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労働者が減る国の運命

経済学を勉強したことがある人ならば、コブ・ダグラスの生産関数というものを見たことがあるだろう。GDPの成長率(Y)はY = T ×K^α×L^(1 - α)という関数で表現できる。この式を要約すると、GDPの成長というのは、技術革新(T)、資本(K)、労働者(L)の増加という3つの要素で説明できるというものである。

生産関数というと何やら複雑怪奇なもののように見えるが、シンプルにこの3つの要素が伸びれば、その国の経済は伸びる。例えば、1950年から1992年のアメリカのGDPの伸びは年率+3.2%であり、それは技術革新(+1.3%)、資本(+0.8%)、労働(+1.0%)に分解できる。1956年から1992年までの日本経済の場合は、年率+5.6%もの驚異的な成長を果たしたが、それは技術革新(+3.7%)、資本(+1.8%)、労働(+1.0%)に分解できる。

リンク先を見る日本が技術立国であるという言葉は、戦後の歴史を振り返れば、まさにその通りであったことがわかる。1970年代になると日本の経済成長の伸び率は減速し始めたが、これは国が成熟するにつれて資本(設備投資)のプラス寄与が縮小してきたためであった。90年代に入ると、技術革新の寄与も小さくなり、GDPの成長は超低空飛行期に入った。そして2000年以降は、ついに労働のプラス寄与も見込めなくなってしまった。

様々なマクロの前提において、最も予測が可能なファクターは労働者の人口であるとよく言われる。投資家によっては、各国の人口ピラミッドの形を見て投資する国の配分を決めるところもあるほどである。つまり、今後の日本経済の先行きを考える時、どう見ても足枷となるのは労働人口の減少であり、このまま何もしなければ、お先真っ暗な状況であると言える。

米国というのは、この点から見ても、非常に上手い経営をしていることがわかる。もともと移民の国という幸運もあるが、明確に経済的な効果を意識した上で、移民の受け入れに対して開放的な施策を取っている。優秀な人材や米国へ多額の投資をする富裕層に対して、投票権はないが納税の義務はあるグリーンカード(永住権)を発行する仕組みなどもその一つである。技術革新(頭脳)も資本も労働も、美味しいところだけを国内に呼び込んでいる。

この好循環を維持するためにも必須であるのがブランドイメージであり、その点も抜かりはない。「自由の国」「夢を実現できる国」というイメージを浸透させ、地球上の小競り合いにも必ず首を突っ込み、米国は世界のリーダーであることをアピールする。実際にはアンフェアで2極化が進み、敗者への保障はないというのが現実ではあるが、アメリカンドリームを成し遂げた勝者の方をフォーカスすることで、成長の3つの要素を世界から安定的に調達していると言える。

一方で成熟した先進国となり、横並び意識の強い日本の場合は、国内外からの投資の増加や、技術的イノベーションに多くを頼ることはできない。つまり残された選択肢としては労働人口を増やすしかない。労働人口を増やすには女性や老人にもっと働いてもらうか、たくさん子供をつくりたいと思う環境を整えるか、米国のように夢見れる国を演じつつ移民を受け入れるか、ニートを家から引きずり出すかしかないだろう。

現時点で一つ言えることは、労働人口が減る先進国でGDPが伸びた例は歴史上ない、ということである。日銀が金融緩和をして人工的なインフレをつくっても、(実質)GDPは1円も増加しない。しかし労働者が1人増えれば、確実にGDPは増加する。日本経済は、多様性を受け入れることができなければ富を創造することは難しい時代となってきている。課題は至ってシンプルだ。

折しも昨日の経済財政諮問会議において、昨年度の6倍に相当する年間20万人の移民の受け入れを検討し始めたところであり、政府としてはこの問題に向き合い始めてはいる。ただし、民意がこれを後押しするようになるまでには、より深刻な状況が共有されない限りは難しいかもしれない。日本の改革のペースが遅いことに痺れを切らし始めている世界のマネーは、そこまで待ってはくれないかもしれないが。

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