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震災から3年を前に「帰還」キャンペーン進む――「新・安全神話」のもくろみ

復興庁、環境省など11省庁が発表した「放射線リスク
に対する基礎的情報」を元に、編集部で作成。

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 放射能への不安などが消えないことから「帰還」を望まない住民がいまだ多い中、福島県民への「帰還」を促進するための安全キャンペーンを政府が主導で進めている。

 復興庁、環境省など関連11省庁は2月18日、「帰還に向けた放射線リスクコミュニケーションに関する施策パッケージ」と題する帰還政策を発表した。これは原子力規制委員会が、昨年11月に取りまとめた「帰還に向けた安全・安心対策に関する基本的考え方」を土台に作られたもの。

 来月に東日本大震災から3年を迎える前に、住民の「不安」を取り除くための新たな「安全神話」を打ち出そうとのもくろみが透けて見える。帰還政策を促進するため、少人数の座談会や相談会などの一連の施策に、来年度予算案には、数十億円が計上されている。

「本来であれば、帰還していいのかどうかの議論や、実際に被曝を低減させるための対策が先ではないか」と指摘するのは福島原発告訴団の武藤類子さん。

「(低線量被曝に関する)公開の場での議論は行なわずに、住民を個別に懐柔しているように感じる」と指摘する。

 国は、帰還促進政策を続けており、原発から20キロメートル以遠30キロ圏内を中心とした旧「緊急時避難準備区域」や、伊達市小国地区の「特定避難勧奨地点」はすでに指定解除となり、賠償も打ち切られた。さらに、4月1日に田村市都路地区の20キロ圏内が解除になるのを皮切りに、川内村、楢葉町、葛尾村、飯舘村、南相馬市、川俣町など、政府指示の避難区域も順次解除されるとみられる。

【被曝管理を個人の責任に】

 個人線量計を使っての個人被曝管理を重視する方針が打ち出されていることに対し、危惧する声も多い。

 施策の中には、「放射線に対する不安に向き合うためには、個人線量(個人線量計等を用いて測定された被ばく線量)と日常生活における自らの行動との関係を理解してもらうなど、個人に着目した対策を講じることが重要」と書かれている。しかし、被曝管理を個人に負わせるのは、「場の線量」軽視につながりかねない。

 個人線量計は空間線量より低く測定される。たとえば図に示された、福島県中通り(F地域)における1万6223人の子どものデータを見ると、個人線量計の数値は空間線量の平均4分の1しかない。大部分の子どもが個人線量計では年1ミリシーベルト(mSv)以下の被曝とされる。さらにこの中でさえ、5人は年4mSv以上の被曝をしていることも見落とされたままだ。

「最近、開発され、田村市で配布されたDシャトル(電子線量計をベースとした個人線量計)は、いままでのガラスバッジよりも数段優れています」とちくりん舎(市民放射能監視センター)の青木一政さんは話す。「しかし問題は、被曝覚悟で生活をしろ、そのために線量計を身につけて生活しろ、ということが事実上強いられてしまうということではないか」。

 その他の内容も問題が多い。

 低線量の放射線リスク(被災者にとっては強いられた被曝)を生活習慣や医療被曝などと比較している点などは、従来から繰り返された「安全神話」を忠実に踏襲した内容となっている。被曝影響を示唆するような研究や従来の規制についてはまったく触れずだ。

 放射線被曝による、子どもの感受性の高さ、個人の感受性の違いについても書かれていない。チェルノブイリ原発事故後、甲状腺がん以外にも、甲状腺機能低下、白内障、心臓や血管の疾患、免疫・内分泌の障害、糖尿病など、子どもの疾患が増加したとの多くの報告についての言及もない。

「線量を年間1mSv以下に戻し、子どもたちの保養の制度化や被曝低減のための具体的な施策、一生涯健康被害への支援が保障される健康手帳の配布などを行なうことで、初めて不安は軽減するのではないか」という武藤さん。これが多くの被災者の思いではないだろうか。

(満田夏花・FoE Japan、2月28日号)

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