- 2014年02月12日 13:00
まるでリアル版Dropbox? 貸倉庫のサービスを進化させた「Boxbee」
クラウドストレージの便利さに一度慣れてしまうと、これまでそれがない環境によく耐えてこられたものだと逆に感心してしまう。
ノートパソコンを鞄に入れたはいいが、いざ出先で作業しようとしたところで、肝心なファイルをコピーし忘れてきたことに気づいて唖然とする。そんな痛い経験、あなたにも身に覚えはないだろうか?
今や、ネットにさえつながれば、クラウド上のファイルはどこにいても取り出せる。だがそれも、ほんの10年前には夢物語だった。ブロードバンドは普及していたが、クラウドにファイルを預けてそこから引き出すというアイデアがなかったからだ。
クラウドストレージの便利な点は、ユーザーが取りに行くのではなく、データがユーザーの元に届くことにある。ひょっとしたら、リアルな物品を扱う倉庫でも同じことができるんじゃないか。そう考えてサービスを立ち上げたのが、今回ご紹介する「Boxbee」だ。
2012年にサンフランシスコでロンチすると、やがて営業区域をニューヨークにも拡大。かつての受賞者にDropboxも名を連ねるLAUNCH 2013でBest New Startup賞にも輝いた。さらに同年、AngelPadからシード投資も受けている(金額は非公開)。
引っ越し族の生い立ちが、ビジネスのヒントをくれた
Boxbeeの創業者兼CEOは、カリフォルニア州の生まれのKristoph Matthews(以下、マシューズ)氏。
マシューズ氏は親の仕事の関係もあって、22回もの引っ越しを経験してきた。それもドイツ、サウジアラビア、シンガポールなど、世界を股にかけてのものだ。幼い頃から各国を転々とする中で、引っ越しの面倒さや不便さを痛感していたという。
彼がBoxbeeのアイデアを思いついたのは2011年のこと。そのころ両親は母親の祖国タイで暮らしていたのだが、倉庫に預けた荷物を取り出すためだけに、年に2~3回、わざわざカリフォルニアまで飛行機でやってきていた。
マシューズ氏は、両親の貸倉庫に対する不満を聞いて、何か良いサービスを提供できないだろうか、と考える。
(出典:flickr)
ふつう貸倉庫と聞いてイメージするのは、都市部ならビルの一角にワンルームマンションのようなドアが並ぶもの。郊外なら、道路沿いの空き地にコンテナが並んだものといったあたりだろうか。
米国でも事情は同じで、貸倉庫は一般にSelf Storageと呼ばれている。「セルフの保管スペース」という言葉が示すように、場所だけ貸すからあとは自分でやってくれという発想だ。その為売りになるのは、倉庫スペースの広さと、月額料金の安さしかなく、どの業者も、その部分を競い合ってきた。
たしかに、車で乗りつけて積み降ろすなら、倉庫が広いに越したことはない。だが、貸倉庫のニーズは本当にそれだけだろうか?
マシューズ氏が問題としたのは、倉庫の役割についての固定観念の古さだ。あくまで物を預かり、保管する場所という位置づけで、業者たちは物を預けたり、引き出すことについては他人事のように考えている。
要するに、これまでの貸倉庫はハードディスクの発想なのだ。容量は大きいけれど、ユーザーの方から取りに行かなければ使えない。たとえばDropboxのように、物のほうがユーザーに届くようにはできないだろうか。
だが、データとちがって物は人間が運ばなければならない。必要な物を探し、ユーザーに届けるにはどうしても物理的な時間と手間がかかる。ビジネスとして成立するレベルでの実現を考えた果てに浮かんだのが、容器単位でサービスを提供するというアイデアだった。
容器単位なら、容器を探して車に積むだけで、そのままユーザーに届けられる。ミスも起こりづらく、手間や時間も最小限で済む。荷物は預けるだけでなく、手軽に取り寄せられてこそ、と考えたのだ。
空間ではなく容器を単位にすることで、ユーザーに届けやすく
それでは、Boxbeeの使い方を説明しよう。
同社に依頼をすると、2~4時間ほどで荷物を詰めるためのプラスチックボックスが自宅に届く。その中に荷物を入れて引き取り依頼すると、後日スタッフが車でやってきて、ケースを引き取ってくれる。
容器には当初は段ボール箱を使っていたが、現在は防水性と耐久性を考慮し、プラスチック製容器を採用している。
大きさは底面が16.5×20インチ(約42×51cm)、上面が19×24インチ(約48×61cm)、高さが12インチ(約30cm)。日本の配達業でよくある段ボールが逆台形になったようなイメージだ。
どのボックスに何を入れたかは、自分のアカウントにて写真付きの目録で管理できる。以前にレンタルワインセラー「Phenol55」を紹介した際にも同様のしくみに触れたが、単なるテキストの目録から探すよりも画像で探した方が直感的でわかりやすいのは、パソコンのフォルダと同じだ。
利用料金は、ボックス1つにつき月額6~9ドル(約600~900円)で、これには引き取り料金も含まれている。預けた荷物を引き出したい場合、自分で倉庫まで行ってピックアップするなら、月に何度利用しても無料だ。
ボックスを届けてもらう場合は、1回につき15ドル+2ドル/ボックスかかる。宅配便よりは高いイメージだが、段違いに高くはない。
参考にサンフランシスコの貸倉庫(Self Storage)を検索してみると、シャッターのついた大きな倉庫では月額100ドルや300ドルというものがある一方で、小さなものなら月額30ドル台の業者も存在する。
そう考えると、Boxbeeは必ずしも最安ではない。すでに述べたように、ボックスのサイズはふつうの段ボールほどしかない上、1ボックスごとに上記の料金がかかってくるからだ。より多くの品物を保管できる場所を欲しているのであれば、別の貸倉庫を利用する方が安上がりで済む。
Boxbeeの特性に合致する利用方法とは?
しかし、Boxbeeの顧客層や利用方法は、従来の貸倉庫とは大きく異なっている。同社のサイトで紹介されている利用方法を覗いてみよう。
上画像の黒いサングラスの女性は写真関係者のようで、撮影機材をBoxbeeに預けておいて、撮影があるたびに事前に撮影場所まで機材を届けてもらうという使い方をしているという。
ハイエースのようなバンがあれば済む話だが、車は乗らない時間を含め維持費がかさむし、都市部では小回りがきかず、使い勝手が悪いことも多い。その点Boxbeeなら、うまく仕分けておけば、ボックス1つか2つを届けてもらえば済む、というわけだ。
また、同社のサービスに、「預けたボックスの中身を友達と共有できる」というものもある。BoxbeeでFriendsに登録した人同士なら、お互いの物品を無料で貸し借りし合えるのだ。
これはある意味画期的だろう。バーベキューやキャンプの道具、パーティ用デコレーションなど、たまにしか使わないものはけっこうある。親しい仲間内で貸し借りするのもいいが、受け渡しがけっこう面倒だった。しかしBoxbeeなら、倉庫で借りてそこに返せばいいし、自宅に届けてもらうことも可能だ。
また、画像を用いた目録システムがあるので、ボックスの中身を共有・管理するのもたやすい。
Boxbeeは、欲しいときに頼めばボックスを手元に届けてくれる便利さを重視する人がターゲットなのだ。そのため顧客層も従来の貸倉庫とは異なるし、同業他社との価格競争に巻き込まれることもないのである。
貸倉庫の概念が変わる可能性も
僕たちはこれまで、貸倉庫を物を置くための場所としか考えていなかった。Boxbeeはその固定概念を打ち破り、預けた物を使う動線も考えに入れてサービスを打ち出し、新たな需要を創出しつつある。
一方で、Dropboxなどと異なり、現実の物を預かって運ぶ以上、いくつかの制約も存在する。
たとえば配達にかかる時間がそれなりにかかること。同社は確実にその時間に届けるために、24時間以上前にオーダーしてほしい、と求めている。欲しいときにすぐに手元に、とはいかない。
また配達可能な地域も、現状はサンフランシスコとニューヨークに限られている状態だ。
西海岸の倉庫に預けたボックスを、東海岸で受け取れる。あるいはヨーロッパや、日本へも航空便で届けてもらう、と夢想するのはきっと僕だけではないだろう。こちらについては、今後UPSやFedExなどの宅配サービスと提携することで、大きく化けることも考えられる。
たとえばあなたに三味線の特技があるとしよう。着物を着て、外国人の前で弾けば必ず大受けする。たまにしか使わない三味線一式(知人から聞いた話だが、三味線は分解してケースに入れて持ち運べるのだそうだ)や着物をBoxbeeに預けておいて、出張先で受け取れるようにするのだ。
そこまでが実現すれば、まさしくリアル版のDropboxが実現したようなものだろう。どこまで便利になるのだろうか。とても楽しみだ。
ちなみに、日本においてもBoxbeeに近いサービスが始まっている。ブログなどの紹介記事を見ると好評のようだ。気になる人はチェックしてみてはどうだろうか。



