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「ネットでシッター」で焦点があたる「保育士」の資格。「准保育士」導入は安易にすべきではない

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授業料や寮費なども、「奨学金」などとして貸し付けられる。

経済的に貧困でも資格を取るために学ぶことができるという面もあるが、他方で、私が取材した1990年代の北海道では、「奨学金は不要」と言っても強引に貸し付けが行われ、2年間経って卒業する頃にはどの学生も百万円単位の「借金」を背負っているという実態があった。

卒業して准看護師の資格を取った後も数年間は同じ医療医療機関で働くことが義務づけられ、そうした習慣は「お礼奉公」と呼ばれていた。

だが、単なる習慣ではなく、「借金の返済」とも連動していて、「卒業後*年間は、お礼奉公しない場合は、一度に借金を返済しろ」と迫られることが少なくなかった。

「お礼奉公があるために私たちは奴隷と同じです。金の力で縛られているんです」。

そんな涙ながらの訴えが、准看護師や准看護学生から地元テレビ局に寄せられた。

取材してみると、准看学生は寮に住み込みで「看護助手」として働くため、ひどい医療機関になると、夜たった一人の夜勤(当直)をさせるケースもあった。資格のない看護助手とはいっても、入院患者に一人で対応となると、白衣にナース帽の姿で「注射」や「点滴」などの医療行為もしなければならない。医学的な知識も経験もないのに患者の命をまかさせる。労働条件が劣悪なケースでは、過酷なたった一人の夜勤が週に何回もある医療機関もあった。

当時、ある医師会の准看護師学校の授業をテレビカメラで撮影したら学生の相当数が授業中に眠っていた。

夜勤などで寝不足が続いていることがうかがえた。

その頃の北海道では、准看学生が患者に誤って「牛乳」を点滴して死なせてしまった事件も発生した。

この学生はその後、准看護師となるが、業務上過失致死の罪に問われて有罪になった。

一人の夜勤が続く環境で「患者さんを死なせてしまったらどうしよう」と不安が募って精神の安定を失い、その後に自ら命を断ってしまった准看学生もいた。

准看護師の制度は、戦後まもなく、地方の個人病院や医院などでの看護職員不足に対応するために誕生し、比較的「インスタントに」養成することが出来て、しかも、准看学生時代も含めて卒業後の数年間まで長期的に医療機関に「縛りつけておける」という側面が事実上あったと言える。

一方、現在では「准」の文字がつかない「看護師」の世界では、医療の高度化とともにどんどん専門化が進み、いわゆる専門学校だけでなく、大学、大学院での養成が主流になりつつある。学士や修士、博士のナースがどんどん誕生しているのだ。

取材した頃、今の准看の教育レベルでは十分ではない、という声を当の准看護師本人たちからも、看護師からも数多く聞いた。

また、同じようにナースキャップをかぶっていても「看護師」と「准看護師」との間には、差別意識のようなものが存在することも彼らの口から何度も聞いた。

准看看護師が看護師資格を取る専門学校も存在はするが、それは狭き門でもある。

患者のそばで一見同じような仕事をしている場合に、差別や区別はなるべくなら、ない方が良いにこしたことはないが、この差別・区別に違和感を覚えている看護職員は多い。

これに関しては1995年~96年、当時の厚生省が日本医師会や日本看護協会など関係団体や研究者を集めて「准看護婦問題調査検討会」を発足させ、准看の様々な問題について議論が行われた。

その最終報告書を受けて、厚生省は「21世紀初頭で養成を中止。資格もなくなる」と宣言したが、その後の医師会の強い反対などがあってこの宣言は宙に浮いたままで現在も准看護師制度はなくなっていない。

これらの報道に関しては、私自身もかかわる形で、テレビドキュメンタリーとして「天使の矛盾~さまよえる准看護婦」として1997年に放送された。(文化庁芸術祭優秀賞などを受賞)

看護の側からの立場で、看護師の団体である日本看護協会は長年、「准看護師制度の廃止」を求めている。

詳しくは、日本看護協会のホームページなどを参照してほしい。

戦後に准看護師制度が出来た経緯を歴史的に振り返りながら、「准看」が減少しつつある最近の傾向について、以下のように記述している。

加えて医療の高度化・専門化は、施設内・在宅を問わず能力の高い看護専門職への期待の高まりにつながり、准看護師の活躍の場が縮小してきたこと、さらに准看護師養成制度を巡る看護界の長期にわたる廃止運動が影響していることは間違いない。
出典:日本看護協会のホームページ

一方、日本医師会の主張は准看護師制度を存続させる、という姿勢で、現在でも准看護師制度の必要性を主張している。

准看護師制度はカリキュラムも改正され充実が図られているにもかかわらず、なぜ未だに養成停止運動が続けられ、熱意と向上心をもって働く准看護師や准看護師を目指す人を傷つけるのか理解に苦しみます。
出典:日本医師会のホームページ

看護・医療の世界では「准」の文字をなくすかどうかが、ずっと論争になっているのだ。

「准」の字を資格を持つ人を「使用する側」がその資格を肯定し、実際に働く側や同じような看護の職種で働く側が資格をなくすように求めている。

ここでは准看護師の問題の是非を問うのが目的ではない。

戦後長く、医療や看護の世界で論争が続くなど解決がつかないままの「准」がついた「看護師」の歴史。

それを参考にして考えてみると、資格を変えることうまくやらないと、長い間の禍根になる。

「保育士」の資格も「准」の一字を入れるかどうかはよくよく慎重に決めるべきだと思う。

様々な問題を視野に入れて慎重に考えるべきだろう。

その場合、その「准」がつくことで、本来は必要なはずのクォリティが維持されるのかは注意した方がよい。

「准」の字によって、本来は必要とされるべき専門的な知識や訓練がなくても、インスタントな資格を量産することにつながらないか。

事件を起こした「自称・保育士」のような人物をきちんと排除し、行政がコントロールできるようになるのか。

また、そうした「准」の字がついた資格の養成を誰が行うのか?

誰がそうした資格のための学校を運営するのか?

そうした資格者を雇うのは誰かも注意してみる必要がある。

新しい資格の導入となると、この業界に参入を考える「ビジネス」の人たちは必ず存在する。

誰かが得をすることはないのだろうか?

「准保育士」として働く人はちゃんとした待遇で働くことができるのだろうか?

「准」の一字によって、処遇が低いものになって、経営者に恣意的に労働させられることはないのか。

また、「保育士」と「准保育し」との間で職種による差別につながることはないのか。

「准保育士」から「保育士」への転身は保障されているのか。

最終的にその資格が子どもたちのケアという面からプラスに作用するのか。

一般的には、すでにある資格を「容易に取れるように」と「准」の字をつける場合は、「規制緩和」の意味がある。

本来、厳格な条件が必要とされる資格なのに、比較的簡単な形のちょっとお手軽な資格も認めようという発想だ。

インスタントに、短い期間で、勉強も研修も厳しいものでなく、産み出されていく「准保育士」。

かつて准看護師の問題を取材した時、「”准”の一字がうらめしい」という声を本当にたくさんの人たちから聞いた。

「准保育士」の場合にはそんなことはありえないのだろうか?

「准」の一字を入れてしまう前に、もっともっと考えるべきことがある。

※Yahoo!ニュースからの転載

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