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どうしても違和感を覚えてしまう『永遠の0』への「戦争賛美」批判 - 寺川薫(編集者)

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●小説とは似て非なる映画

 このように私は小説『永遠の0』に関しては、一部で言われているような「特攻賛美」や「戦争賛美」という批判は的外れだと思っています。

 それに対して映画ですが、「どうしてこのような作品になってしまったのか」と私は残念に思います。その理由は簡単。上記の小説でしっかりと描かれた軍部批判や特攻批判等の部分が相当薄まっていて、「特攻という問題」が「個人の問題」に見えてしまうからです。

 私は「小説になんでもかんでも盛り込めばいいというものではない」と書きました。映画は時間的制約も大きいので、それこそ「小説の要素すべてを入れるのは無理だよ」という意見もあるでしょう。でも、この作品にとっての生命線である「軍部批判」や「特攻批判」の要素を薄めてしまっては、まったく別の作品となってしまいます。

 なぜ映画では軍部批判や特攻批判の要素が薄まってしまったのか。
 作家と出版社の間で完結できる小説と違い、映画の場合は関わる人の数も投入されるおカネの額もケタ違いになります。また、ヒット小説の映画化となれば世間的な注目や影響力も当然大きくなります。原作者、脚本家、制作者の間でどのようなやり取りがあったのか分かりませんが、小説にある旧日本軍上層部へのストレートな批判を相当薄めてしまったことは残念でなりません。

 長々と書いてきましたが、『永遠の0』をめぐる「論争」については百田氏というキャラクターを抜きに考えられないわけですが、「百田氏憎し」のあまり、少しでも戦争や特攻を肯定するようにとらえることができる部分に過剰に反応しているように思える批判もありました。

 私は、記憶に新しい都知事選での応援演説をはじめ百田氏の言動には同意できないことだらけです。また、私は憲法九条を(当分の間は)変えないほうがよいという考えですから、百田氏の「すごくいい思いつき」(注)でいえば、戦争が起きたときに前線に送りだされる「9条教の信者」に位置付けられます。

(注)「すごくいいことを思いついた!もし他国が日本に攻めてきたら、9条教の信者を前線に送り出す。そして他国の軍隊の前に立ち、『こっちには9条があるぞ!立ち去れ!』と叫んでもらう。もし、9条の威力が本物なら、そこで戦争は終わる。世界は奇跡を目の当たりにして、人類の歴史は変わる。」(百田氏の2013年10月7日付ツイート)

 そんな私でも、繰り返しになりますが、小説『永遠の0』への「戦争賛美批判」にはどうしても違和感を覚えてしまいます。百田氏という人物のことはいったん脇に置いて、作品そのものを純粋に読めば、少なくとも「戦争賛美」という感想は出てこないのではないかと思います。

 「作品」でなく「人」で判断することの愚かさは、「主張の内容」でなく、それを唱えている「人や組織」で事の是非を判断することと似ています。憲法九条、原発、死刑制度ほか国論を二分する議論はいくつもありますが、ともすると「どうせあの人(団体)が言っているのだからロクなことはない」と決めつけてしまうことが、よくあるような気がします。その結果、九条で言えば、護憲派は改憲派を「好戦的な人たち」と、改憲派は護憲派を「平和ボケした人たち」とそれぞれ決めつけ、まともな議論の場すら設定できないという……。

 憲法や安全保障について具体的に国を動かそうという政権が現れたいま、少なくともそれに反対する側は、レッテル貼りをして相手を非難している場合ではなく、意見の違う相手とも、その違いを知ったうえで議論し、考えていくことが大事なのではないか――。
 『永遠の0』への「戦争賛美批判」について考えたとき、私はそんなことも強く感じてしまいました。

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