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僕が取材先に原稿を確認してもらう理由

広報確認をめぐる話題がちょっと議論になっている。ちょっと論点は違うかもしれないけど、これについては以前から僕も僕なりに信念があるので書いておこうと思う。

僕は教育関係の取材をすることが多い。主に学校や塾、識者に取材をする。できるだけ中に入り込んで、現場の生の声を拾いたいと思っている。そのためには信頼関係がとても重要だ。こそこそと取材するのでは向こうもガードを固めてしまい、思い通りの取材ができなくなる。こちらの希望する取材内容を伝えて、それに対してできるできないを判断してもらう。先方から協力してもらえる範囲での取材でベストを尽くす。それが僕のスタンス。ときどき消化不良の取材もあるが、無理はお願いできない。本来であれば生徒対応に時間を使いたいであろう忙しい先生たちの貴重な時間をいただいて取材をさせてもらっているのだ。そのことへの感謝を忘れないように意識している。

そして、原稿は必ず確認してもらうようにしている。「お任せします」といわれても、確認してもらう。そのための時間を余計にとらなければならないし、面倒くさい作業ではある。しかしそれは記事の質の担保のために、自分に課すべき重荷だと考えている。これには「取材先に原稿を見せる前提では悪いことは書けないだろう」という批判もあるだろう。しかし、僕はトータルで考えて、それでも原稿確認はしてもらったほうが、メリットが大きいと考えて、あえてそうしている。メリットとは、僕、取材先、読者の3者にとってのメリットだ。

まず数字、名称などの客観的な間違いを発見してもらえる。取材内容を間違えて書いてしまうということはあってはならないことなのだが、実際にはあり得る。もしくは取材対象が話した内容自体が間違っていることもある。たとえば校長が記憶を元に話してくれたことの中にあった間違いを、広報担当の先生が気付いてくれるということもある。裏取りという意味が合いがある。実際、取材内容に忠実に原稿を書いても、あとで確認をしてもらうと、「すみません。取材時にお話ししたときにちょっと勘違いをして、内容が間違っていまいました」ということはよくある。

次に、取材を録音して、正確に書き起こしたとしても、それが単なるテープ起こしではなく、僕の意図に沿った文脈で原稿になる時点で、誤変換が起こる可能性は必ずある。特に教育に込められたメッセージは抽象的なので、誤変換が起こりやすい。その場では私なりに理解しているつもりでも、それを文字にしてみると、話した側と受けとった側で認識がずれていたということはやはりある。似たようなことは日常でもよく起こることだろう。それこそ夫婦の間だって。学校の先生や塾の先生が発したメッセージのニュアンスを、私が誤変換して活字にしてしまった場合、いちばん迷惑をかけてしまうのは取材対象ではなく、その生徒や保護者たちである。「先生がいつもいっていることは、本当はこういう意味だったの!?」と混乱させてしまう。教育現場においてそのような誤解を招いたとしたらその罪は重い。取材対象の発言に関して、取材対象が意図したとおりの内容になっているかどうか確認してもらうことは、その意味で非常に重要だと僕は考えている。たとえば自分が子育てについて考えていることを誰かに話して、それがちょっと違ったニュアンスで記事になって、それを子どもや妻が見て、「え、そんな風に考えていたの!?」と思わせてしまったとしたら、その誤解を解くのはとても難しい。そのような迷惑を、せっかく貴重な時間を使って取材に応じてくれた取材先にかけてしまうのは本当に罪深いと僕は考える。

「取材先に原稿を見せる前提では悪いことは書けないだろう」という批判については僕は次のように考えている。

僕は、取材対象のことを客観的に書いた原稿部分のみについて、上記のような確認作業を行う。数字・名称など客観的要素に間違いはないか、先方の発言の意図を曲解していないかがあぶり出せる。ときどき、「もっとこう書いてほしい」などという要望をもらうことはある。でもそれが読者メリットにならないと判断したら、低調にお断りをする。先方に確認を出したからといって、いわれた通りに直す必要はないのだ。何往復かの交渉になる場合はあるが、そこではこちらも折れない。そこでこそジャーナリストとしての信念と心意気が試されると思っている。そこを守れれば、先方に確認を出すことで失われるものはない。要望を突きつけられるのが怖くて先方確認ができないというのは、そのほうがジャーナリズムとして腰が引けているのではないかと僕は思う。

そのうえで、僕の考えを述べている部分については先方確認には出さない。あくまでも僕の考えであるから。取材を元に客観的に学校や塾やその他サービスについて書いている部分については取材先に確認をしてもらうが、僕の主観に基づいて書いている部分は基本的には見せない。原稿を書く段階で、そうやって明確に書き分けている。そのほうが、読者にとっても、どこからどこまでが取材先の発言で、どこからがおおたの考えなのかがわかりやすいだろう。あくまでも僕の考えとして表現したことについては、仮に取材先に対してネガティブな内容を含んでいたとしてもあとから叱られたことはない。僕で僕の責任で書いていることが明確であるからだ。また、取材対象について、別途第3者に補足取材をした場合も、補足取材部分についてはもともとの取材対象には原則見せない。 

かつて週刊誌の企画で、予備校のサービス内容を一覧表にまとめたことがあった。校舎数だの合格者数だの数字がたくさんある。文書ベースで回答をもらい、それを一覧表にした。編集部としては「ジャーナリズム」の原則に鑑み、先方確認はしないというスタンスだったのだが、僕は僕の判断で先方確認に出した。するとやはり赤字が入ってくる。どんなにやっても間違いはあるのだ。文書ベースで回答をもらう際には最終的な一覧表の構造が見えていないために、主旨と違う回答をしてしまうこともある。あれを確認なしに世の中に出していたらどれだけ多くの人に迷惑をかけることになっただろうかと思うとぞっとする(ちなみにそのときは、せっかくの赤字を一部編集部が反映し損ね、間違った情報が出るという失態があった。そんなレベルの低い間違いをする編集部がジャーナリズムの定義を盾に先方確認すらしないというのだからおかしな話だ)。できる確認はすればいい。自分の責任で主義主張を訴える部分については見せる必要はない。そう線引きしている。

肩書きを聞かれたとき、僕は「育児・教育ジャーナリスト」と答える。しかし知っている人に電話をかけるときなどは「ライターのおおたです」と言う。「ライター」という職業名にはなかなかなじみがない人も多く、会社名だと思われてしまうこともある。だから、よく知らない人に対しては、「取材をして書く人」という意味で「ジャーナリスト」という職業名を使うことにしている。そのほうが通じやすいから便宜上そうしているだけで、そこに深い意味はない。ちなみに、名刺には、ただ「おおたとしまさ」と書いてあるだけで、肩書きは何も書いていない。僕は「ジャーナリスト」であるために書いているわけではない。調べて伝えたいことがあるから書いているだけだ。その行為になんらかの名称がつかないのならそれでいいのだ。「ジャーナリズム」の定義に興味はない。

「取材先に原稿を見せるなんてジャーナリズムじゃない」というのなら、そうなのかもしれない。それでベストなパフォーマンスを発揮できるのなら、先方確認なんてしなくていい。他人の信念や仕事の仕方にとやかくいうつもりは僕にはない。でも、僕自身は、「ジャーナリズム」の定義に従うために、仕事の質を落とすくらいなら、そんなものは無視しておけばいいと考えている。その意味では、「取材先に原稿を見せるなんてジャーナリズムじゃない」という思い込みこそ「思考停止」だと考える。自由な思想・発想こそを武器にすべきジャーナリストが、「自分が何を成すべきかを逐次判断すること」よりも、「ジャーナリズムの定義に自分を規定すること」を優先してしまっては、本末転倒ではないだろうか。

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「取材記事は発表前に確認させてください」?時代遅れな広報パーソンに物申す - Hayato Ikeda

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