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EUの「資源外交」を巡る戦略とその矛盾(前編) - 鈴木一人

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第二に、すでに2009年の段階で電力市場の自由化を進めることが決定されているにもかかわらず、デンマークを除くすべての加盟国がEU規則を遵守しておらず、中でもフランスやリトアニアのように、国営の電力会社が独占している国では、電力の自由化に対して後ろ向きな政策をとっている。その結果、サミットでは自由化の期限を先送りし、2014年までに自由化を完了し、EUの統一市場を形成することが合意された。

第三のテーマとして、シェールガスの問題が取り上げられた。シェールガスは地層に細切れに埋まっている天然ガスのことだが、このシェールガスを取り出す技術をアメリカが開発したため、シェールガスの埋蔵量が大きいアメリカでは、基幹エネルギーとしてシェールガスの活用が進められているほか、膨大な埋蔵量が確認されているため、天然ガス市場の価格も下落するという状態にある。これに刺激を受けて、ポーランドはシェールガスの開発に熱心な姿勢を見せており、このサミットでもシェールガスを将来性のある有効なエネルギーとして取り上げた。アメリカ同様、ヨーロッパ大陸にもシェールガスの鉱脈は点在しており、今後のEUのエネルギー政策の方向性を決めるのに重要な役割を果たすであろう。

そして最大の論点として挙げられたのが、対外政策であった。ここでは欧州委員会のエネルギー担当委員であるエッティンガーと、「EU外務大臣」であるアシュトンが加盟国の首脳に対し、エネルギー外交交渉の権限をもっと与えてほしいと訴え、北アフリカのDesertecプロジェクトと、EUが支援するナブッコパイプラインの建設への支援を求めた。しかし、EU各国首脳は対外交渉戦略について意見を一致させることができず、2011年6月までに欧州委員会がエネルギーの安定供給と国際協力に関する戦略的一貫性を高めた政策文書を出すことを求めるという結論しか出なかった。

これは激変する国際環境の中で、EU加盟国はそれぞれの立場を維持し、中東・北アフリカ情勢やロシアの大統領選挙の行方など、様々な不確定要素が多いなかで、EUに権限を移譲するリスクが大きいと判断した結果であろうと思われる。それだけに、各国は自国へのエネルギーの安定供給を確保するための権限を保持し、状況に柔軟に対応できるようにしておきたかったのである。

また、ロシアに対して、EUとして「ルールに基づく、透明性のあるパートナーシップを構築すること」を求めているが、これは、EUにロシアとの交渉の権限を一定程度付与することを認めつつ、その範囲をロシアとの間のルールの構築に限定している点が重要である。つまり、このエネルギーサミットでは、エネルギー安全保障の最終決定権は加盟国にありつつも、その環境を整える役割をEUに与えるという分業関係を明示化したものといえよう。

[*10]Simon Pirani, Jonathan Stern and Katja Yafimava, The Russo-Ukrainian Gas Dispute of January 2009: A Comprehensive Assessment, Oxford Institute for Energy Studies, February 2009
[*11]Peter Rutland, “Russia as an Energy Superpower”, New Political Economy, Volume 13, Issue 2, 2008, pp.203-210.
[*12]Daniel Freifeld, “The Great Pipeline Opera: Inside the european Pipeline Fantasy that Became a Real-life Gas War with Russia”, Foreign Policy, Sept./Oct. 2009. <http://www.foreignpolicy.com/articles/2009/08/12/the_great_pipeline_opera
[*13]European Commission, Energy 2020: A Strategy for Competitive, Sustainable and Secure energy, COM(2010) 639 final, Brussels, 10.11.2010
[*14]“Factbox: Main Results of EU Energy Summit”, Reuters, February 4, 2011. http://www.reuters.com/article/2011/02/04/us-eu-summit-energy-results-idUSTRE7134NC20110204
[*15]“EU Leaders to Dodge Energy Efficiency at Summit”, EurActiv.com, 3 February 2011. http://www.euractiv.com/en/energy-efficiency/eu-leaders-dodge-energy-efficiency-summit-news-501837


(後編)

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