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ペテン師と天才のあいだ〜佐村河内守とS.ジョブズを比較する

交響曲「HIROSHIMA」等の作曲が全くの偽装であったことが日本クラッシック界の一大スキャンダルとなっている佐村河内守氏。耳が聞こえない、被爆二世など数々の艱難辛苦を乗り越えて、ベートーベンばりの「大曲」を作り上げたという美談がとんだデッチ上げだったことは、もはやご存知だろう。このペテン師は、まさに絵に描いたようなペテン師で、バッシングされる他はないのだけれど、メディア論的には、今回の佐村河内氏について、ちょっとひねくれた場所から分析を施してみるとオモシロイと考えた。

それは、

「佐村河内氏、残念。もう少しで天才だったのに」

という前提で議論を展開してみること。しかも、これを21世紀の天才、S.ジョブズとの比較で考えてみたいと思う。つまり、

「佐村河内氏は、もう少しでジョブズになれた。ただし、なれなかった。じゃあ、その根本的な違いはどこにあるのか」

ちなみにジョブズ信者のみなさんには逆鱗に触れそうな論述になるかも知れない。つまり「ジョブズ様と佐村河内なんてインチキ野郎を比較するとは何事か!」。実は、僕もジョブズファンの一人。そうはいっても、冷静に見ると、2人はある部分でやっぱり実によく似ていると思っている。ジョブズも、やはりインチキっぽいところが多々あるのでけれど、それがとてつもなく魅力でもあるのだ。でも、完全に違うところがある。ならばアナロジー的な考察を施せば、佐村河内氏のペテン師度合いがわかりやすいと考えたので、ご容赦願いたい。そして、これは「天才」がどういう存在なのかを、ある側面では相対化する議論でもある。

佐村河内氏とジョブズ、その類似点

2人の類似点はどこか?先ず共通するのは、自分が関与した領域での専門技術を持ちあわせていない点だ。佐村河内氏は楽譜が書けない。一方、ジョブズはプログラムが書けない。前者は新垣隆という人物に曲を書かせ、後者はS.ウォズニアック(そしてAppleのエンジニア)にプログラムを書かせた。しかし、とりあえず二人とも自らが関与した領域で成功した。

ということは、こういった技術を埋め合わせる別の才能を備えていたということになる。その才能とは「大ホラ吹き」「デマゴーク」であるという点だ。佐村河内氏は前述したように、とにかく様々な嘘を並べ立て、自らをベートーベンもどきに仕立てた。ジョブズもあり得もしない夢想をさも当然のことのように語り続けた。ジョブズの語りは「現実歪曲フィールド」を形成すると言われた。この夢想が、ジョブズの語りの中で展開されると「現実」に見えてしまうような、あやしげな説得力を放ったのだ(これは新商品発表のプレゼンを見るとよくわかる。メディア的に「これでもか」というくらい様々なギミック、レトリックが施されている)。つまり、2人ともウソ(事実もあるが)をつなぎ合わせ、それを現実に見せてしまう「錬金術」を持ちあわせていたのだ。

また、自分を大物に見せることについても同じだ。佐村河内氏はクラッシック界に入る前はロック界で名を馳せようとしていた。強引な売り込みの結果、メディアでは「第2の矢沢永吉」と喧伝されたらしい。ジョブズは13歳の時、周波数のカウンターが欲しくて一人の男に電話をかける。その男とはなんと大会社HP(ヒューレットパッカート)のCEO、ビル・ヒューレット。そして、お目当てのものを手に入れたどころか、ヒューレットからバイトまでオファーされてしまった。そう、この二人、何の担保もないにもかかわらず、ひたすらゴリ押しとハッタリで周囲の人間をその気にさせる才能を持っていたのだ。そして二人は、矢沢永吉的に言えば「ビッグになる」ことも志向していた。

こうやって考えてみるとペテン師=佐村河内氏も天才=ジョブズも同じに見えてくる。じゃあ、どこが違うのか。

欲望の先にあるものは「自分」か「未来」か

二人の根本的な違いは、自らがビッグになるという欲望が、最終的にどこにたどり着くかにある。佐村河内氏は結局のところ、欲望のたどり着く場所が自分へと回帰している。つまり「有名になりたい」という俗物的な欲望でことは終始するのだ。いいかえれば「ビッグになること」が最終到達点。

ところがジョブズは違う。自分が「ビッグになること」は到達点=目標ではなく、あくまで手段に過ぎない。だからビッグになったあとも手綱を緩めることなく、ひたすらその次=Nextを志向し続けた。そして最終的に志向したのは「宇宙に衝撃を与える」といった究極の大ホラだった。そして、それが死ぬまで続いたのだ。

この志向性の違いは、二人がアウトプットを提示するときのやり方に象徴的にあらわれる。佐村河内氏は最終的に全てのアウトプットを自分が総取りした。つまり「佐村河内氏の○○」と言うかたちで、自分が関与したものの業績を自分一人の取り分とした。一方、ジョブズもあたかも全て自分がアウトプットを生み出したかのように振る舞ったが、決して「オレがやった」とは言わなかった。代わりに、自らの分身である「Apple」の所産であるとしたのだ。こういった志向性だから、96年に復帰してからの年報は1ドルだったし、生活する邸宅もビリオネアとしては質素すぎるほど小さな家だった(宿敵のビル・ゲイツが巨大な邸宅に住んでいることを考えるとオモシロイ)。その格好も90年代アップルに復帰してからはほとんど同じ(三宅一生のトレーナー、リーバイスのジーンズ501)で、自らを「Appleのキャラクター」として売り込んだ。宇宙に衝撃を与えるためなら、そんなことはどうでもよかったのである。

またジョブズの場合には方向性がミニマリズムで一貫していた。だから、佐村河内氏のロッカーになったりクラッシックの作曲家になったりといったような宗旨替えは全くない。そしてMacintoshからiMac、iPod、iPhone、iPadにいたるまでこのイデオロギーは一度たりともブレることはなかったのだ(ちなみにiPod以降のデザインのベースにあるのはいずれもS.キューブリックの映画『2001年宇宙の旅』にモチーフがあるというのもオモシロイ。iPodは船外宇宙操作船Pod、iPhone、iPadはともに映画のキーとなる黒石板のティコモノリスだ。ピクサーの映画『WALL-E』では『2001年』の徹底したオマージュもやらせている)。またユーザーインターフェイスもこのミニマリズムで徹底し、しかもそのやり方全てを統一させてしまった(MacユーザーがiPhoneやiPadをほとんど何も考えずにすぐ使うことが出来るのは、MacOSとiOSがほとんど同じインターフェイスだからだ)。一方、佐村河内氏の場合は自分が有名になりたいだけだから、前述したようにこの辺の統一感はぜんぜんない。矢沢ばりのスーパースターメイクもするし、麻原彰光ばりのカリスマ風の風体にもなる(メタ的に表現すれば「ビッグになりたい」という点でブレがないだけということにはなるけれど)。そして、詰めも甘い(だから、バレた)。

ペテン師も徹底すれば天才だ

こんなかたちのゴリ押しとハッタリだから、ジョブズの場合には、そのゴリ押し、ハッタリ、また他人のアイデア泥棒(しょっちゅうやっていた)がそれに見えず、一つの美意識、そして強烈なイデオロギーとなり、ユーザーを引きつけた。言い換えれば、アップル製品のユーザーはジョブズのペテンに諸手を挙げてダマされ続けたのだ(僕者その一人だけど)。つまり信者を形成し、なおかつスタッフまでもこのイデオロギーで染め上げ、ジョブズ亡き後もそれはアップル内に浸透し続けた。そして現在でもAppleユーザーはアップルの製品ではなく、このイデオロギーを購入することに魅力を感じている。

一方、佐村河内氏である。前述したように「ビッグになる」という「何でも独り占め」の発想だから、後継者や信者を生み出すどころか、取り巻きにはひたすら不快な思いをさせることしかできなかった。そう、やっぱり彼が見ていたのは未来ではなく、自分自身だった。つまり、タダのナルシストに過ぎなかったのだ。

もちろんジョブズもまた徹底したナルシストだ。ただし、そのナルシシズムが、結果として、われわれのメディアライフを変えてしまうだけの威力と持続力を持った。ナルシシズム、ペテン師も徹底すれば、それは昇華されてしまうわけだ。そこまでのパワーを持つと、これは天才ということになるし、そうでなければペテン師ということになる。言い換えれば佐村河内氏は、ペテン師としてはそれを突き通すことが出来なかった二流、だから、その名の通りペテン師。ジョブズは自分も周囲も全部だまし、世界をひっくり返してしまった、そしていまだに世界を騙し続けている一流のペテン師、だから天才といえるわけだ。

二人の違いは「情報編集能力」

そして、このペテン師能力、つまり「大ホラ吹き」「デマゴーク」という才能、実は「情報編集能力」と置き換えられるのではなかろうか。ジョブズには自分の欲望、ユーザーのニーズ、商品に対する目利きの視点を編み込み、これを未来に向けた一直線の物語に流し込むことで、壮大な世界観、宇宙観、今回の表現を用いれば究極のペテン師能力を発揮した(だから「宇宙に衝撃を与える」というわけだ)。ところが佐村河内氏は身の回りだけの情報編集能力しか持ちあわせていなかった。

つまりジョブズは「ビッグ」で、佐村河内氏は「スモール」だったのだ。ここに天才とペテン師の違いがある。

※ちなみに、お断りしておくが「天才」の定義については、もちろん、今回やったような「ペテン誌的才能」以外の別の視点からの物差以外にも、いくつもあることをお断りしておく。今回、天才ということばで二人を比較したかったのは「錬金術師の才能」というレベルで、この腑分けをしようと考えたからだ。

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