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貿易保険金の上限を一挙に3倍にする経産省の異常さ

 日経新聞を読んでいると、次のような文字が目に入りました。

 「貿易保険金の上限3倍に 4月から、中東・アジア市場開拓支援」

 どう思いますか?

 その前に、この手のニュースを扱っても、多くの人は殆ど反応を示さないかもしれません。否、反応を示すはずがない。何故ならば、貿易保険って、一体なんのこっちゃいな、と。

 でも、いつもテレビのワイドショーが伝えるニュースばかりに気を取られていては、おりこうさんになれません。

 ということで、本日は貿易保険について考えてみたいと思います。

 先ず、貿易保険というように「保険」の文字が付くということは、万が一のことが起きたときに保険金が下りることは理解できると思うのですが‥

 そうなのです、例えば、日本企業が自社製品を海外に輸出したとして、そして、輸出代金が何らかの理由によって回収できない事態に陥った際に、その損失をカバーしてやろうというのが貿易保険なのです。

 つまり、貿易保険は、輸出や輸入にかかるリスクをカバーする保険ということになるのですが‥では、一般論として、保険の特徴とは何か?

 それは、万が一のときの保証がなされるので、保険に加入すれば、その万が一のリスクを心配する必要がなくなって安心して毎日が送れる、或いは安心して商売ができるということなのです。

 例えば、火災に遭うリスクを心配するならば、火災保険に入るし、自動車を保有するならば自賠責保険に入ることによってリスクを回避することができる、と。つまり、そうやって突如として発生する負担から免れることができるのです。もちろん、そうした安心を手に入れるために、予め、或いは定期的に一定の保険料を納めることが必要とされるのですが‥

 但し、そうして安心を得ることができる一方で、モラルハザードが起きる、と。

 モラルハザードとは何のことでしょうか?

 新聞などを呼んでいると、モラルハザードにカッコ書きで、「倫理観の欠如」なんてことが書かれていることが多いのですが、どうも頂けません。というか適切な解説とはとても言えない。どうにかしてよ、日経さんと言いたい。

 実はモラルハザードというのは、保険に加入した場合には、保険に加入していない場合と比較して、万一のことが起きないようにするために注意義務が低下する、或いは、万が一のことが起きても別に構わないと思うようになるような心理状態の変化を言うのです。

 どうして、保険に加入すれば、そのような心理状態の変化が起きるのでしょうか?

 それは簡単なことなのです。というのも、万が一のことが起きても保険金が手に入るので一向に困らない、と。むしろ、保険金が手に入ることを望みたいというケースさえあるからなのです。

 ということで、そのように保険のメリットは非常に大きいものの、副作用も大変に大きいのです。

 では、今回の貿易保険金の限度額を3倍に上げることの何が問題なのでしょうか?

 その前に、何故今回、貿易保険金を3倍に引き上げることにしたのか、その理由を見てみましょう。日経(3月17日)には次のようなことが書いてありました。

 「日本貿易保険(NEXI)は、輸出先が倒産した場合などに日本企業が被る損失を補う貿易保険の保険金額の上限を4月から最大で3倍の300億円に引き上げる。日本企業が輸出代金を回収できなくなるリスクを減らす。中東やアジアの新興市場を開拓する企業が自動車や電気・電子部品の輸出を拡大できるよう後押しする。」(中略)

 「例えば日本車を輸入する海外企業は、複数の日本の自動車メーカーから車を輸入する場合が多い。制度改正により、同じ海外企業に輸出する複数の日本企業の保険金額の合計が最大300億円に増える。

 NEXIは主に中東やアジアなど新興国向けで、輸出額が大きい自動車会社や電気・電子部品メーカーの利用を見込んでいる。これらの製品は保険金額が最大100億円ではリスクをカバーしきれないことが多い。保険金額を上回る部分は企業がNEXIの保険なしで輸出しており、自動車メーカーを中心に不満の声が出ていた。NEXIは個々の企業ごとに、輸出数量や取引額に応じて別々の保険料や保険金額を設定している。」

 如何でしょうか?
 
 現在、貿易保険の限度額は最大で100億円であるが、それではリスクがカバーできないことが多くて、輸出企業から不満の声が上がっていたことが理由なのだとか。

 でも、おかしくはないのでしょうか?

 確かに、保険金に上限が設定されているために、輸出企業にとってはそれが負担になったり、或いは輸出を思いとどまらせる要因になるかもしれませんが‥だったら、民間の損害保険を利用すればいいだけの話。

 昔は、貿易保険と言えば、官業の専売特許みたいなものであったのが、2005年からは民間が参入しているのです。つまり、日本貿易保険(NEXI)が提供する保険は、謂わば官営の保険制度であって、だとすれば、民間の保険の補完的な役割に留まるべき性格のものであるのです。つまり、余りにも官がしゃしゃり出るのであれば、民業圧迫になってしまう、と。

 それなのに、何故一気の保険金の限度額を3倍まで上げるのでしょうか?

 結局、輸出企業にとっては、民間の損害保険を利用するよりも、この官営の貿易保険制度を利用した方が得になるというだけの話なのです。つまり、保険料が安く済むと、と。

 では、何故安く済むのか? もし、民間よりもコストが安く済むならば、日本の保険会社は全て官営にすればいい。そうでしょう?

 本当は民間よりもコストが安く済むなんてことはないのです。そうではなくて、損失を被っても日本貿易保険(NEXI)が国との間で再保険契約を締結しているために、最終的には税金でカバーされるので、如何にもコストが安く済むように見せかけているだけなのです。
 
 物価の変動に合わせて少しずつ保険金の限度額を上げるのなら話は分かります。

 それが、何故一気に3倍になるのか。それでは民業を圧迫するのは明白ではないですか?

 しかし、それでも輸出企業は官営といっていい貿易保険制度を利用したがる。何故なのか?

 それは不当に保険料が安いからに他なりません。だから、貿易保険制度を拡充して欲しいとお願いするのです。

 そして、日本貿易保険(NEXI)は、万が一のときは、国との再保険制度があるので、リスクのことなんか何も心配しないで、どんどん保険を引き受けることができる、と。

 日本貿易保険(NEXI)の側にモラルハザードが起きているとしか言いようがありません。

 どうしても、貿易保険の限度額を3倍に引き上げるというのであれば、国との再保険制度を撤回してからにして欲しいと思います。それでも3倍に引き上げる勇気があるのでしょうか?

 経済産業省は、安倍政権の下で少し調子に乗っているのではないでしょうか?

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