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法人化後の国立大学の学術論文数の推移とその要因の分析(その4.注目度の国際比較)

2)日本の学術論文の「注目度」の国際比較

 相対インパクト(Impact Relative to World)は、全世界の論文の被引用数(注目度を反映する)の平均を1として、各国の論文の平均被引用数を相対的に示したものである。ある国の相対インパクトが1.5ということは、その国の論文の平均被引用数は、世界平均の1.5倍であることを意味している。図13に示すように、ヨーロッパ諸国の相対インパクトは近年急速に上昇している。一方日本の相対インパクトは近年上昇しているが、その上昇率は他の先進国に比較して緩徐であり、最近ようやく世界平均の1を超えたところである。中国を初めとする新興国の相対インパクトは、日本よりも低いものの、近年急速に上昇しており、日本に肉薄している。

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<含意>

 論文の被引用数は、論文の「注目度」を反映する指標と考えられる。論文の「注目度」は論文の「質」という概念とは必ずしも同一ではないが、現時点では論文の「質」を測る適当な客観的指標は存在せず、「注目度」を「質」と見做す場合も多い。

 研究者が学術論文を執筆する場合に、通常はその研究を遂行するにあたって参考にした過去の論文や、考察をする上で必要な過去の論文を引用する。その引用論文の選択には、個々の研究者が判断する「価値」が反映されている。数多く引用される論文には、たとえば、多くの研究者が研究を遂行する上で共通して必要な方法論の論文や要素技術の論文、多くの研究者が重要と判断する事実や概念を最初に発見し提唱した論文などがある。

 また、最近、特許と学術論文とのリンケージが注目されているが、被引用数がトップ1%の論文の米国の特許申請書類における引用数は他の論文の9倍あるという報告3)があり、高注目度論文はイノベーションの潜在力を示す指標にもなりうると考えられる。イノベーションに結びつきやすい研究結果を示した論文は、より多く引用されやすいということを反映するものかもしれない。

 このように被引用数には、研究者の何らかの価値観が反映されていると考えられ、被引用数の多さ(注目度)を論文の「質」を反映する指標と見做すことには、一定の妥当性があると考える。

 ただし、被引用数の問題点としては、以下のようなことがあげられている。研究者数、論文数、あるいは1論文が引用する論文数が多い研究分野ほど被引用数が多くなり、研究者数、論文数、あるいは1論文が引用する論文数が少ない研究分野ほど被引用数は少なくなる。

また、同程度の価値のある論文であっても、著名な学術誌に掲載された論文の方が引用されやすい可能性、真価が認められるのに長期間を要する場合があること、引用する論文は必ずしも価値のある論文とは限らず、間違った論文を批判するために引用することがあることなども、被引用数に影響しうると考えられる。

 被引用数の多さ(注目度)を論文の「価値」や「質」を示す指標と見做す場合には、これらの問題点を念頭に置きつつ、妥当な判断をすることが求められる。

 科学技術・学術政策研究所は、被引用数のTop10%補正論文数およびTop1%補正論文数の国際比較を分析している。これは、論文の数(量)と注目度(質)の両方を反映する指標であると考えられ、現時点で研究力を判断する上で、最も妥当と考えられている指標である。

 科学技術指標2013の資料より、Top10%補正論文数およびTop1%補正論文数の国際比較を図示した(図15、16)。

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 日本のTop10%補正論文数およびTop1%補正論文数は増加しているものの、他の主要国に比較してその増加の程度は緩徐であり、1990-02年、2000-02年、2010-02年にかけて、日本の国際順位はTop10%補正論文数については、4位⇒4位⇒8位(整数カウント法)、3位⇒4位⇒6位(分数カウント法)と順位を下げ、Top1%補正論文数についても、4位⇒5位⇒10位(整数カウント法)、4位⇒4位⇒7位(分数カウント法)と順位を下げている。

 以上より、日本は論文の数ばかりではなく、注目度(質)についても国際競争力が低下しており、特にイノベーションの潜在力を反映すると考えられる高注目度論文数(質×量)の国際順位が下がっていることは、今後の日本経済の国際競争力にも暗雲を投げかけるものと考える。

【関連記事】
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