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リソー教育社の不適切会計処理にみる「不祥事企業の作られ方」

先週2月13日に、東証1部のリソー教育さんの不適切会計処理に関する第三者委員会報告書が公表され、興味深く読ませていただきました(その後、再発防止策や人事異動なども発表されています)。リソー教育さんは、首都圏で学習塾「トーマス」などを展開する個別指導塾で著名な上場会社ですが、約6年半にわたって売上金83億円を過大計上した粉飾決算の内容が第三者委員会の報告書で明らかになりました。なお、報告書とは別にネット上で公開されている会長さんのインタビュー記事なども併せ読みますと、同社には過去から大規模な「内部分裂と倒産の危機」があったそうで、このたびの不適切会計処理に至った経緯なども報告書には記述されていないような非常に複雑な事情があるように思いました。

また、売上至上主義がこれほど人事評価に連動しており、また評価対象となる授業数の計上に「いかさま」が横行していたわけですから、人事に不満を持つ講師や社員の方々が内部告発することは容易に想像がつくわけで(ただし報道されたものや同社リリースには内部告発があったとは記載されていません。あくまでも私の推測です)、そういった「告発リスク」というものを、現場の経営者はどのように感じておられたのか、とても関心があります。

本事例については、いろいろと論点がありますが、リソー教育さんの監査役の皆様は、これだけの不祥事進行にあたり、一体何をされていたのだろうか・・・と疑問を抱かざるをえません。報告書の後半に、常勤監査役の方に対して法的責任が発生する可能性について論じられていますが、これだけ組織ぐるみの不正が行われていた中で、監査役の皆様が不正にどう立ち向かっておられたのか、全く事実が記載されていないところが若干物足りないところです。とりわけ監査役と会計監査人の連携については、平成17年7月に公表されているにもかかわらず、昨年の証券取引等監視委員会による調査開始の時期まで、どういった連携がなされていたのか全く不明です。また常勤監査役さんと3名の非常勤社外監査役のみなさんとで、どのように会計不正問題に対応されていたのか、という点の記述もありません。これは大いに疑問です。ここが明確にならなければ、会長さんの責任や会計監査人の責任を論ずることもできないように思えます。

また、引き継ぎ前の監査法人さんが、リソー教育さんの会計事実の不正を発見し、抜本的な対策を会長さんに提言しているところは評価できるのですが、しかし最終的には監査を下りています。監査契約を解消するにあたり、引き継ぎ監査法人に不適切な会計処理に関する事実が伝えられ、その後別の監査法人さんが監査を担当することになりますが、会計事実をゆがめる行為が売上の過大計上につながっていることに監査法人担当者が気づかず、会社側の会計事実の歪曲行為が継続されることになります。

私が疑問に思うのですが、こういったケースで引き継ぎ前の監査法人も、後の監査法人も、全社的内部統制は有効だと認識していたのでしょうか?また、仮に有効だと認識していたのであれば、どのような合理的な理由によって有効だと判断されていたのでしょうか?そこは報告書には記載がありません。

7、8年ほど、こういった不適切な会計処理に関する第三者報告書はじっくり拝読していますが、そもそも「企業不祥事」と「不祥事企業」とは異なるということを確信するようになりました。粉飾決算は、最初から役職員が「粉飾をやろう」と決めて起こすケースは少ないわけで、さまざまな不正を起こすうちに、「たまたま粉飾という形で発覚しちゃった」というのが多くのケースです。一般的な不正予防対策は、この「粉飾をやろう」と決意して行った「まじめな会社」の場合には実効性がありますが、「たまたま粉飾企業になっちゃった」というコンプライアンス軽視の企業には実効性がないと思います。まじめな会社であっても、粉飾に限らず個別の不祥事は起こすわけで、一般的な「不祥事予防対策」は、このようなまじめな会社の起こす不祥事を予防するには効果的です。しかし不祥事を起こしやすい環境にある「不祥事企業」では、そもそも未然予防の対策を担保できる社内風土がありませんので、実効性もないわけです。私はこの「不祥事企業」の兆候は「全社的内部統制の不備」に顕れるものと考えています。

たとえばこれだけ社員の業績評価の根拠となる数値が、各教室で勝手に歪曲され、その歪曲された数値によって昇格する人たちが出てくるのですから、普段からどんな内部通報があったのか、とても興味があります。それとも通報がなかったのでしょうか。内部通報制度のチェックは、全社的な内部統制の有効性判断のひとつですが、同社で内部通報制度が有効に機能しているという評価はどのような理由によるものなのでしょうか(ちなみに第三者委員会は十分に社員に周知されていなかったとされています)。

このように「まじめな企業」なのか、「コンプライアンス軽視の企業」なのか、一般投資家は知りたいわけですが、いろいろな開示情報を総合して推察するしか方法はありません。その中で、やはり監査法人さんの出すシグナルは大きな意味があるわけで、残念ながらJ-SOXがその役割を果たしえないまま現在に至っているというのが現状です。もし内部統制報告制度が機能していないのであれば、ステークホルダーに対する説明責任を果たすべき第三者委員会報告書のなかで、投資家が「この会社は多額の返済金を抱えながらも今後事業を継続できるのかどうか」を判断するための有力な手掛かりを開示してほしいと思います。それは冒頭に示したとおり、監査役は何をしていたのか、監査法人は何をしていたのか、そして監査役と監査法人はどのように協働していたのか、という点です。もしモニタリングが機能していたのであれば、これから先も「自浄能力」を発揮できる企業として期待できますが、機能していないというのであれば、もはや自浄能力は何ら期待できないということになります。同社のリリースにあるように「経営トップは今後も頑張ります」ということで、今後も会長さんが君臨するのであれば、なおさら自浄能力がなければコンプライアンス軽視の風土は変わらないはずです。

これだけの企業を一代で築き上げられ、「親族は絶対に後継者にはしない」と公言されているカリスマ会長さんがいらっしゃるのですから、監査役さん方には厳しい監査環境があったかと想像します。しかし、監査法人と協働したり、内部監査部と協働することで、少しでも経営に対する進言を行い、残念ながら経営トップに受け容れられない結果となったとしても、「ああ、これだけ頑張っているモニタリング機関があるのか」と感じることができれば企業再生への期待は大きくなるはずです。そのあたり、有事に至った企業の社会的責任の一端として、なんとか開示されることを期待しています。

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