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「護る」と「守る」

というわけで出張でロンドンに着いたところなのであるが時差を調整しきれずにこんな時間(現地時間午前4時)に目が覚めたらこういう話を見たので簡単に書く。

つまり(事実上の)イギリス国歌「God Save the Queen」の第3節にある「May she defend our laws/And ever give us cause/To sing with heart and voice」をどう理解するか、という話。

(1) まずポイントは「defend」の語義で、まあ簡単にOxford Dictionariesにリンクを張っておくが、ラテン語源「defendere」の語幹「fendere」が「to strike」(攻撃する)であることにも示されているように(外からの)攻撃に対して対抗する・保護するということ。博士論文の口頭審査などを「defence」というのもこのニュアンスから。あえて日本語で書けば「護る」ということになる。

(2) 逆に言うと、follow・comply・obeyなどと違って約束や掟を「遵守する」という意味はない。こちらは「守る」ということになろうか。従って「May she defend our laws」については「(神よ)女王をして我々の法を(外敵による攻撃から)保護せしめたまえ」ということになる。

(3) このような理解は、この歌詞が作られた18世紀中葉というのが名誉革命体制(1688〜)に対する危機の時代だったという点とも符合する。つまり名誉革命で打倒されたジェームズ2世の孫である「小僭称者」チャールズが依然王位奪還運動を続けていたところ、1745年のスコットランド・ジャコバイト蜂起と連携してついにブリテン島への上陸を果たしたというあたりの話で、背景にフランスの策謀があったこともあり、翌年のカロドンの戦いで鎮圧に成功するまで体制は動揺することになる。だから「外敵から護れ」という話になるわけ。

(4) なので、リンク先で言及されているページで紹介されている星野安三郎の解説についていうと、所功訳の「民と共に法を守り」が正しくないというのはその通り。他方これが民主的思想とか立憲君主政の思想を示している、つまり国王であっても人民の定めた法を遵守すべきだという思想を反映しているという主張もまた正しくない。

(5) というのは第一に上で述べた「defend」の語義から。少なくともこの部分を文字通りに取れば、国王に求められるのは外敵に立ち向かって法=体制を保護することであり、国王自身がそれに服従するか・拘束されるかは明らかでない。第二にここでいう「laws (of England)」というのはコモンローのことであって、その中身は「general custom of the realm(王国の一般的慣習)」と解されてきた。つまり古来から人々が法であると信じてきたものであり、いま現在の人民が勝手に制定改廃できるようなものではない。いやまあ実は王権の側でも人民の側でもその中身についてはいろいろ変化させてきたわけだが、その際に古来の法のより良い解釈を発見したという体裁を作っていることが重要なわけですよ。

(6) もちろん名誉革命において議会代表が統治にあたっての約束を(新)国王に突き付けるというイベントがあった(と理解されている)ので「民主的思想」がこの時代やこの歌詞の背景になかったとまでは言わない。しかし第一にこの歌詞だけからそのように主張するのは上記の通り無理筋であり、第二に名誉革命自体についても宮廷クーデター的性格を強調するのが最近の流れだと思われる。「権利章典」(1689)自体が「古来からの権利と自由を擁護し、主張するために宣言」されたものであり、「ここに主張された権利が侵害されたり、その宗教・権利・自由に対する侵食が試みられたりすることから人民をお護りくださるであろうと完全に信じて」いると言っているわけでね。

(7) ところで紹介されている星野安三郎の解説については、正確に写されていると仮定するなら、かなり面白い点がある。つまり「B」の1番目の発言・最初の文の途中で「護らせよ」から「守らせよ」に変わってるのね。しかし「defend」はそう読めませんというのは上述の通りなので、自覚的か無自覚かはわからないけど、ここで論理の飛躍ないしすり替えが発生しているわけ。そのあとの主張も、当然ながらここですり替えられた論理に立脚している。

(8) 念のために言えば「国王であっても法は遵守すべきだ」という理念については、17世紀前半にエドワード・コーク(クック)により提示・確立されたと理解されているので、この時代の思想には含まれている。名誉革命の展開から、イギリスでは18世紀頃に立憲君主政の発想が確立されてきたというのも無理のない主張であって、それと日本との違いを論じてもいい。でもまあ、「God Save the Queen」の歌詞にそれが現れているというのは英語の読めない人の言うことだ、で片付けていいのではないかな。

というわけでもう一度寝ます。

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