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裁判官の「クロ心証」を「灰色認定」で解決する極意

当ブログでも以前から注目していた裁判ですが、2月27日、英会話学校NOVA(破産手続き中)の元受講生らが、元社長ら経営陣などに、未返還の前払い受講料など計約2100万円の損害賠償を求めた訴訟の控訴審判決が出ました。大阪高裁は元社長ら取締役4人に計約1900万円の支払いを命じました。一審の大阪地裁は、原告側の請求を棄却していたので、原告側は逆転勝訴です(関連の記事はこちら。ただし、監査役と監査法人に対する請求は控訴棄却)。

上記記事によりますと、社長の不作為の任務懈怠(法令遵守体制の整備義務違反)について、他の取締役(実質的な名目的取締役とのこと)には「社長の違法行為に対する」監視義務違反があった、という法的構成のようです。監視義務の対象となるのは、普通は他の取締役の作為による不正行為ですが、社長の不作為が不正行為であることは、他の取締役にとっても明らかだった・・・ということなのでしょう。判決文を読んでいませんのであくまでも推測ですが、高裁の裁判官は元社長の故意(違法行為であることを認識しながら、違法な勧誘を社員らにさせていた)の心証を得ていたが、元社長さんが否認しているので、故意にも匹敵すべき「重過失」をもって損害賠償責任の根拠としたのではないでしょうか。

1月30日に最高裁判決の出た福岡魚市場事件株主代表訴訟(親会社役員の会社に対する損害賠償責任が認められた事例)においても、損害賠償請求権の否定理由については上告受理の時点で排除されています(民訴法318条3項)。つまり原審(控訴審)の判断理由が最高裁でも支持されたわけですが、原審(福岡高裁)が判断している内容などを精査してみると、どうも高裁の裁判官は「親会社である福岡魚市場の役員は、そもそも子会社不正を認識しつつ親会社のために活用していたのではないか、もしくは不正を知っていながら親会社の利益のために隠していたのではないか」との心証を得ていたように(判決文の書きぶりから)思われます(これはあくまでも私個人の推測ですが)。

企業経営者の善管注意義務違反や重過失を根拠付ける注意義務違反のレベル感がよく判例研究などで検討されますが、経営者の子会社管理のレベルや経営判断原則の適用範囲など、判例の射程距離を誤ると企業実務に良くない影響を与えてしまうおそれがあるように思います。私自身、経営者の内部統制構築義務違反の裁判例にはとても関心がありますが、貴乃花親方名誉毀損(講談社)事件で講談社社長が敗訴した事例、日本システム技術不正経理事件で同社社長が敗訴した一審、控訴審の事例などについて、会社法解釈のほうにばかり目がいってしまい、当初はずいぶんと判例を一般化して一般事業会社の取締役の行為規範と結び付けてしまいました(反省しております・・・)。しかし裁判官の心証形成過程などにも十分に配慮しなければ、その裁判例がどういった事例について妥当するのか、その射程距離を誤ってしまうことになります。

企業コンプライアンスの視点から最近の企業裁判を眺めますと、「これって経営者が関与しているか、組織ぐるみと言わざるを得ないよなぁ」と感じる事件について、経営者が関与を否認している場合の民事責任はどうなるのか・・・とても興味を覚えます。不正調査を本業とする身として、どこまでの証拠をそろえれば(役員や従業員が否認しても)民事・刑事事件において不正事実を立証できるか・・・ということを意識せざるをえません。とくに民事事件を担当する裁判官の場合には、「どう考えても経営者は悪意がありそうだが、証拠上明らかとはいえないので、本人は悪意だったとも言えそうな事情を重過失や過失の根拠事実の中に含ませよう」としているように思えます。

昨年11月、こちらのエントリーにてご紹介しましたが、NPB統一球問題に関する第三者委員会報告書なども、この「故意に匹敵する重過失」を研究するうえでとても有益な事実認定がなされています。もちろん「疑わしきは被告人の利益に」が妥当する刑事の世界では通用しませんが、民事賠償の世界では、こういった「疑わしきは取締役の不利益に」という理屈も成り立つことが多いのではないかと思います。

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