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「赤ちゃんはものすごく太っていた」 北朝鮮で暮らす孫娘一家と対面した横田夫妻の記者会見(詳報)

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北朝鮮による拉致被害者の横田めぐみさんの両親、滋さんと早紀江さんが3月中旬、モンゴルのウランバートルで、めぐみさんの娘であるキム・ウンギョンさんと面会した。その場には、ウンギョンさんの子どもだという生後10カ月の赤ん坊もいて、横田夫妻はひ孫との対面も果たすことになった。それを受けて、横田夫妻は3月24日、東京・有楽町の外国特派員協会で記者会見を行い、面会時の喜びや今後の日朝交渉への期待を語った。その発言内容を詳しく紹介する。(取材・構成:亀松太郎/吉川慧)


「本当に夢のような感じだった」

横田滋さん:3月10日から14日までの5日間、モンゴルのウランバートルに行って、ウンギョンさんの家族と面会することができた。北朝鮮が2002年に拉致を認めたとき、めぐみはすでに死亡していると伝えられた。そして、小さな女の子だったウンギョンさんがテレビに現れて、「おじいちゃん、おばあちゃんに会いたい」と。そのときは、もし北朝鮮に会いに行くと、めぐみの夫が出てきて「めぐみはもう死にました」ということを言われて、それで終わりになると思ったので、北朝鮮に行くことはしなかった。

めぐみが拉致されてから、今年で37年目。今年の誕生日で、めぐみは50歳になる。2004年の日朝交渉のとき、めぐみの遺骨とされるものが提供されたが、それを新潟県警にDNA鑑定してもらったところ、めぐみとは別人のものだった。そういうことで、めぐみが生存している可能性は強いと思っている。

いま、被害者の家族で、夫婦とも残っているのは、私どもと有本さん夫妻だけ。一番若いのが早紀江で、私が2番目に若いが、もう81歳。あまり長く待っていると、こちらのほうが死亡してしまう恐れもある。そこで、今回行くことに踏み切った。

横田早紀江さん:今回のことは思いがけない急展開というか、こんなに早く会えるとは思っていなかったことが実現した。15歳のときに「おじいちゃん、おばあちゃん」と叫んでいた女の子が、もう26歳になって、本当に良いお母さんになっていた。私たちは「どんな風に暮らしているのかな」と、めぐみとウンギョンちゃんのことをいつも心配していたが、健康的で元気な様子で、顔色も良かった。

そして、(横田夫妻のひ孫とされる)赤ちゃんは、めぐみもそうだったが、ものすごく太っていた。生後10カ月と言っていたが、11kgもあるというのはちょっと信じられないぐらいの重さだった。もっと小柄な赤ちゃんだと長く抱っこできたが、それでなくても肩が痛くて動かないので、ほんのちょっとだけ抱っこした。ニコニコ笑ってなついてくれて、本当に夢のような感じだった。

だけど、そのような喜びの中にも、一番根源的な拉致問題ということが控えている。めぐみだけでなく、たくさんの人が死亡宣告をされ、多くの人がまだ見つけ出してもらえないで、あちらの国で助けを求めているということは、いつも思っている。北朝鮮が今後どんな形で出てくるのかというのが問題だが、私たちの対面は政治色抜きだった。祖父母と孫、そしてひ孫が対面するという大きな喜びを感じさせていただいたという意味では、本当に大きな意義のあったことだと思っている。

― 今回は個人的な面会で、政治的な話は抜きということだったというが、政府高官や担当者などの関わり方はどういうものだったのか。北朝鮮側の政府高官と接触することもあったのか。なにか北朝鮮側のほうで状況を改善したいという意図を感じることはあったか。

滋さん:日朝双方とも外務省の方が付き添いで来ていた。面会したのは5階建てぐらいの大きなビルで、私どもは3階、北朝側・ウンギョンさん側は4階に分かれていた。食事の時間は3回あったが、そこは気を利かせてくれて、外務省の人と一緒に食事をしたことはない。

通訳の方がいて、北朝鮮側は男の人で、ウンギョンさんなんかが話したことを我々のほうに伝えてくれた。日本側は外務省の北東アジア課の方が通訳をかねて一緒に食事をしてくれた。こちらから向こうに話をしたり、質問があった場合は、その人が間に立ってくれるが、一番上の人とは接触していない。先方はチャーター機に乗って来ていたので、偉い人が来ているなとは思ったが、そういった方との接触は特になかった。

ウンギョンさんはピンクのきれいなチマチョゴリを着てきて、我々の前に座ってお辞儀をし、帰るときもこれに着替えて見送ってくれた。モンゴルは野菜が少ないということで、自分たちの飛行機で野菜を積んできて、自分で調理をして、我々に食べさせてくれたことも1回あった。政治的なことはなかったが、きめ細かく接待をしてくれた。我々も赤ちゃんの薬を持っていったりした。

「ウンギョンさんの主人はまじめな感じの人だった」

―報道によると、面会にはウンギョンさんの旦那さんも同席したということだが、旦那さんが口をはさむようなことはあったか。どんな表情だったのか。

早紀江さん:ウンギョンさんがまず言ったのは、「日本ではなぜヘギョンと呼ばれるのか。私は最初からウンギョンという名前なのに」ということ。「これからはウンギョンと言ってください」と訂正があった。

ウンギョンさんの主人という人と、ひ孫にあたる太った女の子。その3人がいつも一緒だった。主人という人は細い方で、非常にまじめで、優しい感じの男性。小柄な方だが、とても仲が良くて、赤ちゃんを大事にしていた。むずったりすると、抱っこして、「小さいときは、お風呂も自分で入れたんですよ」という話とかをしていた。「めぐみの小さいときとよく似たところがありますね」とか、普通のどこの家でも話すような話をした。政治色は全くなかった。そういう話を通訳の人を入れながら、和やかにお話させていただいた。ウンギョンさんの主人は、まじめな感じの、スキッとした感じの男性だと思った。

―ウンギョンさんは、北朝鮮で幸せな生活を送っているという印象だったか?

早紀江さん:「めぐみや他の方もそうだが、あなた方がどんな生活をしているのか、いつも思い巡らして心配していました」ということを話したら、主人という人が「北朝鮮にないものは何もありません」と言っていた。カバンの中から日本のアメを出したりして、「なんでもあります。ないものはありません」と言われて、「ああ、そうなんですか」とびっくりしました。顔色も良く 元気に明るく、屈託のない感じで生活していることを目の当たりにして、うれしく思った。

「日本に帰ってない人もいますが、せめてあなた方ぐらいのレベルで、満ち足りたような生活ができていれば、私たちはどんなにうれしいかと思います」と伝えた。ただ、そういう話はちょっとデリケートな話になるので、「やっぱり言わないほうがいいんだな」と思った。「うまく話ができなくなるといけないな」と思って、あとは普通のおじいさん、おばあさんと孫という感じの気楽な話を楽しくするようにした。

―今回の面会で、めぐみさんについて何か新しい情報を入手できたか?

早紀江さん:まったくできなかった。私たちはそれを一番願っていて、小さなことでも見逃さないで、感覚的に何かつかめないかという思いでいたが・・・。孫といっても、やはり向こうで育った人なんだという感覚があり、何から何まで日本の思いをぶつけて言うのは難しいという感覚があった。

私は「(めぐみが)生きていると信じています」とはっきりと言って、帰るときも「希望を持ちましょうね」と伝えた。向こうはわからなかったと思うが、にこやかに涙ぐんで、手を握りしめて別れてきた。「絶対、希望を捨てないでください。私も希望を持ってやってきて、こうやって会えたのだから。必ず希望をもって頑張りましょう」という言い方をして帰ってきた。ただ、拉致被害者のことは全く出せない感じだったし、わからなかった。

滋さん:私はそういうことを一切聞かなかった。面会するにあたって、(ウンギョンさんたちが)「こんなことをしゃべったら、だめですよ」と言われていると思った。そういうことを聞けば答えなければならなくなると思ったので、それについては一切質問しなかった。

―ウンギョンさんの存在が出てきたときは、DNA鑑定をした。今回会ったひ孫とは、DNAに関して調べたりする作業はあったのか?

早紀江さん:それはない。小さい赤ちゃんのDNAははっきりしていないことが多いので、そういうことはしていない、という話があった。

―ウンギョンさんから、お母さん、つまり、めぐみさんの思い出に関する話はあったか?

早紀江さん:歯の話が出た。私の歯について「自分の歯ですか」と聞かれたり。ウンギョンさんは「お母さんは歯が弱くて、いつも歯医者さんに通っていた」と話していた。「赤ちゃんも、小さなときから歯を大事にしないと大変よね」という話をした。めぐみは昔から猫や動物が好きだったが、猫がいたという話もあった。「私に対して特別、歌ってくれたというようなことはなかったけど」という話もあったが、あまり細かいことは話さなかった。

生死の問題は出しにくいタブーだし、向こうもしっかり教えられているだろうから、その話をすると非常に心をかき乱すことになると思ったので 「絶対、みんな元気だよ」と気楽な感じで流すようにした。ウンギョンさんは、不思議そうな感じで聞いている感じだった。

「北朝鮮での暮らしを続けてきた26歳の女の子」

―はじめてウンギョンさんの存在を知ったときにはまだ15歳だった。今回お会いになったときは26歳になっていた。その間に連絡はなかったのか?

早紀江さん:まったくない。どこから来るのか判らないニュースを通じて、金日成大学のコンピューター科で勉強しているという噂や、結婚したようだという噂を聞いたりすることはあったが、そのほかのことはわからなかった。

―ウンギョンさんは北朝鮮の中で育った人だが、日本のバックグラウンドをもつような人というか、日本と全く縁のない他の北朝鮮の人と違う雰囲気があるという感じはしたか?

早紀江さん:日本人の血がつながっているとか、日本人の感覚ということは、考えている余裕があまりない感じだった。ある意味、緊張した、ちゃんとした会見でなくてはいけないという思いを持っていた。向こうが(北朝鮮に)帰ってからいろいろなことが起きないように、言葉に気をつけなければならないだろうと思ったりしながら、せっかくの水入らずの時間だからとふだんのように笑ってすごした。向こうも大きな声をあげてワハハと笑って楽しく過ごしてくれた。そういう意味では良い対面だったと思う。細やかなところはわからなかった。あちらでの暮らしを続けてきた26歳の女の子だと見てあげなければいけないと思いながら、親しくさせていただいた。

―ウンギョンさんの旦那さんを含め、普段の生活はどんな暮らしか。旦那さんや本人が仕事をしているか。言葉の端々や仕草から「こういう風に暮らしている」と、なんとなくうかがえたことがあったか。

滋さん:あまり話さなかったが、夫は、金日成総合大学、日本で言えば東大のようなところのコンピューター学科を出ていて、ウンギョンさんは後輩だったという。仕事の内容は話してないが、自宅から歩いて10分のところに勤めているそうだ。あまり細々としたことは話さなかったが、特別待遇を受けているということは聞かなかった。

―一日のうち何時間ぐらい一緒にいたか。その間、建物の外を散歩するようなことはあったか。

早紀江さん:あちらの家族は4階に部屋があり、3階に私たちの部屋があった。私たちも老人なので、旅は疲れるが、今回は特に疲れた。向こうは初めての飛行機だったと思うが、赤ちゃんを連れての旅は大変だったと思う。両方とも疲れていた。いつも一緒にいると、ものすごく疲れてしまうので、赤ちゃんが昼寝をしたときは「ねんねさせたほうが良い。みなさん休んでください」と言って、私たちも部屋に戻って、その間は椅子に座って、ほっこりした感じで休ませていただいた。

一緒にいたのは、2階の食堂で食事をしたとき。みんなで座って食べながら、気楽に話をした。赤ちゃんは元気な女の子で、歩行器にのって、ダーッと首をふりながら明るく走り回って、いろいろなものに触りながら興味深く遊んでいたので、十分に気楽な話ができた。食事のときに話をすることが多くて、あとはお互い休んでいた。

―写真を撮ったということだが、北朝鮮の公式カメラマンが撮ったのか。

滋さん:カメラで撮影したが、記録に残すということは喜んでいない。自分の子どもを写したり、我々を写したり。こちらも赤ちゃんを写したり、ウンギョンさんを写したりしたが、本人があまり喜ばない。

早紀江さん:「写真を外に出さないでほしい」ということが約束だった。別に変な写真はなく、私たちは自由にしたいと思っているが、あちら側のこともある。時期がくれば、みなさんにも見ていただけると思う。「今のところは静かにしておいてください」と言うことなので、そのようにしている。

外に出たのは一回だけ。私たちが車に乗せてもらって、モンゴルの、いままで行ったことのない珍しい風景のところに車で連れて行っていただいた。向こうの方は「小さい子がいるし、外には出ません。疲れるから」ということで、私たちが一回だけ、そのようにしていただいた。

―最近、国連の人権委員会で、北朝鮮の人権問題について報告書を出した。国連が人権という観点からアプローチしていることについて、何か効果があると思うか。

早紀江さん:たまたま、私たちの対面と国連の人権委員会の大きな会合がよく似た時期におこなわれたことは、不思議なことだなと思う。向こうは「孫と祖父母との対面は、人道的な立場でやっているんだ」ということを強調しているが、そんなことは当たり前のことであって、わざわざ口に出さなくてもいいようなこと。どこの国でも平和であればごく自然なこと。そういうことがなぜこんなに大変なことにならなければならないのか。

そういうことは、国連の人権委員会での発言や飯塚さんも言ってくれたが、もっと大変な人権問題が存在しているということを、世界中の方がわかってくれたと思う。この時期に国連の人権委員会で、北朝鮮の人権問題について多くの国々が声をあげてくれたのは、私たちにとってありがたいこと。北朝鮮にも、本当の自由というのはどんなに素晴らしいものか、血の通った者が会うのにどうしてこんなに大変な思いをしなければいけないのかということを、知っていただきたいと思う。

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