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日本のマスコミが「かっぽう着美女」など偉業に無縁な報道に終始する一方で、アメリカのバイオ業界は、すごいコトになっている

ホント悔しくて泣けてくるわ。

理化学研究所客員研究員の小保方晴子さんらのチームがSTAP(刺激惹起性多能性獲得)細胞を発見したニュースは、とても素晴らしい事だと思います。

彼女らがやっている事は、長期的見地に立てば、将来、いろいろな方向で役に立つ、きわめて大事な基礎的な研究です。

それにしてもマスコミが「かっぽう着美女」とか、今回の研究に全くカンケーない部分でフィーバーしている様子には、本当に辟易しました。

日本の基礎研究も捨てたもんじゃない……そのプライドはわかります。

でも、いまアメリカの創薬ギョーカイで喧々諤々の議論になっているコトを見るにつけ、日米のバイオ業界の落差に、僕は悔し涙が出ます。

アメリカでは基礎研究と180度アプローチの違う、応用研究の進め方に関して、いま大論争が巻き起こっています。

そういう言い方でわからなければ、人知れず難病奇病に苦しんでいる患者の立場から、それを一日でも早く克服するための創薬を巡って、行政(米国食品医薬品局)と立法(議会)が真っ向から対立していると言い直せば良いでしょう。

アメリカでは希少疾病薬(orphan drug status)という扱いがあり、ある病気の発生数が少なく、患者数自体が極めて少ない、めずらしい病気の場合、米国食品医薬品局(FDA)が7年間の独占販売権(exclusivity)を付与し、わざと競争ゼロの状態を作り出すことで製薬会社やバイオ企業に儲ける機会、すなわちインセンティブを与えようということが行われています。

この場合、企業は、べらぼうに高い薬価を設定できるのです。

もちろん、患者さん本人が全額支払うのなら、年間で2,500万円以上もするような、それらの薬を買う事はできません。でもそれは保険会社などのペイヤー(支払者)が払い戻しに応じる事で解決するわけです。つまり大多数の健康な加入者から集めた医療保険プレミアムを、難病・奇病に苦しんでいるごく一握りの患者さんにどんどん遣うという価値観です。これがアメリカ人の考える「フェア」ということです

さらにFDAはブレイクスルー・セラピー(breakthrough therapy=画期的新薬)という認定を最近開始し、これに指定されると承認のプロセスを大幅に簡素化、繰り上げすることが出来ます

ブレイクスルー・セラピーに指定されるには、その薬が現在出回っている治療法よりずっと効き目があり、患者を助けるのに貢献すると見込まれる必要があります。

でもこのハードルさえクリアすれば、フェイズⅡの臨床試験中の薬でも、FDAの判断で繰り上げ承認という裁量が利く場合もあるのです。

こうした、一見すると向こう見ずとも言える積極的な姿勢をFDAが取りはじめた背景としては「世の中には病気の発生メカニズムがかなり解明できていて、それに対してどんな経路(pathway)で働きかけてやらないといけないかが、大方判明している難病・奇病は、沢山ある。でも今日まで薬が出来なかった理由は科学のハードルではなく、それを開発したところでカネにならないという、そろばんのハードルが原因で、患者数の少ない疾病の治療薬は開発が後回しにされてきた。これではいけない!」という反省があるわけです。

それで「いっそのこと、いますぐに取り組めて、テキパキと薬にできる案件、すなわち果樹園で低いところにぶら下がっている果実(low-hanging fruit)から、どんどん摘み取って行こう!」という価値観をFDAが前面に打ち出したのです。

さて、これに対して米国下院議員ローザ・デラーロ(民主党、コネチカット州選出)が「不十分なフェイズⅡ臨床試験のデータに基づいて、性急に新薬を承認するのは審査の質の低下を招き、患者をリスクに晒すことになりかねない」としてFDAコミッショナーに対して公開質問状を送りつけました。

このレターが送られた同じ日、FDAコミッショナーのマーガレット・ハンブルグ氏は公式ブログで「すべての薬に画一的な承認基準を押しつけることはFDAはしない。FDAは柔軟な対応をすることを心から誇りに思っている。大事な新薬候補なら、スポンサーと一致協力し、臨床試験が効率的かつ信頼性あるやり方で、その新薬候補の安全性や薬効をなるべく早く判断できるよう、臨床試験をデザインしてゆく所存だ」と猛反発しました。

リンク先を見る
(マーガレット・ハンブルグFDAコミッショナー)

「命にかかわる病気や重い病気で苦しんでいる人たちが居る。その中には全く良い治療法が無い人達も多い。それらの患者さんたちはFDAに対して新薬候補の薬を自分が試せるなら、リスクとのトレードオフは喜んで受け入れると繰り返し嘆願している。ぬかりない審査(thoroughness)というのは、それを見る人の目(is in the eyes of the beholder)で変わって来る。どんな疾病でも杓子定規に一定数の患者サンプルを要求するほど理屈に合わないことはない」とやり返しています。

もちろん、この議論は創薬をめぐる永遠のテーマであり、今後も決着のつかない命題でしょう。でも、居ても立ってもいられないキモチの患者の味方として、アグレッシブに製薬・バイオ業界を煽ってゆくFDAの姿勢には、ホント羨望の念を抱かずには居られません。

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