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志願者の数や入学歩留まり率の比較記事から感じる、大学広報の問題点

日本の大学の広報について考えさせられる記事を見かけましたので、話題提供として……。

■「関西私大はブランド力不足? 入学割合2~4割」(MSN産経ニュース)

入試に合格しても、最終的に入学しない人は少なからずいます。複数の大学に合格して他大学を選んだ、浪人して別の大学を受け直すことを決めたといった理由です。
合格者のうち、自校を選んで入学してくれた人の割合が、入学歩留まり率です。

この記事は早稲田大学、慶應義塾大学や、同志社大学、関西学院大学など東西の有力私立大学の、入学歩留まり率の比較結果を報じたもの。引用されているのは、NPC大学問題研究所の調査結果です。

東西の差で特徴的だったのが入学歩留まり率。平成24年を見ると慶応大がもっとも高く、合格者の71%が同大学に入学。早稲田大も47%が入学した。これに対して関西の8大学は26~40%で、全国28大学平均の42%をいずれも下回った。合格しても併願した他の大学に入学したり、浪人したりする受験生が多いためだ。

研究所では「慶応や早稲田はどうしても入りたい受験生が多いのに比べ、しのぎを削っている関西の有名私大は知名度も横並びで、全国的なブランド力に欠けるのではないか。国立大学志向が強いのも一因だろう」と分析している。(上記記事より。赤字強調は私が入れました)
このような受験者の動向調査をメディアはよく報じます。大学業界の方々が気にしているからです。
業界人でなくても、大学間の競争を扱う話題は気になってしまうもの。「読者の気を引く鉄板ネタ」のひとつなのでしょう。

国立志向だとか、同志社に受かっても早慶に流れるとか、そういった受験の現状は確かにあるでしょうから、それについて否定するつもりはありません。個人的に気になったのは、上記の
全国的なブランド力に欠けるのではないか。
の部分です。

↓こちらは、ご参考まで。アメリカ名門大学の「歩留まり率」です。

<アメリカ名門大学の合格者の「歩留まり率」>
ハーバード大学:76.5%
プリンストン大学:58.9%
カリフォルニア工科大学:37.5%
(以上、2009年のデータ)
合格率が5~10%という超難関のハーバード大学ですら、合格者の3割近くは他大学を選んでいます。スタンフォードも3割近く、ペンシルバニアやブラウン、ダートマスなどの名門大学も毎年、4~5割が入学を辞退しているそうです。
こんな名門大学に受かったのになぜ他大学を選ぶかと言えば、「他の人はハーバードが良いと言っているけれど、自分にとってはこちらの方が成長できそうだと判断した」ってことです。
ハーバードに受かるレベルの人が、小規模のリベラルアーツ・カレッジを選ぶといった例は、しばしば耳にします。

その際の判断基準になっているのは、授業の方法や寮の充実度、大学教職員がどれだけ自分の成長を考えてくれているか……といった質的な情報、そして各種スコアの数値や奨学金の充実度、卒業後の進路など、入学後の成長度合いを示す様々な量的データなどです。

もちろん、総合的なブランド力も如実に影響を与える大きな要因の一つではあるでしょう。ブランド価値を求めて大学を選ぶ人は、どの国にも相当数いると思います。実際、3割近くが辞退したとは言っても、ハーバード大学の辞退率は他大学に比べれば低い方です。
ただ、モノサシはひとつではありません。例えば、カリフォルニア工科大学はTIMESの大学ランキングで世界1位、つまり暫定とは言えブランド力世界一になったこともある大学ですが、上記の通り合格者の6割以上は他大学を選んでいます。

でも、それで良いのだと私は思います。ブランドという一つの漠然とした評価基準だけに左右されない「多様なモノサシ」という選び方が機能しているということですから。総合的に見たらA大学の方が良さそうだけど、自分に関係ある分野ではB大学の方にメリットがあるとか、入学の難易度はC大学の方が高いけど、自分と同じ学力層の学生の入学後の成長度合いで言えばD大学だとか、自分のモノサシで選んでいる人がいるということです。

教育に唯一の正解がない以上、誰にとってもベターな大学なんて実は存在しません。そんな大学があるとしたら、おそらく「誰にとってもベストではない大学」です。


で、話を冒頭の記事に戻すのですが、「他大学を選ぶ人がいる=ブランド力不足(=問題である)」という報道の仕方から、色々と日本の問題が見えてくるように感じます。
問題があるとしたらそれは、歩留まり率が低いことではなく、

「歩留まり率の順位が、すぐ『ブランド力』の競争に単純化されてしまう」

……という、日本の進学先選びの現状なのだろうと感じたのです。

そして、事実、教育の中味の違いを比較検討できるような具体的な情報が、受験生側に十分に示されていないという残念な大学広報の現状が、こうした報道に繋がっているのだろうとも思います。
どちらかと言えば、こうした報道が昔から変わらない原因はメディアではなく、大学側にあるように私は思います。
(もちろんメディアにも改善した方が良い点はあるでしょう。例えばハーバード大学の入試倍率の高さを報じる記事はよく見かけますが、辞退率を報じる記事はほとんど見かけません。こういう事実がメディアによって紹介されることは、大切です)


現在、受験シーズンまっただ中ということもあり、各大学の志願者数獲得競争をしばしばメディアで見かけます。特に今年は早稲田大学、明治大学などを中心に、「どの大学が志願者数日本一になるか」が見所(?)であるようです。

早稲田大が確定値を出し、現在トップに立っているが、3月の後期入試の志願者数を含むと、5年連続首位がかかる2位の明治大が逆転する可能性がある。4位の近畿大も後期入試で大幅な上積みが予想され、注目だ。志願者数トップ争いは早大、明大、近大の三つどもえの様相。
(略)
早大の志願者数が昨年比1344人減の10万5424人で確定した。10日時点で、明大10万4553人、法政大9万4809人(確定値)、近大9万1073人と続く。
「トップは早大 明大、近大に逆転の可能性「最終盤」私大志願者」zakzak記事より)
まるで駅伝中継ですね。

前述した、ハーバード大学の2009年の受験者数は、29,114人だそうです。早稲田大学や明治大学などは、受験者の大多数が日本人であるにも関わらず、既にその3倍の受験者を集めているわけです。

大学にとって、志願者数の最大化というのは経営上の重要課題です。ここに出てくるような大規模総合大学にとっては、それこそブランド力を競う争いでもあるのでしょう。これらのようにブランド力を競うような有名大学ではなくても、志願者数は多ければ多いほど良い、と大学関係者の多くは考えています。
少なくとも「大学側にとっては」好ましいのです。

でも、大学が志願者「数」で競い合うことが、必ずしもその大学で学ぶ大学生や、進路選択に向き合っている高校生達にメリットを与えているようには、私にはあまり思えないのです。

日本の各大学が高校生向けに発行している大学案内を色々と比較しながら読んでいると、ひとつのことに気づきます。
各大学でも、面倒見の良さ、少人数制、キャリアサポートの充実度など、ほとんど同じキャッチフレーズが並んでいるのです。そしてたいていの場合、データなど、取り組みの充実度を示す具体的な情報は掲載されていないのです。総花的なキャッチフレーズだけです。

大学側は「誰にとってもピッタリな大学」であることを伝えたいのでしょう。受験者の数を最大化しようとすれば、自ずとそうなります。志願者の数を増やそうとするあまり、漠然とした総合イメージをPRし合うというのは、日本の多くの大学の入試広報に共通に見られる傾向です。
その結果、高校生から見ると「他大学との違いがよくわからない」ということになります。そりゃあブランド力(=偏差値)くらいでしか、高校生も比較できないですよね。結果的に、むしろ大学が受験生を逃している場面もあるでしょう。入学後の中退率が増加するなど、高校生と大学、双方にとって好ましくない事態も発生しています。

大学はいま、受験生を増やすため、「いまの高校生にウケる学部」を増やしたり、アクセスの良い場所にキャンパスを移転したり、受験しやすい入試方式を編み出したりといった工夫(?)もしています。しかしこれらの効果も、いずれ限界を迎えます。何しろ、少子化は止まりませんので。

高校生のためにも、大学経営のためにも、そろそろ広報方針を変えた方が良いのではと私は思うのです。
ブランド力なんて、そんなに確かなモノサシではないんじゃないでしょうか。それよりは、教育の中味の違いを高校生に実感してもらい、「自分にとってこの大学は良いのか、良くないのか」と考えさせるような広報に、未来があるように私は感じています。

皆さんは、どう思われますか?

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