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『マイルドヤンキー』の楽観と悲観/奥深いヤンキー問題

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■『下流社会』で提示された問題

昨今の日本を悩ます問題、特に、主として若年層に見られる構造的な問題とは何か? そういう問を立てると、最近では誰もが異口同音に語る『典型的な問題群』というのがある。例えばこんな感じだ。

少子化、晩婚化、若者の車離れ、若者のブランド離れ、引きこもり、草食化、地域共同体の崩壊・・ 

少子化により、そもそも人数が少ない上、全般に消費活動に淡白なのが今日の若年層の特徴ともいえ、個別企業にとっても、日本経済全体にとっても、将来に渡って非常に深刻な問題として認識されてきている。しかも、若者にとって企業の正社員の地位が高値の花となり、経済的に安定しないから、消費も結婚も子育てもますます難しくなってきている。このままでは、消費市場はどんどん縮小してしまうように見える。

その立場からの典型的な言説の一つとして、マーケット・アナリストの三浦展氏は、著書『下流社会ー新たな階層集団の出現』*1(所得が低い上に、意欲も低い層の社会)で、かつては一億層中流と称された『中流社会』日本は、今後、所得が低いだけではなく、生活能力や働く意欲、学ぶ意欲に欠け、「だらだら歩き、だらだら生きている」ような階層集団が「下流社会」を形成してマジョリティになっていくという衝撃の近未来を描いてみせた。

■『マイルドヤンキー』

ところが、その三浦氏との共著もあり、若者の欲望の喪失について共に論じていた、博報堂ブランドデザイン若者研究所リーダーである原田曜平氏の新著『ヤンキー経済 消費社会の主役・新保守層の正体』*2で紹介される、『マイルドヤンキー』(「上京志向がなく、地元で強固な人間関係と生活基盤を構築し、地元から出たがらない若者たち」のこと。この層は、地縁を大切にする保守的な意識を持っており、「新保守層」と呼ぶこともできるとされる。*3 )の行動特性を見ると、下流社会が提示した中・低所得者層の若者のイメージとはかなり印象が違う。何だか、『マイルドヤンキー』が増えれば、現代の日本が抱える問題のかなりの部分が解決されて行くようにさえ見える。これはどういうことだろうか。

『マイルドヤンキー』はかつてのヤンキーほどではないにせよ、自動車(スポーツカーではなく、家族や仲間と共に乗る1ボックスカー)を欲しがり、ブランド物が好きで、酒やタバコ等の嗜好品も好み、若くして子供を沢山欲しがる。子供ができると子供にお金をつぎ込もうとする傾向もあるようだ。企業にとっては有望な消費者であり、研究対象ということになるだろう。しかも、原田氏が述べているように、この『マイルドヤンキー』の存在は、企業側にはまだあまり認知されていない割には、今後地方(東京圏を含む)を中心に拡大していく気配が濃厚だ。

■理想的な存在なのか

消費性向が高いといっても、『マイルドヤンキー』は学歴も年収も低めで、しかも出世等、社会階層の階段を登ろうという野心に乏しい。現状肯定的(社会に不満がないわけではない)で、社会改革を先導/支持したりという意欲にも乏しい。だが、地元志向で、結婚しても両親の近くに住み、夫婦共働きということになると、ある程度の世帯収入と可処分所得はある。(東京のような大都会に出て、一山当てようというような野心(矢沢永吉等のように)はなく、そのようなリスクが自分に見合わないことも(自然に)心得ているようだ。)

低所得でも家族や仲間を大事にし、万が一解雇されるようなことになっても、暖かく受け入れてくれる環境がある。低成長を余儀無くされている企業にとって、もはや社員を一生丸抱えするようなことは難しく、減俸、解雇も普通になり、その企業自体(どんなに大手でも)破綻する可能性があるような社会では、『個人』が会社共同体からも家族や地域共同体からも見放されて自暴自棄になり、社会が荒れてしまうことが懸念されていることを思えば、ある意味、理想的な方向といえるかもしれない。実際、この動向を肯定的に評価する意見も少なくない。

「ヤンキー」のライフスタイルに学ぼう!|山崎元のマルチスコープ|ダイヤモンド・オンライン

私も、『マイルドヤンキー』化の肯定的な側面をそれなりに評価することはやぶさかではないし、企業のマーケターの立場では、若年層の消費をリードする『マイルドヤンキー』のことはきちんとスタディしておくべきだとも思う。

■ヤンキーとは何者か

しかし、それでも、どうしても気になることがある。沢山ある。

『マイルドヤンキー』はマイルドになったとはいえ、従来から指摘されてきた、ヤンキーの持つ性向を共有する人たちの集団であることに変わりない。精神科医の齋藤環氏は次のように語る。
「ヤンキーの価値観は『気合主義』と『反知性主義』。つまり、『気合と勢いがあればなんとかなる』『ややこしい理屈をこねるより、大それたことを実行した奴が偉い』という発想です。このような考え方は、日本人なら誰もが多かれ少なかれ不良経験とは無関係に持っているのですが、近年それが顕著に表れるようになっています。

ご存知でしたか 日本人の9割がヤンキーになる 1億総中流の時代はよかったなぁ  | 賢者の知恵 | 現代ビジネス [講談社]
加えて、次のような要素を指摘することができるという。この記事だけではなく、齋藤環氏の著書、『世界が土曜の夜の夢なら ヤンキーと精神分析』*4等からも少し多めにピックアップしてみる。
『現実志向』『家族主義』『保守的』『母性』『集団主義』『ロマンティシズム』『関係性を志向する情緒』『言行一致重視』『感性的行動主義』

『おのれの感性を信じて行動する』『判断より決断が大事』『計画や戦略といった小賢しさを嫌う』『逃げることや判断保留、妥協や保険をかけることを嫌悪する』『アゲアゲの体当たり至上主義』・・・ *5

■歴史的な存在だが・・

私は齋藤氏の記事や著作を読み、ピックアップ作業を行っているうちに、背筋がゾクゾクしてくるのを禁じ得なかった。ヤンキー文化というのは、すなわち日本の文化の中核であり、ヤンキーというのは、伝統的に日本人が最も好む日本人像ということではないのか。『マイルドヤンキー』という一現象の表面をなでる程度のつもりで取り組んだこの問題は、実は日本人の原像の最も奥深いところまで繋がっているのではないか、そう思えて来たからだ。

斎藤氏によれば、日本には伝統的にこのヤンキーの心性を好む傾向があり、それを体現する人物は総じて人気がある、として、坂本龍馬や白洲次郎*6の名をあげる。いずれも幅広く日本人に人気がある。立ち振る舞いは粋で、言動はとても格好がいい。『ガチで気合い入ってて、ハンパなく筋が通ってる』。だが、そんな彼らの業績を正味で評価することは意外に難しい。調べれば調べるほど、彼らのイカす言動とは別に中味の部分、すなわり本当のところ何をした人なのか、わからなくなってくるのだ。

明治の元勲でも、西郷隆盛と大久保利通を比較すると、客観的な政治的な実績は圧倒的に大久保利通のほうが上といわざるをえない。実際、外国人にこの二人の歴史上の業績を示して、客観的に評価してもらうと、口を揃えて、大久保利通のほうが上と答えるという。外国人は一様に、西郷は破壊以外に何をやったのかわからないというのだそうだ。だが、日本人には、西郷のほうが圧倒的に人気がある(冷徹な策士だった大久保より、包容力が抜群で理論より感性で行動しきる西郷のほうが好かれる)。

赤穂浪士、新撰組、二・二六事件の青年将校、神風特攻隊・・映画やテレビドラマで繰り返し取り上げられる題材だ。いずれも歴史的な意義や評価は別として、妙に人気があることを日本人なら誰でも知っている。いずれも、『ガチで気合い入ってて、ハンパなく筋が通ってる』『後のことを考えず感性のままに行動する潔さがある』ことは確かだ。だが、いずれも如何にも危うい。

日本人の心性の奥底にあるエートス(習慣・特性)が、危機の時代を迎えて続々と表面化してきているのではないか? 『マイルドヤンキー』もその現象の一端ではないのか? 日本が『マイルドヤンキー』だらけになったら、かつての日本(昭和初期の日本等)のような危うさを構造的に抱えることになるのではないか?そのように考えられる状況があり過ぎて、息苦しくなりそうなほどだ。

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