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- 2014年03月28日 13:00
EUの「資源外交」を巡る戦略とその矛盾(前編) - 鈴木一人
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しかし、こうした状況を大きく変え、EUが統一的な資源外交を展開しなければならない状況になったのが、ロシアとウクライナの天然ガス供給を巡る危機であった。2005年3月に「オレンジ革命」の旋風に乗ってユーシェンコがウクライナの大統領に就任すると、反ロシア親欧州路線を取り、ロシアのプーチン大統領との関係が悪化していった。その結果、ロシアからウクライナに輸出されるガスの価格をこれまでの独立国家共同体(CIS)向け優遇価格から、国際市場の価格に準じた価格設定へと移行することをロシアが提案し、それをウクライナが拒否したことで、2006年1月からウクライナ向けガスの供給が停止され、ウクライナを経由して欧州に輸出されるガスの量も減少した。
このような状況からロシアからのガス供給に依存する欧州は、様々な政治的状況の変化においても安定してエネルギーを供給する体制を構築する必要に迫られるようになった。その時から、EUのエネルギー戦略が練られるようになる。その先駆けとなったのが、2006年3月6日に出された「持続的で競争力があり、安定したエネルギーに向けての欧州戦略グリーンペーパー」である[*5]。このグリーンペーパーとは、欧州委員会が新たな政策を打ち出す前にコンサルテーションのために提示するものであるが、ウクライナ経由のガス供給が止まった直後にこうした政策のたたき台が出されたことは、EUがいかにこの問題を深刻に受け止めていたかを明らかにしている。
このグリーンペーパーの問題意識は(1)外国へのエネルギー依存の増大、(2)エネルギー価格の高騰、(3)二酸化炭素排出削減目標との両立、(4)域内エネルギー統合市場の未完成といった点にあり、これらを解決するために、6つの論点が示されている。
その第一は域内エネルギー市場の統合を通じて、経済成長と雇用をもたらすというものである。これは欧州の送電網を整備し、電力の自由化を促進し、欧州のエネルギー産業の国際競争力を強化することで経済成長と雇用が増加するという政策オプションを提示している。これは、各国が独占的な権限をもち、多くが国有企業によって運営されている電力市場を開放し、規制緩和を進めることで経済発展を目指すとともに、加盟国が保持する権限をEU(欧州委員会)に移転するという権力関係の変化を求めるものである。
第二の論点は、加盟国間の連帯を強化し、エネルギーの安定供給を図るというものである。ここでは、電力インフラの共同整備やIEA(国際エネルギー機構)などのマルチ外交の場におけるEU共通の立場の確立、またそのためのEU全体のガス備蓄量の公表といったことが含まれている。第三の論点はガスによる発電の依存度を減らすためのエネルギーのベストミックスの追求、第四の論点は欧州の気候変動への対応との連動したエネルギー戦略の構築、すなわち再生可能エネルギーの導入、エネルギー効率性の向上といった化石燃料の使用量の削減、第五の論点は欧州における、熱核融合などを含むエネルギー関連の研究開発の推進、そして、最後の第六の論点として、対外的なエネルギー政策の一貫性の確保が論じられている。
特に、本稿の関心から言えば、第六の論点を若干詳しく見ていく必要があるだろう。ここでは、まずEUの対外的なプレゼンスが低いのは加盟国が一致したエネルギー戦略をもたないことに原因があるとして、EUと加盟国が「対外エネルギー政策」を共同して構築することが求められている。そのためには、域内のエネルギー事情の調査を行い、データに基づいて戦略を作ることから着手することが呼びかけられている。
そのうえで、EUに必要なエネルギー・インフラ、とりわけ石油・ガスのパイプラインとLNGのターミナルの建設が重要として、カスピ海沿岸、北アフリカ、中東との関係を調整していくことの重要性が論じられている。また、ウクライナやトルコなど、域外のエネルギー経由国がエネルギーの安定供給のためにはカギとなるとして、これらの国々とエネルギー供給国との関係も含め、外交的な関係を強化することが必要とされている。
そして、エネルギー供給国との対話を推進することが求められている。とりわけ問題となるのがロシアであり、EUとロシアの新しいイニシアチブが必要であり、EUはロシア産ガスの最大の購入者として対等な立場で交渉しなければならないとくぎを刺している。また、欧州近隣諸国に対しては、EUの規制やスタンダードを導入させ、市場の調和や環境規制などで価値観の共有が必要として、北アフリカ諸国、ウクライナ、トルコ、カスピ海、地中海諸国と結んだ、汎欧州エネルギー共同体(Pan-EUropean Energy Community)の構築を目指そうとしている。
また、環境問題やエネルギー効率化、研究開発などの分野と連動した対外政策を展開する必要性が論じられ、とりわけ2005年からEUで実施されることになった排出権取引システムを対外的に拡大していくことが、EUのエネルギーの安定供給に貢献するとしている。さらに、WTOルールなど自由貿易の枠組みを通じて、エネルギー経由国における差別的な対応を防止し、エネルギー貿易の安定化を図ろうとしている。
加えて、このグリーンペーパーをきっかけに、「欧州」と「EU」のずれを修正するための動きも起こった。「欧州」にはEUに加盟しないスイスやノルウェーなどが含まれるが、これらの国々はすでに「欧州経済圏(EEA)」という枠組みで協力しており、すでにエネルギー分野ではEUと一体化した関係にある。しかし、問題は今後EUに加盟する可能性のある、旧ユーゴスラヴィアを中心とするバルカン半島諸国であった。これらの国々はトルコなどの東からのパイプラインの経由国になる国で、これらの国々との関係を安定させることはEUにとっても重要な意味をもっていた。またバルカン半島諸国から見れば、将来EUに加盟するためにも、エネルギー経由国であるという強みを活かす必要があり、交渉の材料として用いることもあり得た。
そのため、EUは2006年に「エネルギー共同体条約(Energy Community Treaty)」をEU、アルバニア、ボスニア、クロアチア、マケドニア、モンテネグロ、セルビアとコソボとの間で締結し、エネルギー規制や安定供給に関する規則を定めた[*6]。また、2005年から始まった排出権取引にこれらの国々を含めることで、EUの排出権取引市場が拡大し、グローバルなスタンダードを作っていく足掛かりとした。これにより、EUはバルカン半島諸国がエネルギー経由国としての立場を乱用することを阻止し、EUの規制を適用し、ロシアなどのエネルギー供給国との交渉においてより多くの国の支持を得る形になったことで、「規制帝国[*7]」としてのパワーを高め、交渉力の強化へとつなげていった。
このグリーンペーパーは政策のたたき台であるがゆえに、幅広く問題提起を行い、それに対する政策アイディアを提供しており、その後のEUのエネルギー戦略の出発点となっているが、このペーパーで論じられた内容を検討すると、以下のような点が明らかになってくる。
その第一は、EUと加盟国の間での権限分割が決定的な問題であり、EUレベルでの政策を展開するためには、加盟国との連携強化が不可欠である、ということである。EUがグローバルな存在感を示し、資源外交を展開するためには「Speak with onevoice」でなければならず、それが実現しない限り、政策目標を達成することは困難であるとの認識が示されている。
第二は、環境政策との連動である。1990年代の京都議定書の交渉を通じて、EUは環境問題に関して強い権限を有するようになり、越境的な環境汚染や地球温暖化の問題についてはEUレベルで政策を策定していくことが加盟国の間でもコンセンサスとなっている。そのため、EUは環境問題とエネルギー政策を連動させ、EUが持つ高い環境技術をエネルギー供給国に提供することで、見返りにエネルギーの供給安定を図っている。ただ、こうした環境政策を通じた対応は、EU域内のエネルギー効率化、すなわち資源への需要を低下させることでEUが抱える脆弱性を排除するということが中心的な課題となり、資源外交における積極的なエネルギー獲得のための手段とはなっていない。
第三に、環境問題同様、EUが対外的な交渉力をもつ分野としてWTOや安全規制などの経済的ルールを交渉の基調としている点である。これもEUレベルに権限が移譲されている分野であり、欧州委員会としては加盟国の干渉を受けない政策分野であるため、政策の自由度が高いだけでなく、交渉の材料に乏しいEUとしては最強の武器となるものである。EUはエネルギー貿易にも自由貿易を適用し、国際的なルールに基づいて対応することを通じて、エネルギー供給国と対等な関係で交渉をし、他方で、EUが持つ巨大なエネルギー市場をテコにして、エネルギー供給の安定化や品質やサービスなどに関しては、EU域内市場のルールを適用し、それに合致させることを求める。こうした交渉術は他の分野でもみられるものであり、すでに筆者は別のところで、EUが国際交渉において他国に自国基準を押し付ける姿を「規制帝国」と名付けたが[*8]、資源外交においても、まさに「規制帝国」的な交渉を行っていこうとしていることが見て取れる。
このグリーンペーパーをたたき台として、2007年に作り上げられたのが『欧州のためのエネルギー政策(An Energy Policy for Europe)』である[*9]。ここではグリーンペーパーで設定した論点を踏襲しながら、若干の表現の変更や追加などなされているが、重要な変化として一点挙げられるのは、原子力政策に関する記述が追加されたことである。これは、一部の加盟国から温暖化対策としての原子力の重要性が指摘され、長期的なエネルギー戦略として、化石燃料への依存を軽減しながら、温室効果ガスの排出を減らすためには原子力は不可欠との立場を取ることとなった。しかし、原子力政策に関しては各国の隔たりが大きく、この政策文書の中でも、原子力利用に関しては各国が最終決定権を持つとし、EUの役割は原子力安全や核不拡散への対応、および使用済み核燃料の処分に関する調整にとどめられた。ここは加盟国がEU主導のエネルギー政策を受け入れつつも、加盟国の最終決定権を再確認し、加盟国間のエネルギー政策に対する格差が浮き彫りにされた。また、EUの役割は、その前身である欧州原子力共同体(Euratom)の持つ権限に限定されている点が興味深い。
[*5]Commission of the European Communities, GREEN PAPER: A European Strategy for Sustainable, Competitive and Secure Energy, COM(2006) 105 final, 8.3.2006. http://eur-lex.europa.eu/LexUriServ/LexUriServ.do?uri=COM:2006:0105:FIN:EN:PDF
[*6]興味深いのは、この決定はエネルギー政策の部局ではなく、EU拡大を担当する部局において行われた点である。Council Decision, Conclusion by the European Community of the Energy Community Treaty, 2006/500/EC, 29 May 2006. http://europa.eu/legislation_summaries/enlargement/western_balkans/l27074_en.htm
[*7]「規制帝国」の概念については、拙稿「『規制帝国』としてのEU」山下範久編『帝国論』講談社選書メチエ、2006年 1 月、44-78頁、および、拙稿「グローバル市場における権力関係:「規制帝国」の闘争」加藤哲郎・国廣敏文編『グローバル化時代の政治学』法律文化社、2008年 4 月、133-159頁を参照。
[*8]前掲書。
[*9]Commission of the European Communities, Communication from the Commission to the European Council and the European Parliament, “An energy policy for Europe”, COM(2007) 1 final, 10 January 2007 http://europa.eu/legislation_summaries/energy/european_energy_policy/l27067_en.htm
このような状況からロシアからのガス供給に依存する欧州は、様々な政治的状況の変化においても安定してエネルギーを供給する体制を構築する必要に迫られるようになった。その時から、EUのエネルギー戦略が練られるようになる。その先駆けとなったのが、2006年3月6日に出された「持続的で競争力があり、安定したエネルギーに向けての欧州戦略グリーンペーパー」である[*5]。このグリーンペーパーとは、欧州委員会が新たな政策を打ち出す前にコンサルテーションのために提示するものであるが、ウクライナ経由のガス供給が止まった直後にこうした政策のたたき台が出されたことは、EUがいかにこの問題を深刻に受け止めていたかを明らかにしている。
このグリーンペーパーの問題意識は(1)外国へのエネルギー依存の増大、(2)エネルギー価格の高騰、(3)二酸化炭素排出削減目標との両立、(4)域内エネルギー統合市場の未完成といった点にあり、これらを解決するために、6つの論点が示されている。
その第一は域内エネルギー市場の統合を通じて、経済成長と雇用をもたらすというものである。これは欧州の送電網を整備し、電力の自由化を促進し、欧州のエネルギー産業の国際競争力を強化することで経済成長と雇用が増加するという政策オプションを提示している。これは、各国が独占的な権限をもち、多くが国有企業によって運営されている電力市場を開放し、規制緩和を進めることで経済発展を目指すとともに、加盟国が保持する権限をEU(欧州委員会)に移転するという権力関係の変化を求めるものである。
第二の論点は、加盟国間の連帯を強化し、エネルギーの安定供給を図るというものである。ここでは、電力インフラの共同整備やIEA(国際エネルギー機構)などのマルチ外交の場におけるEU共通の立場の確立、またそのためのEU全体のガス備蓄量の公表といったことが含まれている。第三の論点はガスによる発電の依存度を減らすためのエネルギーのベストミックスの追求、第四の論点は欧州の気候変動への対応との連動したエネルギー戦略の構築、すなわち再生可能エネルギーの導入、エネルギー効率性の向上といった化石燃料の使用量の削減、第五の論点は欧州における、熱核融合などを含むエネルギー関連の研究開発の推進、そして、最後の第六の論点として、対外的なエネルギー政策の一貫性の確保が論じられている。
特に、本稿の関心から言えば、第六の論点を若干詳しく見ていく必要があるだろう。ここでは、まずEUの対外的なプレゼンスが低いのは加盟国が一致したエネルギー戦略をもたないことに原因があるとして、EUと加盟国が「対外エネルギー政策」を共同して構築することが求められている。そのためには、域内のエネルギー事情の調査を行い、データに基づいて戦略を作ることから着手することが呼びかけられている。
そのうえで、EUに必要なエネルギー・インフラ、とりわけ石油・ガスのパイプラインとLNGのターミナルの建設が重要として、カスピ海沿岸、北アフリカ、中東との関係を調整していくことの重要性が論じられている。また、ウクライナやトルコなど、域外のエネルギー経由国がエネルギーの安定供給のためにはカギとなるとして、これらの国々とエネルギー供給国との関係も含め、外交的な関係を強化することが必要とされている。
そして、エネルギー供給国との対話を推進することが求められている。とりわけ問題となるのがロシアであり、EUとロシアの新しいイニシアチブが必要であり、EUはロシア産ガスの最大の購入者として対等な立場で交渉しなければならないとくぎを刺している。また、欧州近隣諸国に対しては、EUの規制やスタンダードを導入させ、市場の調和や環境規制などで価値観の共有が必要として、北アフリカ諸国、ウクライナ、トルコ、カスピ海、地中海諸国と結んだ、汎欧州エネルギー共同体(Pan-EUropean Energy Community)の構築を目指そうとしている。
また、環境問題やエネルギー効率化、研究開発などの分野と連動した対外政策を展開する必要性が論じられ、とりわけ2005年からEUで実施されることになった排出権取引システムを対外的に拡大していくことが、EUのエネルギーの安定供給に貢献するとしている。さらに、WTOルールなど自由貿易の枠組みを通じて、エネルギー経由国における差別的な対応を防止し、エネルギー貿易の安定化を図ろうとしている。
加えて、このグリーンペーパーをきっかけに、「欧州」と「EU」のずれを修正するための動きも起こった。「欧州」にはEUに加盟しないスイスやノルウェーなどが含まれるが、これらの国々はすでに「欧州経済圏(EEA)」という枠組みで協力しており、すでにエネルギー分野ではEUと一体化した関係にある。しかし、問題は今後EUに加盟する可能性のある、旧ユーゴスラヴィアを中心とするバルカン半島諸国であった。これらの国々はトルコなどの東からのパイプラインの経由国になる国で、これらの国々との関係を安定させることはEUにとっても重要な意味をもっていた。またバルカン半島諸国から見れば、将来EUに加盟するためにも、エネルギー経由国であるという強みを活かす必要があり、交渉の材料として用いることもあり得た。
そのため、EUは2006年に「エネルギー共同体条約(Energy Community Treaty)」をEU、アルバニア、ボスニア、クロアチア、マケドニア、モンテネグロ、セルビアとコソボとの間で締結し、エネルギー規制や安定供給に関する規則を定めた[*6]。また、2005年から始まった排出権取引にこれらの国々を含めることで、EUの排出権取引市場が拡大し、グローバルなスタンダードを作っていく足掛かりとした。これにより、EUはバルカン半島諸国がエネルギー経由国としての立場を乱用することを阻止し、EUの規制を適用し、ロシアなどのエネルギー供給国との交渉においてより多くの国の支持を得る形になったことで、「規制帝国[*7]」としてのパワーを高め、交渉力の強化へとつなげていった。
このグリーンペーパーは政策のたたき台であるがゆえに、幅広く問題提起を行い、それに対する政策アイディアを提供しており、その後のEUのエネルギー戦略の出発点となっているが、このペーパーで論じられた内容を検討すると、以下のような点が明らかになってくる。
その第一は、EUと加盟国の間での権限分割が決定的な問題であり、EUレベルでの政策を展開するためには、加盟国との連携強化が不可欠である、ということである。EUがグローバルな存在感を示し、資源外交を展開するためには「Speak with onevoice」でなければならず、それが実現しない限り、政策目標を達成することは困難であるとの認識が示されている。
第二は、環境政策との連動である。1990年代の京都議定書の交渉を通じて、EUは環境問題に関して強い権限を有するようになり、越境的な環境汚染や地球温暖化の問題についてはEUレベルで政策を策定していくことが加盟国の間でもコンセンサスとなっている。そのため、EUは環境問題とエネルギー政策を連動させ、EUが持つ高い環境技術をエネルギー供給国に提供することで、見返りにエネルギーの供給安定を図っている。ただ、こうした環境政策を通じた対応は、EU域内のエネルギー効率化、すなわち資源への需要を低下させることでEUが抱える脆弱性を排除するということが中心的な課題となり、資源外交における積極的なエネルギー獲得のための手段とはなっていない。
第三に、環境問題同様、EUが対外的な交渉力をもつ分野としてWTOや安全規制などの経済的ルールを交渉の基調としている点である。これもEUレベルに権限が移譲されている分野であり、欧州委員会としては加盟国の干渉を受けない政策分野であるため、政策の自由度が高いだけでなく、交渉の材料に乏しいEUとしては最強の武器となるものである。EUはエネルギー貿易にも自由貿易を適用し、国際的なルールに基づいて対応することを通じて、エネルギー供給国と対等な関係で交渉をし、他方で、EUが持つ巨大なエネルギー市場をテコにして、エネルギー供給の安定化や品質やサービスなどに関しては、EU域内市場のルールを適用し、それに合致させることを求める。こうした交渉術は他の分野でもみられるものであり、すでに筆者は別のところで、EUが国際交渉において他国に自国基準を押し付ける姿を「規制帝国」と名付けたが[*8]、資源外交においても、まさに「規制帝国」的な交渉を行っていこうとしていることが見て取れる。
このグリーンペーパーをたたき台として、2007年に作り上げられたのが『欧州のためのエネルギー政策(An Energy Policy for Europe)』である[*9]。ここではグリーンペーパーで設定した論点を踏襲しながら、若干の表現の変更や追加などなされているが、重要な変化として一点挙げられるのは、原子力政策に関する記述が追加されたことである。これは、一部の加盟国から温暖化対策としての原子力の重要性が指摘され、長期的なエネルギー戦略として、化石燃料への依存を軽減しながら、温室効果ガスの排出を減らすためには原子力は不可欠との立場を取ることとなった。しかし、原子力政策に関しては各国の隔たりが大きく、この政策文書の中でも、原子力利用に関しては各国が最終決定権を持つとし、EUの役割は原子力安全や核不拡散への対応、および使用済み核燃料の処分に関する調整にとどめられた。ここは加盟国がEU主導のエネルギー政策を受け入れつつも、加盟国の最終決定権を再確認し、加盟国間のエネルギー政策に対する格差が浮き彫りにされた。また、EUの役割は、その前身である欧州原子力共同体(Euratom)の持つ権限に限定されている点が興味深い。
[*5]Commission of the European Communities, GREEN PAPER: A European Strategy for Sustainable, Competitive and Secure Energy, COM(2006) 105 final, 8.3.2006. http://eur-lex.europa.eu/LexUriServ/LexUriServ.do?uri=COM:2006:0105:FIN:EN:PDF
[*6]興味深いのは、この決定はエネルギー政策の部局ではなく、EU拡大を担当する部局において行われた点である。Council Decision, Conclusion by the European Community of the Energy Community Treaty, 2006/500/EC, 29 May 2006. http://europa.eu/legislation_summaries/enlargement/western_balkans/l27074_en.htm
[*7]「規制帝国」の概念については、拙稿「『規制帝国』としてのEU」山下範久編『帝国論』講談社選書メチエ、2006年 1 月、44-78頁、および、拙稿「グローバル市場における権力関係:「規制帝国」の闘争」加藤哲郎・国廣敏文編『グローバル化時代の政治学』法律文化社、2008年 4 月、133-159頁を参照。
[*8]前掲書。
[*9]Commission of the European Communities, Communication from the Commission to the European Council and the European Parliament, “An energy policy for Europe”, COM(2007) 1 final, 10 January 2007 http://europa.eu/legislation_summaries/energy/european_energy_policy/l27067_en.htm



