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「ひきこもり」問題によって「女性」問題が隠蔽された?

■語れない当事者、サバルタン

前回の当欄はもう10日も前になってしまった。そこでは「当事者は語れない~誰が代弁し、誰が代表するのか」として、ひきこもり問題にしろ高校中退問題にしろ、「当事者」に近づけば近づくほどその人は「当事者」としての語りができなくなるという皮肉な矛盾が生じる、と書いた。

その「当事者」の代わりに、その問題を「代弁」する人(僕のような第三者)と、「代表」する人(いわば「元当事者」でありその問題の「経験者」)の語り方が非常に重要になるとした。

哲学者のスピヴァクは、そうした「語れない当事者」的立場の人を「サバルタン」と名づけている。

詳しくは、『サバルタンは語ることができるか』をご参照願いたいが、究極の階級社会であるインド社会において、その最下層階層に属す男たちが亡くなった時、それとともに死に追いやられた「妻たち」のことを指す。

彼女たちサバルタンは固有名をもたず、花の名前等の一般名で呼ばれたとスピヴァクは記す。

そうしたサバルタンの女たちこそ、真の「当事者」であり、真の「当事者」になればるほど固有名を奪われ当事者としての語りも奪われていく。

これと重ねるようにして、僕は、日本の「ひきこもり」の問題の中にもこのような「語れない当事者」的要素が含まれるのでは、と15年ほど前から書き続けてきた。

厳密には、スピヴァクのサバルタンと日本のひきこもりではその深刻性と潜在性の重さが異なる(当然本家サバルタンがハード)。

が、構造的なもの(問題の本質にいる人ほど「語れなくなる」)は非常に似通っていると僕は以前から思っていた。

不思議なことに実際に支援していると、不登校であればあるほど、ひきこもりであればあるほど、「自分は不登校(あるいはひきこもり)ではない」と言う子ども・若者が多い。あるいは「不登校」「ひきこもり」というワードを言葉にできない。

マイノリティ問題の中心にいる人ほど(そのマイノリティ当事者であればあるほど)、その問題について語れなくなるという構造は、インドのサバルタンほどではないにしろ(固有名すら奪われている)、日本のひきこもりも同じではないかと思ってきたのだ。

■隠されてきた「当事者」、女性

が、ここにきて僕が思うのは、そうした「サバルタンとしてのひきこもり」問題の構造は変わらないものの、さらにその下に(あるいはその「外」に)、潜在化し続けてきた「当事者」問題があるのでは、ということだ。

その「当事者」とは、なんのことはない、「女性」ではないのか、と思い始めた。

特に「若い女性」が、隠されてきた「当事者」として、これから顕在化するのではないかと、この頃の僕は思い始めている。

いや、正確にいうと、問題そのものはこれまでずっとあったのだが、社会がそこに目を向けなかった、あるいは僕自身もそこに目を向けなかったのではないか、という自己反省も含まれている。

非正規雇用の多数派は女性であるということは、各種調査から明らかになっている。非正規雇用にはアルバイトが多く含まれ、それらは長期アルバイトであっても雇用そのものは不安定なことから、アルバイト状態とニート状態を行き来している、といった人も珍しくないだろう。

アルバイトということは、時々「ニートにもなっている」ということと同義だということだ。

また、たとえば「虐待」や「ステップファミリー」や「家庭内暴力」等の家族問題に関する用語は、ニュース等でも現在日常的に使用されている。こうした問題の中での「被害者」は児童だけでもなく、思春期の女性も当然多く含まれる。

が、これは僕のバイアス(偏見)かもしれないが、ニートやひきこもり問題であればどちらかというと「青年期の男性問題」、虐待であればどちらかというと「子どもの問題」として捉えがちになっている。

特にひきこもり問題は、調査によってまばらではあるものの、「7~8割が男性」という「常識」が流通してしまっている。調査によっては男女5割ずつというものもあるのではあるが、どちらかというと「ニート・ひきこもりは男性の問題」という「常識」が広がっている。

これは虐待も同じで、子どもが虐待されるというイメージが強烈なため、思春期の女性が多角的(ネグレクトや経済的)に虐待されているという事実が後回しに(潜在化)されている。

社会は(あるいは僕のような支援者は)、立派な被害者(変な言い方だが)である若い女性を無意識的に潜在化させ、「男性」や「子ども」をメインの「当事者」として顕在化させてきたのでは、とこの頃僕は考えこんでいる。

古くて新しい「マイノリティ問題としての女性問題」は、何一つ解決することなく、潜在化して社会の底に存在し続けてきたのでは、というあらためての気づきだ。

■カフェによって顕在化した

これは僕としては非常に情けない気づきだ。女性の問題は僕なりに勉強してきたつもりであったが、なぜか「子ども」や「男性」のインパクトに押し切られていた。

そのことを僕は、一昨年から本格的に取り組み始めた「ハイティーンへの支援」を通して気付き始めた。くしくも2010年代になった我が国では、本格的に格差社会となり、30年後あたりに完成するであろう本格的な「階級社会」への移行期に入っている。

そうした時代背景のなかで、「高校生(あるいはハイティーン)の自立」が最優先課題だと僕は考え、日々の仕事を行なっている(「高校生支援をつなぎたい」)。

そこで、上に書いたような「若い女性」の問題にあらためて気づいた。

考えてみると、「高校生居場所カフェ」の常連に女生徒が多いというのも、単に「カフェ好きには女性が多い」といった思い込みではないと思う。

カフェ的ソフトな入り口を用意して初めて、そこに現れているのが、「潜在的問題としての若い女性」なのではないだろうか。逆にいうと、ソフトな入り口を用意しなければ、ずっと潜在化され続けている問題ではないか、ということだ。★

※Yahoo!ニュースからの転載

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