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「逃げろ」「逃げるな」ではなく

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ブラジル学校がある周辺では、飲食店、コンビニなどに商品を提供する会社で休めないというのです。会社も生産をつづけなければならなく、あらゆる影響がでます。あらゆるところで外国人がこの社会を支えていることが案外見えていないようです。

では、企業が悪いのでしょうか? そうとは言えません。保護者が出稼ぎだから、お金のことしか考えていないからでしょうか? 本当にそうでしょうか。誰でも生活をしなければならないのです。

学校側は、あらゆる不安を抱えていながら、預からなければ経営が成り立たない、難しい判断をしなければならない。このような非常事態にいわゆる「学校」ではないから、どう対応していけばいいのか、確かな情報、彼らに多言語化した情報が届かない状況があります。地域差はあるでしょうが、「リリアン、原子力発電所は本当に大丈夫なの? どうすればいい?」ときくのです。とにかく、私もとにかく落ち着いて、周りの関係者としっかり話し合うようにというしかありません。ここは、責任者をさがしているのではなく、ぜひ、そういう不安な状況で、さらに不安を抱えている子どもたちの存在を忘れないでほしい。 一日も早く日本を出て行きたいと思っている保護者も多くいます。何も準備しないで、このような状況で帰国したとしてもと思ってしまうところもありますが、これは、個々の判断でしょう。

個人的には出て行きたいと思っているブラジル学校経営者でも、先生たちが相次いで辞めていけば、「教育の質」も保てなくなり、学校を維持できなくなります。

今、例えばブラジル学校が全部閉鎖されたら、日本の学校が本当に暖かく迎え、保護者も安心して預かってくれる場所で、先生方、学校関係者は喜んで受入れてくれるのでしょうか。受けられるのでしょうか。外国人学校が果たしてきた社会的な役割は極めて大きいはずだと理解できると思います。
「疎開」を呼びかけるとき、こうした人たちは想像されていたでしょうか。家族で結束して生きてきたマイノリティや、日本人社会に対して言葉や文化の違いでなじみにくい子どもたちに対する配慮はどうするのでしょうか。日本では、外国人に就学義務はなく、調査すら行われません。今回でも、逃げた先の心配を、日本人以上に心配しなければならない面があります。だけれど、こうした子どもたちを抱える親たちの労働によって、いま、私たちの食生活は支えられています。「逃げろ」と言いながら、逃げられない構造は、災害時も平時と代わらず機能しています。

 私が、この「疎開」を勧める文章を見て、想起したのは、DV支援です。かつて、DV被害者は逃げることを支援者から強いられてきました。加害者のそばに居続けることは、確かに危険です。だから「あなたのために」というかたちで「逃げなさい」と支援者は言っていたのです。ですが、そうした支援者の支援こそが、被害者の自尊心を傷つけ、回復を妨げることは、今ではよく知られています。

 今でも、DV被害者に対し、無理やりでも加害者から引き剥がし、シェルターに入れ、安全な場所でカウンセリングを受けさせることが、最上の支援だと思う人はたくさんいると思います。ですが、実際の支援現場は、変わりつつあります*4。まず、「逃げたい」という気持ちが、「逃げない」理由を圧倒するほど強くなるように支援をします。たとえば、「逃げた後の生活のためのお金をどうするのか」「周囲との関係が寸断されることをどうするのか」についての解決策を一緒に探すことが一つでしょう。そして、絶え間なく「あなたは逃げていいんだ」「ここで逃げることは悪いことじゃない」というメッセージを発し続けることです。

 「逃げて欲しいと思っているのは、当事者ではなく支援者」ということはよくあります。暴力を受け続ける当事者が、死んでしまったら?という切実な心配から、今すぐ当事者を危険な場から引き剥がしたくなる。それは当然の感情だし、生命に危険があるとみなされると「介入」というかたちで実施されることもあります。そのすべてを否定することはできません。

 だけれど、「あなたのために」という気持ちの裏にある、自分の感情を隠してもならないでしょう。今回の件でもそうです。私は、親しい人たちに、いますぐ東北はもとより、北関東、東京中心部から逃げて欲しい。けれど、そうしない意思を尊重しなければならない。そして、できることは、より逃げやすい環境を作ることです。

 きっと「そんなことをしていたら、間に合わない」「状況はもっと切迫している」という警告があるでしょう。だけど、自分の不安と、当事者のニーズとを混同していないかについては、繰り返し問うことが必要だと思うのです。「避難者の受け入れ先を探すこと」から「疎開」へと、一足飛びに結論を急がないこと。そう注意したいと思っています。

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