記事

特集:複眼で読む新興国リスク

1/2
ソチ五輪が閉幕したそのタイミングで、すぐお隣のウクライナでは政権が瓦解。するとすかさずロシアがクリミア半島に介入して、今週の国際情勢は緊迫しました。他方、中国では全人代が始まり、こちらも気になるところ。「2014年は新興国をめぐる地政学的リスクの年」であることを痛感させられる1週間となりました。

こういうときにいつも感じるのは、「安全保障(イノチ)と経済(おカネ)」という2つの視点のズレです。大切なのは、「安保屋さん」の目で経済を見ながら、「経済屋さん」の目で安全保障を見ることでしょう。ウクライナ情勢や米国のQDR、中国の全人代など、今週報じられた様々な問題を、「安保と経済の複眼で」読み解いてみたいと思います。

●ウクライナ情勢を経済から見ると…

このところ、The Economist誌の対ロシア批判がどんどんキツくなっている。ソチ五輪開始直前に、カバーストーリーで”The triumph of Vladimir Putin”(ウラジミール・プーチンの勝利)を掲げ、「プーチンが思い通りに振る舞うほどに、ロシア経済は敗者となっていく」という矛盾を指摘したことは、本誌2月7日号でもご紹介した通りである。

その後、ヤヌコビッチ政権が瓦解すると、ウクライナの現状を”Putin’s inferno”(プーチンの地獄)であると、これまた衝撃的な表題と表紙で評した。さらに今週号は、巻頭の社説が”Saving Ukraine”(ウクライナ救済)である。ここでは「ウクライナは東と西に分裂しているのではなく、(良い政府が持てるという)希望と(腐敗した旧ソ連国のままでいいという)諦念の間で引き裂かれている」と論じている。つまり東西対決ではなく、正邪の対決と断じており、ここまで言い切ってしまうと後戻りは難しくなる。

いつもは冷静なThe Economist誌が、なぜここまで踏み込むのか。ロシアでは、4年間のメドベージェフ政権下に一定の自由化が進んだものの、2012年のプーチン大統領復帰以降は揺り戻しが起きている。「集会規制法」「名誉棄損条項復活」「NPO法改正(別名:外国人エージェント法)」「同性愛宣伝禁止法」など、プーチンの締め付け政策に対し、人権問題の観点から欧州は一貫して批判的だった。だからソチ五輪開会式も、G8で出席したのは日本とイタリアだけである。この辺の事情は、日本では盲点になっていたかもしれない。

これに経済面の理由が加わる。ここ数年、EUは域内の財政問題のために他国に構う余裕がなかった。EU加盟を望む周辺国に対し、市場統合は進めつつも、新たな加盟国を増やそうとはしなかった。ウクライナに対しても、ロシアを刺激したくないばかりに中途半端な対応に終始していた。この辺は、今週号の欧州コラム”Charlemagne”に詳しい(本誌P7参照)。

それがここへ来て、ようやく財政問題も最悪期を脱し、ユーロ圏経済も1年半ぶりにプラス成長に転じた。その矢先にウクライナはEUに接近しようとし、親ロシア政権による弾圧で死者を出してしまった。なぜ今まで放置していたのか、という罪悪感が強いのである。

かくしてウクライナ情勢をめぐり、EUの対ロシア姿勢は強硬だ。が、目下のところ、行動が伴っていない。「6月のソチG8会議をボイコットする」くらいのことでは、プーチンは動じないだろう。米国の動きも鈍く、対ロ制裁発動にも手間取っている。昨年のシリア情勢に続き、オバマ大統領はプーチン大統領に手玉に取られてしまいそうに見える1

逆にロシア側の動きは水際立っている。プーチン大統領はまことに老獪で、おそらくはソチ五輪の最中から粛々と軍隊派遣の手配をしていたのであろう。今回の作戦はロシア国内では高い支持を得ており、プーチンは「現代に蘇ったビスマルク」の感さえある。

ただし19世紀のビスマルクが、21世紀の国際政治に適しているかどうかは疑問である。以下のような現実を、プーチンはどう見ているのだろうか。

○経済・金融面から見たウクライナ情勢
・3月3日のロシア株式市場は5年ぶりの大幅安。RTS指数は12.01%下落。
・ ドル建てロシア国債は下落。ルーブルも過去最安値。
・ ロシア中央銀行は政策金利を1.5%上げて7.0%に。120億ドルの市場介入に踏み切る。
・ ルーブルは今年対ドルで9%下落。アルゼンチン・ペソに次ぐ下落率。

このあたりがロシア流リアルポリティークの限界で、このままだとロシア経済が最大の敗者となってしまう。The Economist誌の予言(もしくは呪い)は、次のように言っている。「ソ連の崩壊は思想よりも経済に原因があった。経済が立ち直らないと、プーチンの体制も危うい」(”The triumph of Vladimir Putin”)。

1 仮にオバマ大統領が、「ロシア軍がウクライナ東部に侵攻することはレッドラインだ」と言い出したら、プーチン大統領はさぞかし笑うことだろう。

●アルゼンチンとウクライナの不安

ウクライナ問題をめぐる欧米側の動きは鈍く、端的に言うとカッコ悪い。軍隊もお金も出したくはない、というホンネをプーチンに見透かされてしまっている。逆にロシア側は、ウクライナを引き留めるためなら、相当な犠牲を払う覚悟が出来ているようだ。

しかし事態が長期化すると、ロシア経済の停滞がじょじょにプーチン政権の重荷になるだろう。なにしろ昨年のロシア経済の成長率は1%台である。これに金利上昇やルーブル安が足を引っ張ることになる。外貨準備も減るし、海外からの投資も減るだろう。

ソチ五輪が成功したことで、ロシアが得るはずであったソフトパワーも大方失われてしまった。今週末から始まるパラリンピックは、会場のすぐ近くで軍事行動が進行中ということになり、「平和の祭典」にふさわしからぬ印象を世界に与えるだろう。

つまるところ、プーチン大統領が演じるビスマルク的な19世紀型外交は、政治と経済が複雑に絡み合った21世紀には適していない。今はカッコよく見えていても、じょじょに破綻をきたすのではないだろうか。

画像を見る

さて、2014年の注目テーマである「新興国の地政学的リスク」について、上記のようにまとめてみた。1月にはアルゼンチン(経済)、2月にはウクライナ(安保)という、普段であればノーマークの国で事件が発生した。両国ともウォール街的には、「新興国」よりもワンランク下の「フロンティア諸国」に分類される。

アルゼンチンの通貨売りは、瞬く間に他の新興国に波及して、”Fragile Five”(ブラジル、インド、インドネシア、南アフリカ、トルコ)なる新たなグループが誕生した。いずれも経常収支が赤字であるなど、経済のファンダメンタルズに問題を抱えている。それ以上に、これらの国の経済不振は中国経済の軟調さに遠因がある。いずれも対中輸出や資源価格の高騰に助けられてきた国だからだ。市場が警戒している「ご本尊」は中国であろう。

そしてウクライナ情勢によって、おそらくはロシア経済は一層の低迷を余儀なくされる。上の図で行くと、③→②→①の順に影響が及ぶ。が、先進国が受ける影響は限定的であり、警戒が必要なのは新興国ということになりそうだ。

あわせて読みたい

「中国経済」の記事一覧へ

トピックス

ランキング

  1. 1

    社長辞任 勝者なき大塚家具騒動

    企業法務戦士(id:FJneo1994)

  2. 2

    仏再封鎖 医師「PCR数凄いのに」

    中村ゆきつぐ

  3. 3

    橋下氏「否決なら住民投票無効」

    橋下徹

  4. 4

    安倍待望論も? 菅首相は裏方向き

    早川忠孝

  5. 5

    堀江氏 餃子店1千万円支援に苦言

    女性自身

  6. 6

    年末年始「17連休案」空振りの訳

    BLOGOS しらべる部

  7. 7

    誤報訂正せず 毎日新聞社に疑問

    音喜多 駿(参議院議員 / 東京都選挙区)

  8. 8

    伊藤健太郎の不心得を諭した女性

    文春オンライン

  9. 9

    鈴木大地氏止めた森元首相は正解

    早川忠孝

  10. 10

    ソニー好決算 PS4や「鬼滅」も

    片山 修

ランキング一覧

ログイン

ログインするアカウントをお選びください。
以下のいずれかのアカウントでBLOGOSにログインすることができます。

コメントを書き込むには FacebookID、TwitterID のいずれかで認証を行う必要があります。

※livedoorIDでログインした場合、ご利用できるのはフォロー機能、マイページ機能、支持するボタンのみとなります。