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振り込め詐欺と日本的因習

NHK理事10人全員「辞表出した」 国会で次々答弁(朝日新聞)

 NHKの籾井勝人会長が就任後、10人の理事全員に日付欄を空白にした辞表を提出させていたことが25日、わかった。この日午前の衆院総務委員会に参考人として招かれた理事10人が提出を認めた。理事の任期満了前も罷免(ひめん)できるようにし、会長の人事権を強める狙いがあるとみられる。

 「日付を空欄とし、署名、捺印(なついん)した辞表を提出しました」「私も提出しました」「私も……」

 衆院総務委で福田昭夫氏(民主)の質問に理事10人が辞表提出を認めた。籾井氏は当初、人事案件を理由に答えなかったが、理事の答弁後は「各理事は事実をそのまま述べた。それはそれでけっこう。私がどう思うかは別問題」と述べた。

 ナチス政権下の秘密警察としてゲシュタポという組織があるわけですが、これが国民を監視して縛り付ける存在であったかと言えば必ずしも関係は一方的なものとは限らず、逆に国民が密告に殺到してゲシュタポが振り回される場面も少なくなかったそうです。積極的に情報を寄せてくる協力的な市民かと思いきや、ゲシュタポが意図せぬ私的に気にくわない相手までをも密告して陥れようとする人の方が上回ることもあったようで、まぁ安倍晋三とオトモダチの関係は、そういうのに近いような気がしますね。

 さてNHKの会長が、理事全員に日付なしの辞表を提出させていたことが伝えられています。これを「名 前 は 明 か せ な い が 私の知っている複数の会社でも普通に行われていること」などと擁護する声も一部にあったりしますが、とりあえず真っ当な神経の持ち主からは「普通」とは見なされていないようです(武田薬品工業社長でもある経済同友会の長谷川閑史代表幹事に言わせれば「コーポレートガバナンス(企業統治)の問題として適切ではない」とのこと)。まぁ、こうやって権力を誇示したがる、部下を支配したがるタイプのお偉いさんは珍しくありません。勘違いの甚だしいブラック経営者の中には、NHK会長と同じことをやっている人もいるのでしょう。

 一方、我が国では今なお「振り込め詐欺」が絶えることなく続いています。今や一種の産業になっているとすら言えるでしょうか、下手に働くよりも収益性が高かったりするのかも知れません。そんなのに騙される方がどうかしていると、そう考える人も多い代物なのですけれど、増減はあれども振り込め詐欺の被害がなくなることは当面なさそうです。手口が巧妙化しているという人もいますが、そればかりでもない、むしろ振り込め詐欺が通用してしまう背景、被害者が「信じてしまう」下地もまたあるのかも知れません。

 NHK会長は理事に辞表を提出させたわけですが、末端の労働者が就職に当たっては何があるでしょう。就職する際に身元保証書、時には身元保証人の実印まで押させた身元保証書の提出を要求された人は結構いると思います。私も直接雇用であった場合には、身元保証人を立てることを当たり前のように求められたものです。この辺は実際に経験した人が多いでしょうから今さら私が言うまでもないことと思われますけれど、要するに「会社に損害を与えた場合に損害の賠償を約束する、本人が賠償できない場合は身元保証人が責を負う」ことを約束する書面ですね。日本では一般的な風習でもあります。

 我が国では不祥事や事件を起こしたりしますと、その被疑者の「親」のところにまで報道陣が詰めかけていくのが一般的です。とりわけ著名人ともなると不法行為に手を染めた「子」の代わりに「親」がメディアの前で謝罪するなんてのは全くの日常的な風景です。どうにも子供が犯した罪に対して親が謝るという振る舞い、ヨソの国から見ると「親が子を甘やかしている」みたいに映ることも多いと聞きますが、ともあれ日本では(成人していても)子供の行為に対して親が責任を負うのが自然なこととして受け入れられているわけです。

 そして先程述べました身元保証書の場合です。これに身元保証人として署名するのは「親」であるケースが一般的ですね。子供が就職するときには、「親」が「子供が起こした損害を賠償します」との誓約書を会社に提出しているということです。よく「就職活動に親が出てくるなんて馬鹿げてる、子供が自立できていないんだ云々」みたいな言説を耳にしますけれど、どうなんでしょうか。就職するときには親が保証人になることを求められるのが一般的な社会では、子の就職に親が関与するのはむしろ当然なのではないかという気がします。

 ともあれ、我々の社会では就職に際して親が保証人になることが多いわけです。そこで振り込め詐欺の典型的なパターンを思い出して欲しいのですが、例えば定番の手口として挙げられるのは、会社の金を紛失するなど要するに会社に損失を与えてしまったから何とかして金を工面して欲しい、というものです。これ、実際に身元保証書を子供の就職先に提出している「親」にとっては案外リアリティを感じる話なのではないでしょうか。親に身元保証人に「なってもらった」だけの若い人にしてみれば、鼻で笑うようなストーリーに思えるかも知れませんが、自ら身元保証人を引き受けている人にとっては、子供が就業先に与えた損失を補填するというのは必ずしも不自然に見えないものと言えます。

 NHK会長が辞表を提出させた件は良い機会です。これを機に、社員に身元保証書を提出させるという因習も少しは問題視してみたらどうかと思います。そういう手口は非近代的であり、不当な力関係を生み出そうというものでしかありません。いかに形式的なものだと言い逃れしようと、逆らえない力関係を良いことに一方だけが生殺与奪の権を握れるような書類を提出させて相手を縛り付ける、こんなことが当たり前のように続けられているようでは反社会的勢力と大差ないでしょう。上述のように、振り込め詐欺にリアリティを与える下地にもなっているはずです。犯罪抑止の観点からも、規制が必要な段階に来ているのではないでしょうかね。会社のお偉いさんに好き勝手やらせていてはダメです。

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