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「明日ママ」で判断回避のBPO。審議を逃げるなら”テレビのお目付役”の存在意義はない?

一般の人たちにとって、もしもテレビ番組の放送内容が苦痛だ、と判断した場合、どこに訴えればよいのか。

現状において、それはBPO(放送倫理・番組向上機構)しかない。


ドラマ「明日、ママがいない」も、熊本の慈恵病院や児童養護施設の関係者が記者会見で「放送中止」を求めるなど、放送やその苦情処理の仕組みには不慣れな専門家たちが数少ない苦情処理機関として期待を寄せているのがBPO(放送倫理・番組向上機構)だ。

BPO は民放とNHKが共同出資して運営される第三者による放送に関する苦情処理機関だ。

いわゆる「やらせ」などの事件や「過熱取材(報道スクラム)」などによる人権侵害、子どもに見せたくないポルノシーンや暴力シーンなどについて、放送局が「自分たちで自律的にチェックして問題を是正する」というのが建て前の機関だ。

「自分たちで自律的に」というのは、自力でできないとなると、国(総務省)が処分などに強権的に関与してくる可能性があるからだ。

各委員会には弁護士や学者、作家などの有識者が「委員」として問題があるかないかなどを審議する。

場合によっては「放送倫理違反」として、検証番組の放送などを「勧告」されたり、「意見」を出される。

強制力がないものの、BPOの意見や勧告などは放送局にとっては裁判所の「判決」と同様の重みを持って受けとめられる。

BPOは、放送倫理検証委員会、放送人権委員会、青少年委員会と3つの委員会に分かれ、放送局の外にいる人間にとってはどこにどのように申し立てを行えばよいのか分かりにくい。

BPOの事務方は「調査役」と言って、NHKや民放のOBたちがゴロゴロいて、放送局とも密に連絡を取っている。

そうした唯一の組織がBPOなのに日本テレビで放送していた「明日、ママがいない」の問題については青少年委員会が「審議入りしない」という判断を下した。

3月16日のことだ。

 放送倫理・番組向上機構(BPO)の「放送と青少年に関する委員会」は16日、児童養護施設を舞台にした日本テレビ系のドラマ「明日、ママがいない」を審議対象としないことを決めた。

 BPOによると、委員から「関係団体への配慮は丁寧にしなければいけない」という意見が出た一方、「デリケートな問題を扱いにくくなるのは問題」との指摘もあり、総合的に判断し審議しないことを決めた。視聴者からは「番組が問題を明るみに出した面もある」と肯定的な意見もあったという。  青少年委員会は委員の意見をまとめ、委員長コメントとして近く公表する。(共同)

出典:毎日新聞

ドラマ「明日、ママがいない」については、虐待を受けた経験などがあって心にトラウマを抱えている児童養護施設の子どもたちへの「加害性」が第1回から問題になり、日本で唯一の「赤ちゃんポスト」を運営し、親が養育できない子どもの特別養子縁組にも積極的にかかわっている熊本市の慈恵病院が抗議の声を上げた。さらに児童養護施設の全国組織である全国児童養護施設協議会や全国里親会などが「心に傷を負う子どもが自殺しかねない」と放送見直しを求めてきた。

児童養護施設で暮らす子どもたちの心のケアに取り組んでいる専門家たちがそろって抗議の声を上げている。

実際に筆者の調査でも、全国児童養護施設協議会の全国調査でも、ドラマを見てフラッシュバックを起こして「死にたい」と漏らし、リストカットしてしまったケースがいくつか報告されている。

デリケートな児童福祉の世界を描くにあたって、「明日ママ」はあまりにも事前調査が不十分で、一部の子どもに対する「加害性」があるドラマだったと言える。

日本子ども虐待防止学会が「放送内容の見直し」を求める要望書を日本テレビに出したほか、浜松医科大学の子どものこころの発達研究センターも同様の要望書を出した。

虐待などで傷ついた子どもの心について研究し、一番分かっているはずの専門家たちが第1回の放送を見て、問題ある放送だと認定したのだ。

そうした専門家の声を聞いてか聞かずか、「デリケートな問題を扱いにくくなるのは問題」などというのは一体どういう「見識」なのか。

デリケートな問題を扱って、こういうふうに放送すれば大丈夫と、判断基準を示すのがBPOの役割ではないのか。

責任逃れもよいところだ。

それをBPOの青少年委員会が「審議しない」と判断したとなれば、ごく一部の傷ついた子どもたちが対象であるとしても 、そうした子どもたちの人権をどうやって守るのか、という判断基準はいったい誰が示すのだろうか。

慈恵病院は放送人権委員会に対して「人権侵害」だとして申し立てをしているが、放送人権委員会が「審議」を開始する様子はまったくない、

放送人権委員会は、放送によって人権を侵害され当事者がその回復を求めて申し立てることができる委員会で、ただひとつ申し立て制度を持つ。申し立て制度がなく、自主的に審議に入るかどうかを決定する青少年委員会や放送倫理検証委員会とは違う。

慈恵病院によると、申し立て後にあった放送人権委員会の事務局からの説明ではは申し立て者が「慈恵病院長」であり、実際に人権を侵害されたのが「施設の子どもたち」らだと訴えているため審議入りは厳しいという見通しを伝えられている。その代わり、放送人権委員会ではなく、青少年委員会での審議を検討している、という説明だったという。

ところがけっきょく青少年委員会も審議せず、放送人権委員会も審議せず、ではいったいどこがこのドラマが子どもたちへの加害性があったのかどうかを判断するのか。

もし同様の「加害性」の問題が今後出てきた時に、いったいどのような理論構成で考えればよいのか。

BPOの役割の一つとして裁判で言う「判例」を示すということがあるはずだ。

その役割をBPOは放棄しようとしている。

「審議に入る」ということは即「放送倫理違反」を意味するわけではない。

どういうケースが放送倫理に違反するのかどうか。

専門家の意見などを聞いて、評価するプロセスに入る、ということだ。

実質、今後のいろいろな議論の「判例」になりうるケースで、審議に入らないのであれば、BPOに存在意義はあるのだろうか。

難しいケースは逃げてしまい、テレビ局の顔色ばかりを見ている。

BPOが見なければならないのは本当は、テレビ局も声を聞いてもらえず、やむなくBPOという機関を頼った視聴者ではないのか。

しかも今回、声を上げた人たちは、子どもの心理や児童養護の問題などに詳しい専門家たちばかりだ。

それを「審議入りせず」の一言で片付けてしまうBPOのありようはとても残念だ。

本来は国の介入を避けるために、テレビ局が「自分たちで自律的に苦情処理をやっています」と言うためのBPO。それが機能しないといずれどうなるかは、BPOの委員たち、とりわけ法律家たちには分かっているはずではないか。

今週、放送人権委員会も最終的な結論を出す。

「これだけ専門家たちが声を上げて大きな社会問題になったのに、BPOがまったく審議もしないならば、BPOは放送倫理の番人どころかまったく役に立たない組織ということになりませんか? まさか、そんなことはないでしょう」

慈恵病院の蓮田健産婦人科部長は先日、BPOに期待を込めて語っていた。

しかし、BPOは「まったく役に経たない組織」だということを自ら明らかにしつつある。

放送局が自ら首を差し出すような事案しか審議しない、「出来レースの」第三者機関なのだ。

この際、「放送倫理の番人」などというきれいごとの建て前は捨てた方がよい。

「放送局の番人」でないか。

もし、そのことが判明したなら、慈恵病院をはじめ、関係者はBPOや放送局とのやりとりを洗いざらい公開する他に、もうやれることはないだろう。

どんな時に傷ついた心を持つ子どもたちへの加害性を判断すべきなのか?

BPOは日本の放送界の歴史上、せっかくの好機を自らの怠惰でみすみす失おうとしているようにみえる。

もし、同様のケースが今後あって、放送された番組によって子どもが自ら命を絶ってしまうような事態が発生した時、当の放送をした放送局だけでなく、BPOの委員らの責任も追及されるだろう。

ちなみに、「審議入りせず」の決定をした委員の顔ぶれはちゃんとチェックしておこう。

青少年が視聴するには問題がある、あるいは、青少年の出演者の扱いが不適切だなどと視聴者意見などで指摘された番組について審議を行い「見解」を公表したり、制作者との意見交換を行います。また、放送と青少年の関わりを研究、調査しています。

出典:BPO青少年委員会ホームページ

私には今回、「明日ママ」の問題提起をした専門家たちと比べて、子どもの心の問題をよく知っている人たちだとは思えないのだが。

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