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伝説のギターショップを買収し、楽器のマーケットプレイスに進出した「Reverb」

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1980年代後半から90年代前半にかけて、日本には何度目かのバンドブームが到来していた。僕と同世代、また少し上の世代の方はよく覚えているだろう。高校生だった僕もブームに乗り、文化祭バンドのギタリストだったことがある。

中途半端なスキルのくせにこだわりだけは人一倍で、アルバイトで貯めた20万円を握りしめて、フェンダーのストラトキャスターを買ったことは未だにはっきり覚えている。極度の緊張で、汗だくでお会計したことも昨日のことのようだ。

もっとも、最近は楽器も通販で購入するのが一般的になりつつあるようだ。20年前の僕のように、手に汗と現金を握りしめて楽器屋に行く必要もなくなってきた。

今回ご紹介する米国の「Reverb」はまさにそういうサービスを提供している、楽器や機材専門のマーケットプレイス型ECサイトだ。

2012年に創業されたこのサイトはプロ・アマを問わずミュージシャンたちの間で瞬く間に人気が広がり、楽器専門ながら毎日9000人がサイトに訪れるという。Facebookのファンも10万人を超え、2013年末には230万ドル(約2億3000万円)の投資を受けるなど評判も上々だ。

ソフトウェア業界で大成功し、音楽の世界へ出戻り

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Reverbの創業者はシカゴ出身のDavid Kalt(以下カルト)氏。彼はミシガン大学を1989年に卒業後、シカゴのレコーディングスタジオでレコーディングエンジニアとして働き始めた。憧れの音楽業界で職を得たは良かったが、あまりの激務に2年で燃え尽きてしまう。

音楽で食べて行くのは難しいと考えた彼は学校へ戻り、コンピュータサイエンスの修士号を取得。もともとレコーディングエンジニアをしていただけあってすぐにこの分野になじみ、卒業後すぐにマーケティングシステムの開発をするソフトウェアの会社を立ち上げた。

1999年には友人とともにoptionsXpressという会社を設立する。この会社で個人向けのオプション取引のプラットフォームを開発、これが大成功し2011年には米国の大手オンライン証券会社のチャールズ・シュワブになんと10億ドル(約1000億円)で買収された。

コンピュータの仕事のかたわら音楽を趣味で続けてきたカルト氏は、この資金を元手にChicago Music Exchange(以下CME)を買い取ることに決めた。

CMEとは、ビンテージのギターやベースを扱っていることで世界的にも有名な「伝説のギターショップ」だ。顧客リストにはジョニー・デップをはじめ、グリーンデイのビリー・ジョー・アームストロング、カントリーシンガーのブラッド・ペイズリーなどそうそうたるメンバーが名を連ねている

カルト氏がまず手を付けたのは、CMEの経営方針の方向転換だった。それまでのCMEはビンテージの楽器を中心販売しセレブの顧客がたくさんいたが、カルト氏は普通のギター好きの顧客も大事にしたいと思っていたからだ。

「もし商品がビンテージのギターしかなければ、僕らはジョニー・デップが5万ドル(約500万円)のギターを買いにきてくれるのをただ待っていないといけないんだ」(カルト氏)

こうしてビンテージやレアものの商品だけでなく、普通の音楽好きの人々やアマチュアミュージシャンが手に届く価格の商品を次々と置くようになり、売上を伸ばしていった。

CMEはシカゴに1店舗しかないので、全米また海外に向けてオンラインでの販売も始めた。CMEを知らない顧客にもアピールするために当初はeBayを使っていたのだが、どうもしっくりこない。手数料やその他のルールに満足度は高くなかった。

世の中には楽器の売買のニーズはあるのに、それをできる場所が提供されていないのではないか? 夢だった音楽と、自分のキャリアが生かせるチャンスがやってきた。そう思ったカルト氏は音楽専門のマーケットプレイスを立ち上げることを決意した。

安心して売り買いしてもらうためのReverbの工夫の数々

Reverbのしくみはいたってシンプルだ。ギターやベースなどの楽器やそれにまつわる機材などを売り買いできる。ギターやベース、アンプなどが中心だが、アコースティックやクラシックなど楽器全般が取引されており、中古の数十ドルのものから、ビンテージものの数百万ドルするものまで、商品の値段も幅広い。

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商品をクリックすると、商品出品者の情報や商品の状態や写真など詳細を見ることができる。興味深いのは、「Buy It Now(今すぐ購入)」と「Make an Offer(価格提案)」の2つのボタンがあること。出品者の提示する値段で購入するのなら「Buy It Now」だが、「Make an Offer」を選べば値段の交渉をすることも可能だ。

同サイトでは上のような売買システムだけでなく、オークションも利用できる。出品者側としても出品の方法を選べるのは嬉しい。

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eBayやCraigslistでは、情報が少なく、本当に探している商品かどうかを見分けるのがむずかしいが、Reverbは1つ1つの商品情報が充実しているのが強みのひとつだ。

同サイトの商品説明を見ると、出品者からの紹介文だけでなく、商品の状態、メーカー名、モデルなど必要な情報が揃っている。また、送料や返品の際のルールも分かりやすく明記されている上、出品者の情報と他のユーザーからのレビューも一目で分かるようになっている。

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これは同サイトが、あらかじめ決められたフォーマットに沿って情報を入力しないと、出品できないしくみを設けているためだ。フォーマットに沿って記入するだけで買い手の欲しい基本的な情報が網羅される。また書き忘れなどのミスを防ぐことができる利点も大きい。

出品料は無料で出品数の制限もなく、手数料も3.5%と安く設定されている。eBayも出品料は無料だが出品数は月に50と決められているし、手数料は10%だ。Reverbは出品者にとってかなり魅力的なルール設定をしているといえるだろう。

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また、Reverbでは「Price Guide」というシステムを提供している。これは楽器の値段のベンチマークとして、商品の値段が適正かどうか、いわゆる「相場」が一目で分かるというものだ。

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買い手が商品を購入する時にも、出品者が値付けをする際にも大変に役立つ資料だ。このガイドがサイト上の商品の値段を適正に保つのに一役買っていることは間違いないだろう。

しかし、いかにサイトに商品が多くても、買いたい人がいなければ売買は成立しない。ユーザーの中には、「これが欲しい」という能動的な買い手もいるが、「いいものがあれば」という受動的な買い手もいる。

そういう人々にアピールするために、ReverbはGoogle Shoppingやソーシャルメディアを駆使してサイトへの誘導をしている。出品されている商品はすべて、Google Shopping上に表示される設定となっている上、随時Facebook、Twitter、Newsletterでも紹介されるのだ。

また、自社サイトで「優良」な出品物を調査し、「Reverb Bump」に選んでサイトのトップのリスト上位に写真付きで掲載している。レア商品、お値打ち価格の商品の他、良い写真を載せている商品、説明が詳しく丁寧に書かれている商品が選ばれることもあるという。

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「変化を求める」という重要な成長要因

Reverbは、驚くほど新しいeコマースの仕組みを取り入れているわけでもない。サイト開発という視点からは新しい発見が無いかもしれない。しかし別の視点、「CMEの買収からReverbの立ち上げ」というストーリーに着目すると、貴重な発見がある。

CMEは、その筋では「レジェンド」と認められるほどのブランド価値を持っていた。しかし、そんな強力なブランドですら、変化を怠っては忘れられる一方だ。カルト氏はCMEのブランド価値を継承し、時代にあった新たな運営方針を取り入れた。当然「変わってほしくない」という古くからの顧客の声も少なくなかっただろうし、失敗のリスクも高かっただろう。それでもカルト氏は音楽への愛を胸に、変革に取り組んだ。それ自体がCMEのストーリーになったし、それに共感する人が多くいるというのは彼らのfacebookページなどのファン数にも現れている。

カルト氏はCMEを一体いくらで買収したのだろうか? その額は想像もつかないし、元が取れたのかどうかははっきりしない。しかしこういった変化のストーリーは、ブランドを強くするチャンスであることも事実だ。変化やニュースのないブランドほど、退屈なものはないからだ。

変化を求め、リスクを取る姿勢は、様々なものが変化の激流にある今の時代にフィットしたやり方ではないだろうか。僕たちはカルト氏ほどリスクを取れるほどの身の丈ではないだろう。しかし、日々の仕事で取れるリスクは、そこかしこに転がっている。

あなたは「リスクはあるが、面白いアイディア」を思い浮かんだ時、どうしているだろうか? リスクを嫌って、頭のなかのゴミ箱に流してしまっていないだろうか?

これは起業家だけでなく、eコマース運営者にとっても、是非取り入れたいマインドセットだ。商品の入れ替え、メルマガの発信...日常業務に忙殺され、サイトをどう変化させるべきか、あまり考える時間がとれていないということはないだろうか?

もちろん、日常業務は大切な仕事のひとつだが、これだけでは大きな成長には繋げにくい。「大きな成長のチャンス」を見過ごさないために、頭の片隅で常に変化を意識する。これが成長へのファーストステップではないだろうか。

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