱い国柄なのではないか、と、僕はどうしても考え込んでしまうのである。

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