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南相馬市立総合病院が復興のシンボルであるという「事実」

亀田総合病院 
森田 知宏
2014年3月11日 MRIC by 医療ガバナンス学会発行 http://medg.jp
2011年3月11日、東日本大震災が起きた。福島県浜通りにある南相馬市は、地震、津波、原発事故という3つの災害を同時に経験しており、現在でも痛々しい爪痕が残る。初期研修医の私は、南相馬市の中核病院である南相馬市立総合病院で3ヶ月間の地域研修をさせて頂いた。あの災害から3年が経過した今、被災地がどのように変わっているかを経験したかったのだ。

突然だが、「南相馬市」とGoogleで検索してみて欲しい。60万件ほどヒットするはずだ。これは、「亀田総合病院」に匹敵する数である。それでは「南相馬市立総合病院」ではどれくらいヒットするか、想像できるだろうか。----------------答えは20万件である。

これは驚きである。この2つのキーワードのヒット数は包含関係ではないが、「南相馬市立総合病院」が「南相馬市」のだいたい1/3を占めるというイメージである。もちろん、「南相馬市」も「南相馬市立総合病院」も2011年3月11日の東日本大震災以後、急激に検索数が増えたワードである。南相馬市には、震災直後にYouTubeを使って窮状を訴え、米Time誌による「世界で最も影響力のある100人」2011年版に選ばれ、個人のWikipediaページまで存在する桜井勝延市長がいる。他にも南相馬市には特筆すべき人がたくさんいて、復興に取り組んでいる。南相馬についてぱっと思いつくだけでもボランティアセンター、ソーラー・アグリパーク、野馬追いなど様々なキーワードがある。しかし、「南相馬市立総合病院」という、どこにでもありそうな名前の病院が、インターネット上では南相馬市の1/3に匹敵する存在感を持っているのである。

この20万件という数字は、病院の中でも多い方だ。先ほど、「亀田総合病院」と比較した。亀田総合病院は私が勤務している病院で、日本初の電子カルテ導入、震災後の透析患者受け入れなど様々な試みを行っており、新聞やテレビなどのメディアには取り上げられている病院だ。広報課があり、積極的に情報発信を行ってもいる。試しに、皆さんが知っている病院の名前をGoogleで検索して頂きたい。いわゆる有名病院でもせいぜい60-70万件ヒットすれば多い方だ。震災後いち早く南相馬へ医療支援にきた諏訪中央病院は、初期研修医・後期研修医にも人気が高く、高名な鎌田實医師が名誉院長であるが、ヒット数は45万件である。もちろん大学病院であれば100万件規模のところもあるし、スキャンダルで注目を浴びた病院はまた別だ。南相馬市立総合病院は地域の中核病院だが、病床数は230で上記の有名病院に比べるとずっと少ない。医師も20人強しかいない。もちろん広報課は存在しないし、Wikipediaに個人ページが存在するような有名人もいない。この病院が、たった3年で有名病院の1/3規模のヒット数を弾き出したのだ。

どうして「南相馬市立総合病院」が「南相馬市」や「亀田総合病院」の1/3もヒットするのか。これはひとえに、地域に貢献して、結果を残しているからだろう。南相馬市には前述のとおり多くの人が復興へ向けて努力している。南相馬市立総合病院はその中でも群を抜いて地域に貢献しているグループと言える。

南相馬市立総合病院は、災害後の対策がとにかく早かった。原発事故に対して、内部被曝を検出するホールボディカウンターを早期から導入して住民への検査を開始し、現在では正確な検査体制が整っている。さらに、希望者や内部被曝検査結果が高めの方には外来で丁寧な説明を行い、住民からの質問に応じている。詳細はアピタルなどの他媒体で坪倉正治医師が解説しているが、南相馬市で内部被曝による健康への影響はほとんどないということが分かっている。さらに、少しでも多くの人に正しい知識を持ってもらうため、坪倉正治医師は南相馬市の小学校、中学校、高等学校で授業を行っている。さらに、婦人会、村の集まり、市役所など様々な方を対象に説明会を行っている。「100人の説明会を1回」よりも「10人を10回」行って、参加者の質問に丁寧に答えて正しく理解してもらうことを目標にしているそうだ。

南相馬市立総合病院は教育にも力を入れている。2012年夏に、南相馬市立総合病院は亀田総合病院との連携により、臨床研修指定病院となった。この指定には厚労省の審査が必要で、御多分にもれず煩雑な基準がある。震災から1年強しか経っておらず、しかもこれまで研修医を受け入れた経験のない病院が出すようなものではない。しかし、院長の金澤幸夫医師、副院長の及川友好医師は、南相馬の医療復興には医師の教育が不可欠であることを認識していた。その熱意によって相双地区初の臨床研修病院が誕生した。現在は、初期研修医第1期生が2名おり、研修に励んでいる。今年の4月からも第2期生が2名就任予定であり、相双地区の医学教育は順調な滑り出しを見せている。院長、副院長の10年以上先を見据えた戦略には脱帽である。

院長の金澤幸夫医師は、バイタリティにあふれている。災害後、DMATをはじめ様々な医療支援を受けた。次に災害が起きた時にはその恩返しができるようにと日本DMATの研修を受け、なんと自分でDMAT隊員になってしまった。失礼な言い方だが、私の父親と同い年の医師が障害物の下にもぐりこみ、心臓マッサージをし、筆記試験を受けたのだ。さらに、原発事故の影響で、子供の甲状腺について心配している母親がいることに気づき、現在は甲状腺エコーのトレーニングをしている。この院長がいればこそ、上述の活動も実現できたのだ。

副院長の及川友好先生も負けてはいない。震災後に避難所生活が始まった際、多くの方が目の前の混乱状況に対応するので精一杯の中、病院の一区画を災害本部と位置づけて、避難所へのスロープ設置の提案や、福祉団体、ボランティア、消防、自衛隊などの関係者を集めて避難所の問題について情報共有を行った。今も復興のために積極的な情報発信を行っており、2013年5月には衆議院で、同年12月にはウイーンにあるIAEA(国際原子力機関)本部で、災害後の医療問題について講演されるなどの活躍である。

南相馬市立総合病院の活躍は病院の中にはとどまらない。神経内科の小鷹昌明医師は、2012年4月から南相馬へ医療支援に来た。現在は、病院内唯一の神経内科医として活躍する一方で、地域のコミュニティ復興へ向けた活動をしている。仮設住宅でのイベントに顔を出すのは女性が中心で、男性がほとんど出てこないことに危機感を覚え、"HOHP (ひきこもり・お父さん・引き寄せ・プロジェクト)"を2013年1月から発足させた。この活動から生まれた作品は、先に出てきた南相馬ソーラー・アグリパークの看板を飾っている。こうした地域密着の活動を続けて、今年はなんと原町物産振興会の会長に就任してしまった。これは、南相馬市原町区にいる土産品、民芸品などの作成者からなるグループである。地元のものづくり職人から、たった2年弱でここまで信頼される医師は世界でも類を見ないだろう。地域に密着した活動をしている一方で、小鷹医師は一人のメディアでもある。「原発に一番近い病院」という著書を出版され、幅広い方への情報発信を行っている。臨時災害ラジオ放送局である南相馬ひばりFMでは番組のパーソナリティも務めている。南相馬市立総合病院のエネルギーは、こんなマルチな人物も呼んでくる。

他にも、ここでは紹介しきれないほど素晴らしい方がいる。在宅診療部の根本剛医師は、元は外科医だが震災を機にメスを置いた。急激に高齢化が進む南相馬市に立ち向かうため、在宅診療部を立ち上げて高齢化問題に正面から取り組んでいる。放射線技師の花井辰夫氏は、震災後からホールボディカウンターでの内部被曝検査に携わっている。放医研や各専門家と直接やりとりをし、今ではホールボディカウンター運用について第一人者と呼べるほどのノウハウを持っている。理学療法士の山本喜文氏は、2011年11月に亀田総合病院より南相馬市立総合病院へ出向した。彼は、取り壊し寸前であった南相馬市民プールをオープンまでこぎつけ、高齢者向けの運動プログラムを始めた。----------------すべての方に長い物語がある。その一つ一つが感動的である。そんな人達が集まって化学反応を起こしている、それが南相馬市立総合病院なのだ。

ここで挙げた全員に共通しているのは "南相馬市住民のために何かできることをしたい" という思いである。この思いが全員を動かし、数々の実績を積み上げた南相馬市随一の集団となり、Google検索ヒット20万件という事実を生み出した。もちろんGoogleでのヒット数など毎日変わる刹那的なものだ。しかし彼らの活動はすべて、南相馬市住民にとって永遠の財産となるだろう。

以上、南相馬市立総合病院がいかに特筆すべき存在であるかについて述べた。南相馬市立総合病院は復興のシンボルである。これは間違いないし、今後もそうあり続けることを切に願う。

※Google検索は2014年3月3日時点

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