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有田焼創業四百年事業を憂う - 蒲地 孝典

幕末から明治の初め、名工と謳われた深海平左衛門こと年木庵喜三の名言がある。
「器物は人の思想を写すものなり 名器を作らんとすれば自身の高尚の思想を涵養すべし」
県はこの創業四百年を迎えるにあたって一憶数千万円の予算を組み、既に対外的事業を軸足にして取り組まれているようだ。

しかし、外部に対するパフォーマンスもよりも、今一度、「有田焼とは何ぞや」という
原点に立ち返って頂きたい。これは思想の問題であり、美学、美意識を伴うものである。
結論から言えば、学術的な視点を事業案に据えることである。

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有田焼は様式美の世界であった。欧州の王侯貴族を魅了した古伊万里様式や柿右衛門様式であり、将軍家に献上した鍋島様式は高度な技術や華麗なる美意識が鍋島藩の存続に反映し、そのような要素が幕末には雄藩としての存在を誇示した。また、明治の殖産興業の花形として欧米各地で開催された万国博覧会に出品され、明治伊万里と云う新たな様式美も生まれた。

これらの様式美や、名器が生まれたことを科学的に解明するとか、これらを活かした新たなデザインを開発するには科学の目が必要である。思いつきの、受けのいいアイデアを広告代理店などにアウトソーシングするのではなく、基本的な節度のある、抑制のきいた
事業案を早速、練り直してもらいたいものである。
頂きは高ければ高い程、すそ野は広がっていくものである。行き当たりばったりの効果を狙ったパフォーマンスは怠慢であり、県費の浪費である。

名器は品格のあるものである。目に見えないこだわりがいくつも秘められている。
21世紀の今日、伝統と科学の融合によって、発展と云うよりも、このかけがえのない
我が国を代表する伝統工芸を如何に存続させるかを考えるべきである。
願わくは、地元有田町民の一人一人がこの節目に当たって名誉ある町民としての自覚を
もてば、釦の『一の釦』を掛け違うことはないと思うのである。
既存施設と人材の活用を考えるべきである。有田には九州陶磁文化館、佐賀大学に編入される窯業大学、それと窯業技術センターがあり、この施設と人材を以て、有田焼存続の秘策を練っては如何であろう。

高度な技術や、雅や品格、或いは粋で多様な構造を有する有田焼の魅力を更に掘り下げれば新たな様式が生まれる可能性もあり、これらを存続するための人材の養成こそ、官が支援する事業である。
今は亡き十四代、酒井田柿右衛門氏の遺言である「美しき」物の創作と造り手の思想の
涵養が何よりも重要であることを申し述べさていただくものである。

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