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山梨県の大雪災害を山梨日日新聞から読み解く - 秦康範

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本稿では筆者が甲府で経験した大雪について、実際に何が問題になり、事態がどのように推移していったのか、自らの経験と地元新聞の一面記事の見出しを使って、皆さんにご紹介したい。本稿をとりまとめた2月25日現在、山梨県は災害対策本部体制にあり、現在も災害は継続している。現時点でとりまとめたものであることをご了承いただきたい。

今回の災害は、すでに多方面で指摘されているが、「普段積雪の少ない地域」において、歴史的、記録的な大雪となったということに尽きるだろう。冬の山梨というと、冠雪した富士山や白銀の南アルプスに代表されるように、雪のイメージを持つ人が少なくないだろう。かくいう筆者も、山梨に赴任する前は雪のイメージがあった。しかし、都道府県別の年間日照時間は1位(2010年)となっており、山間部を除いて晴天の日が非常に多い積雪の少ない地域なのである。

一般に、災害とは素因と誘因[*1]により説明される。誘因とは、地震、津波や豪雨、今回のような大雪など、災害を引き起こす自然現象のことである。そして素因とは地域社会のことを意味し、地形や地質といった自然素因と、人間社会を意味する社会素因により構成される。

日本海側の豪雪地帯であれば、甲府の114cmや河口湖143cmの積雪があったとしても、これほどの被害や混乱は生じなかったであろう。なぜなら、豊富な除雪車と道路には消雪パイプやロードヒーティング、流雪溝といったハード対策と、除雪技術を有する作業員と豪雪のための防災計画、マニュアルといったソフト対策が整備されているからである。さらに、地域住民も普段から豪雪への備えを行っており、積雪時の対応についても習熟している。つまり、災害は降雨や降雪といった誘因だけで決定されるのではなく、素因である地域社会がどれだけ誘因に対して脆弱なのかと密接に関わっているのである。わずか数cmの積雪で、東京近郊の交通網は麻痺し、大雪との報道がなされるのはそのためである。

[*1]素因を脆弱性、誘因をハザードとして説明されることもある。

当方の経験とローカル新聞の見出しから見る大雪の影響の多様さ

まずどれだけの積雪があったのか見てみよう。

図1は、2月7日~2月25日にかけての、甲府アメダスにおける1時間降雪量と積雪量を示している。2月14日から降り続いた大雪のため、2月15日に114cmを記録し、1894年からの観測史上最大の積雪量となった。

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図1 甲府アメダスにおける1時間降水量と積雪量(期間:2014年2月7日~25日)

実は今回の大雪の1週間前にも、甲府では大雪があった。2月8日未明からの降雪で、甲府は最大積雪量43cmと2月としては観測史上3番目を記録した。筆者も2月8日(土)、9日(日)は、住民総出で雪かきに追われた。

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表1 山梨日日新聞朝刊の一面記事の見出しと一面に占める大雪関連記事の比率

表1は、山梨日日新聞朝刊の一面記事の見出しと一面に占める大雪関連記事の比率[*2]を整理したものである。2月9日の見出しから、2月8日の甲府で41cmの積雪があったことや、大雪により交通網が終日乱れたことがわかる。

翌10日の見出しは、「大雪後遺症 生活に打撃 交通まひ、事故・けが人続出、休校」となっており、県内各地で大きな影響があった。実際、県内の物流は滞り、コンビニエンスストアの陳列棚からは商品が消えた。また、住民の多くがスコップやスノープッシャーといった雪かき道具を買い求めたため、ホームセンターではこれらの商品が直ぐに無くなった。この2日間の朝刊に占める大雪関連記事の比率は、それぞれ全体の52%、58%となっており、大雪はトップ記事として報じられた。

この経験から、食料の備蓄や除雪道具を買いそろえた人も少なくなかったと思う。2月14日には一面から雪関連記事はゼロになり、一面で報じるべき雪の影響はなくなったことがわかる。もちろん、これは雪の影響が完全になくなったことを意味しない。同日の社会面には、「大雪予報に「またか」 県内スコップ完売/置き場に苦心 道路除雪予算が不足」との見出しで、14日未明から15日かけての降雪に見舞われる予報と、雪にうんざりする県民の声が報じられた。筆者自身、「また、雪かきか」という思いだった。甲府気象台からは、「重い雪、先週よりも積もる恐れ 農業施設に警戒促す」と、次第に雨に変わる見通しとの表現とともに警戒の呼びかけを行った。

[*2]コラムと広告を除いた一面紙面の面積に対する、大雪関連記事の面積の比率を算出した。

こうして2月14日(金)を迎えることとなった。注目してもらいたいのは、積雪深がゼロにならないまま、降雪を迎えたことである。至る所で雪が残っていたし、山間部には多くの残雪があった。そして、未明から降り続いた雪は、明らかに先週以上のペースでみるみる積もっていった。

筆者は大学で勤務していたが、異常な降雪から正午過ぎには帰宅指示が出た(写真1)。もちろんこのような指示は初めてのことである。このあたりから大雪に関する情報収集を開始した。午後18時には積雪量は既往最大の49cmに達した(写真2)。若干アングルがかわっているためわかりにくいかもしれないが、4時間の間に正面の階段は見えなくなり、軽自動車も雪に覆われている。

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写真1 山梨大学工学部駐車場(撮影:2014年2月14日14時)

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写真2 山梨大学工学部駐車場(撮影:2014年2月14日18時)

このような状況であったが、テレビでは雪のことはほとんど報じられなかった。一方、Twitterでは大雪のため立ち往生する自動車の写真を目にするようになり、とくに国道20号の渋滞により中央道大月ICから出られなくなった車両が数珠つなぎになった写真は、強烈なインパクトがあった。甲府市古関町では雪崩により4台の自動車が巻き込まれ、自衛隊への災害派遣の要請、中央線の不通、精進湖周辺のホテルの孤立といった情報がどんどん流れてきた。異常な事態が刻々と進行している。そんな意識を持った。

普段は災害情報の収集に役立つテレビも、このときはソチオリンピック一色で、なかなか状況がつかめなかった。大災害の時には自分の見える範囲のことしかわからなくなると言われるが、まさにそのような状況にあった。「今何が起こっているのか」を判断することができる情報が、流通していたメディアは、Twitterのみであった。すでに被害を伝える写真が多数リツイートされていたし、国道を管轄する国土交通省甲府河川国道事務所@mlit_kofuのアカウントからは、14日13時40分に国道20号甲州市大和町鶴瀬地先でスタック車両の発生が報じられ[*3]、立ち往生したドライバー向けに20号沿線で開設された避難所の情報提供がなされた。

いくつかリツイートされた被害情報の中で、NAVERまとめ「記録的降雪で交通遮断、陸の孤島となった山梨県各地の様子」は秀逸だった。県内の被害ツイートがまとめられ、多くのネット住人達が、山梨県の被害に気がつき始めた。

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写真3 自宅前の駐車場(撮影:2014年2月15日8時)

こうして2月14日未明から降り続いた雪は、翌15日9時まで続き、観測史上最大の114cmに到達した。そのときの自宅前の駐車場が写真3である。降雪のほとんどない地域で生まれ育った私には、積雪量に呆然とした。甲府盆地でこれだけの量であれば、山間部では一体どれくらい降ったのか。駐車場の雪かきは近所の人たち総出で行ったが、自動車が通ることができる最低限の共有スペースの確保に、丸二日かかることとなった。

2月17日の見出しは、「県境途絶「陸の孤島」」であり、紙面の比率も87%に達した。山梨県は面積の8割が山岳部であり、大地震の際には県全域が陸の孤島となる危険性を、筆者が所属する山梨大学地域防災・マネジメント研究センターでとりまとめていた[*4]。東海地震等の巨大地震を想定したものであったが、図らずも大雪に対して非常に脆弱であることが露呈した。

16日午後、県防災危機管理課を筆者は訪問し、職員の方々と簡単な意見交換をさせていただいた。15日、16日にかけては、立ち往生したドライバーの安否と、孤立した地域からの救助が主な対応ということであった。同課職員の多くは参集し、14日から不眠不休で対応していたが、被害に関する情報は県にほとんど集まっていなかった。その後、県が災害対策本部を設置したのは、週明け17日(月)の朝であった。

18日の見出しは、「13市町村 1800世帯孤立」と孤立集落が大きな問題として取り上げられた。17日23時には、中央道の通行止めが解除されチェーン規制となり、18日から物流が回復し始めた。同時に甲府⇔新宿間の高速バスや中央線の一部も運転を再開、公共交通機関も続々と回復し始めた。その結果、19日の「県内「陸の孤島」は解消」との見出しにつながる。18日、19日は、全面が雪関連となった。

20日の見出しは、「集落孤立 まだ519世帯」と集落の孤立化が依然として解決していないことや、「県、問われる危機管理」と県の初動対応が批判されるようになった。21日は、外部から調査に入った雪氷の専門家の現地調査から、全県で雪崩の危険があることが報道され、翌22日「雪崩 各地で警戒」の見出しになった。

25日現在、全県で雪崩注意報が発表されたままであり、雪崩による二次災害防止は大きな課題となっている。孤立集落については一部を除きほとんどが解消されている他、中央道の復旧から徐々に物流も回復し、平常時に戻りつつある。一方、農業被害は大変深刻なため、「ハウス再建費 3割助成 国が雪害支援策」、「5年間、無利子融資」と支援内容が話題となっている。

山中湖では依然として積雪が1mを超えており、除雪はまだまだこれからである。いくつかの市町村で雪害ボランティアの派遣・受け入れが行われている。詳しくは、県ホームページをご覧いただきたい。

以上、事態の推移について私の経験を交えながら地元新聞の一面記事を元に紹介した。誘因は、14日未明から15日9時までの降雪であるが、25日現在においても県内に多くの影響を依然として及ぼしている。図2に示されるように、積雪量は気温上昇に伴って順調に減少しているものの、大雪関連記事は80%を占めており事態の収束には至っていない。

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図2 甲府アメダスにおける日最大積雪量と一面に占める記事の比率(2014年2月7日~25日)

[*3]https://twitter.com/mlit_kofu/status/434189650509328384/photo/1

[*4]2011年5月30日プレスリリース資料にて、巨大地震が発生した場合の危険性として、甲府盆地の孤立を指摘し、県の孤立を想定した防災計画の策定を提言している。

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