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絶望のたりない『絶望の裁判所』

瀬木比呂志『絶望の裁判所』を読んだ。

構成は大きく二つに分かれている。前半は裁判所という組織や、組織に属する裁判官批判だ。そして後半では、裁判所を再生し市民のものにするには、法曹一元制度が不可欠と主張している。

隠然たる支配を行う最高裁事務総局と、その気配をうかがう「ヒラメ裁判官」。多くの裁判官にとって事件は処理の対象でしかなく、官僚統制と厳格な組織ヒエラルヒーの中で、幼児化した自我を肥大させる裁判官や、精神を病み自滅していく裁判官。これらの描写は、筆者がナマで経験したためか、とてもリアルだし、ほぼ特定が可能な裁判官も多く、話題呼んでいるようだ。

だが、我々弁護士から見れば、裁判所が官僚統制の牙城と化していることは周知の事実だし、弁護士を何年か経験すれば、トンデモ裁判官の5人や10人は見ているので、これらのエピソードは、特段珍しいものではない。

多少の新味があったのは、2000年(平成12年)の司法制度改革以降、裁判所の官僚支配が強化された、という指摘だった。このとき日弁連は「法曹一元」を錦の御旗に掲げ、官僚司法打破を目指し大騒ぎしていたことは、『こん日』に記したとおりだ。瀬木氏の指摘が正しいとすると、官僚司法打破のための司法制度改革は、官僚司法をより強化する結果に終わったことになる。司法官僚のしたたかさも相当なものだが、一方、勝ち目のない攻城戦を挑み、かえって守りを強化させてしまった、日弁連の罪は重い。

他方、本書で最も物足りないのは、法曹一元を導入すべきだと主張する、瀬木氏の主張の薄さだ。いまの裁判制度や裁判所、裁判官は酷いことばかりだから法曹一元にすべきだ、という主張は、戦争は悲惨だから平和がいいよね、という主張と同じである。説得力がありすぎて、反論する気力もない。

上述したとおり、2000年の司法制度改革も法曹一元導入を(途中までは)第一目標に掲げていたし、1960年代の臨司意見書も、法曹一元の導入を望ましいと認めた。戦後すぐである1945年(昭和20年)には、若きエリート裁判官である内藤頼博らが、人格識見に優れた弁護士を相次いで裁判所の要職に抜擢し、人事運用によって法曹一元を実現させようとした。だが、これらの試みはいずれも失敗した。法曹一元が望ましいといったところで、この歴史を踏まえなければ、何の意味もないし、法曹一元を唱えさえすればいつか実現するというなら、『絶望』との書名が泣くだろう。

瀬木氏の主張に最も欠けているのは、なぜ、わが国では法曹一元導入の試みが、ことごとく失敗したかという問いに対する研究である。学者裁判官を自負される以上は、この研究を尽くした上で、法曹一元を論じられたい。

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