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  • 鹿野淳
  • 2014年02月14日 18:04

クリープハイプとレコード会社の件について思うこと

 音楽というのは、作る人と、作らせる人がいます。これは今に始まったことではなく、クラシックミュージックの時代からずっと続いていることです。ベートーベンだってバッハだって、スポンサーを探しキープすることは、とても大事だったということです。

 クリープハイプとビクターは相思相愛で手を組んだと思います。バンドは、メジャーというフィールドで音楽を作らせるレコード会社を欲していたし、ロックバンドを多く抱えるビクターはその流れの中でクリープハイプの才能を評価し、とても多くのことを期待していました。そして両者はこのお互いの思いを共有した上で契約をしたんだと思います。当時、両者から具体的にそういう話を聞いたことがありましたから、確かなことでしょう。

 だからこそ、クリープハイプはデビュー以降の楽曲をビクターに「作らせてもらった」し、ビクターはそれを「作ってもらった(=生み出してもらった)」。思いはいろいろあるでしょうが、本質的な意味ではお互いにそう解釈していたと思います。

 この「作らせてもらった」、「作ってもらった」という関係の中で気持ちのズレは起こるものです。そこで大事になってくるのが、「コミュニケイション」です。
「こう作らせて欲しい」、「こういうのを作って欲しい」ーーそういう話のやり取りによって、溝をお互いに埋めようとします。そこでどちらかが心が折れてしまうと大変です。音楽を作るのは、人生を前へ進めるのと同じことが多いですから、とても真剣だし、本質的なことがそこには介在してきます。簡単に言えば、お金の話だけでは済まされないということです。

 今回のクリープハイプのHPで4人から発されたメッセージを見てまず思ったのは、「何故、相談、いや、確認すらしないで。編集盤であるベストアルバムのリリースをビクターは発表したのだろうか?」ということでした。みんなの疑問もほぼ同じ部分だと思います。
 ビクターは百戦錬磨のレーベルですし、ベスト盤をリリースしようとすることでアーティスト側から反対されることは、今までも何度もあったと思います。そもそもクリープハイプはベスト盤のリリース自体を公然と否定しているわけではないし、事前の連絡も確認もなかったことを問題の焦点にしています。
 作る人と作らせる人は、「契約」によってその立場が明快になります。今回の両者はそんなことは百も承知で、ベスト盤を出さざるを得ない状況が生まれる可能性があることはバンド側もわかっていたと思います。それはHPの文面からも伝わって来ます。ただ、自分らの音楽が世に出る事を事前に知らせないのは、確認しないのはどういうことなのだ? という、その一点が納得いかない部分なのだと思います。
 その後の段階として、「相談してくれたら、こういうベスト盤にしたいという話をしたり、一緒にそれを作ろうとしたりした」とか、そういう考えがあるのか無いのか、そのことは僕にはわかりません。今回の件を報道した中に「過去にUtadaやスピッツにも、そういうことがあった」と例を挙げていますが、そんなにこういうケースが多いわけでは勿論ありません。宇多田ヒカルのUtadaは海外とのリレーションという難しいものでしたし、自分の記憶の中ではスピッツの件は、事前に確認や相談があって、そこで反対をしたものの聞き入れられずにリリースしたという話だったと認識しています。

 ビクターも、こうなることをわかっていたんじゃないかと僕は推測します。アーティスト側に報告も確認もせずに音源集を作ると発表するのが異常なことは、誰よりもビクターがわかっていたと思うんです(クリープハイプ側が「事前に一切連絡が無かった」とコメントし、それに対して今の所ビクターから反論が出てないということは、きっと報告も確認もしていないというのは本当のことなのでしょう)。
 報告も確認もせずに発表するほどのことが事前に何かあったのか? 今回のことは、そう推測せざるを得ません。そう考えないとおかしいことだらけだからです。
 今回のことは、こういう形で音楽ファンに知らされるべきではなかったと僕は思います。今まで書いた様に、作らせる人と作る人のコミュニケイションの中で解決すべきことだったと思うからです。
 これは推測に過ぎませんが、ベスト盤のリリースが告知されて以降、クリープハイプもビクターにコンタクトを取ってないんじゃないかと思います。だからこそ、レコード会社とバンド側とリスナーの三角形の中で、クリープハイプはリスナーに向かってこの事態を訴えかけたんだと思います。それを含めて、お互いの中でディスコミュニケイションに陥るようなことが何かあったのではないか? と思うのです。今回の問題の根っこにあるのは、そのことだと思います。

 僕はライター業もしているので、文章という表現を持っています。ここにも著作権というものが存在します。
 手前味噌な話だし、今回の件とちょっと状況や立場が違うので都合がいい話であることを前提の上で、わかり易い例を一つ出します。

 自分は14年間、出版社にお世話になっていました。そして2004年にそのお世話になっていた会社を辞めて独立し、今は自分で出版社を経営しています。
 その辞めた会社からある日、連絡をもらいました。
「あるアーティストの単行本を作ります。そのアーティストと打ち合わせをした結果、鹿野さんの当時の記事やインタヴューをこの単行本に収録したいということになりました。大丈夫ですか?」
 というものでした。
 そこで僕は「どうぞ」と快諾しました。

 この単行本は、音源に換えると、今回のベストアルバムのような編集盤にあたります。雑誌の中でいろいろ発表してきたものを再編集して、特定のアーティストの「特選集」を作るという企画だからです。

 僕が快諾したのは、大きく分けて2つの理由があります。
「自分がその会社に属していた時期の文章の権利は、その会社に帰属する、という契約を自分自身がしていたから」
 という現実的な部分と、
「今の自分があるのは、今の自分を作ってくれたのは、その会社であるし、その会社の媒体のおかげだから」
 という気持ちがあるからです。
 僕はその記事を作らせてもらった人で、会社は作らせた人です。お互いにその関係に対して冷静であったからこそ、会社は僕にこの確認をしてくれて、僕はお答えをしました。

 ちなみに、会社に僕は「読み返してみましたが、当時の自分の文章の稚拙さが恥ずかしいです。だから当時の雰囲気を壊さず、アーティストに対しての印象が変わらないままにするから、若干のリライトをさせてくれないか?」という話をしました。すると今度は会社側が僕に、「了解しました。それではいついつまでもそれをやってもらえますか? それをもって、アーティスト側にも確認します」と答えて下さいました。文章を書いた人間である僕に対して、最大限の答えを出して下さったと思い、そのことを踏まえあたらめて、その会社を素晴らしいと思いましたし、そこでいろいろな機会を頂いた過去の日々を有り難く思いました。これもまた、権利だけを行使せずにコミュニケイションを取った結果芽生えた感情です。


   今の例は、僕がその会社をすでに辞めた後の話なので、今回の件とは根本的に異なりますが、辞めていても権利はそこに存在しますし、辞めた後でもその表現物がどうして生まれたのか?ということの「筋」もまた、存在するのです。

 話を戻すと、何故、そのコミュニケイションが無かったのか? 何故、レコード会社はアーティストに一言も言わずに音源を出す告知を敢えてしたのか? そのことを何故、アーティストはリスナーに訴えかけたのか? この「何故」の答えは、事が起こるもっと前にあるんじゃないかと思います。一概には言えませんが、それがお互いを認め合っていたからこそ生まれたものであったら、とても残念な事だと思うのです。
 今回の件によって、世に出るであろうベスト盤がとても哀しい作品になることが予想されますし、それはその中に収録されるであろう楽曲自体にも及ぶ問題です。そして、そのことを知った上でクリープハイプの音楽を聴くファンに対して、いいことが無い出来事だとも思います。

 こうなることをわかった上で告知をしたかもしれないレコード会社と、スキャンダラスな話題になることを承知の上でレコード会社にではなくリスナーに協力を求めたかもしれないバンド。お互いに一番大切なのはリスナーだとわかっているのに、こういう事態になってしまったのは何故なのか? とても残念なことだからこそ、今後、お互いにいろいろなことを丁寧に進めて欲しいと心から願います。

 最後に。
 ビクターとは様々な仕事を、それこそとても大きなビジネスを何度もやって来ているので、衝突もして来ました。その上で、信頼と絆と音楽を扱う事への自覚がとてもある会社だと思っています。クリープハイプに関わっている方々も実際にいろいろな仕事を一緒にやっているので存じ上げていますが、僕は信頼しているし、お世話になり続けている方々です。
 クリープハイプも自分にとってはとても特別なバンドで、筋を通して頑張って来たからこそ今がある集団だと思っているし、その姿をずっと見続けて来ました。
 適当な事や綺麗事を言うつもりは一切ありませんが、両者とも、経験値も筋も音楽愛もとてもある人達です。だからこそ残念なことなのです。

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