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土壌学の研究者・平山良治さんが語る:なぜ「土壌」は重要か

土壌の消滅とは 人間を含めた生物の死を意味する:土壌のレッドデータ

肥沃な土地で文明を発展させたメソポタミア文明は、過度な森林伐採によって生態系が崩れ、土壌の塩害によって滅亡したという歴史をもつ。 「土壌」とは何か? 日本における土壌の現状は? 土壌微細形態学の第一人者である平山良治さんに話を聞いた。
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土壌、農業用地、生活用地の バランス考える

「土壌」。この言葉を聞き、多くの人は「作物を育てる肥沃な土地」をイメージするかもしれない。しかし、それは本来の土壌を意味していないことをご存じだろうか?

平山良治さん(埼玉県立川の博物館)は言う。

「そもそも土壌とは、土と植物の根、ミミズやモグラなどの小さな生き物、バクテリアなどで構成されるもの。植物や葉っぱが枯れて腐り、それを小さな生き物が食べる。そしてまた、肉食動物が彼らを食べ、排泄し、それが肥料となり、植物の生育に貢献する。そうした一連の大きな流れを経てできるものが土壌であり、日本の場合、約千五百年~ 約数十万年という長い年月をかけてできあがったものなのです」

この土壌を研究するのが、「土壌学」。簡単にいえば土の種類を分類する学問のことだ。

「世界的に土壌を大まかに分けると、気候帯に沿って寒冷帯のポドゾルと呼ばれる白っぽい土、温帯の森林土、草原土、砂漠土と呼ばれる茶色の土、亜熱帯の赤黄色土、熱帯の赤色土があり、さらに気候とは関係なく、火山が多い土地に見られる黒ボク土などが加えられます」

ただ、日本の土壌研究は、こうした「気候」や砂や葉といった土壌の「母材」によらないで、農業からみたものが主流となってきた。では、「本来の土壌」と「農業からみた土壌」の違いはどこにあるのだろう。

「森は緑のダムであるといわれますが、それは森の下の土壌がもつ力を指してのこと。土壌には、生き物の活動や植物の根による隙間があり、それがスポンジのように水を貯蔵する役割を果たしているのです。たとえば、干ばつに襲われても、貯蔵していた水分を放出することで植物は育ち続け、生き物の生命は維持されます。つまり、土壌は種類で優劣をつけられるものではなく、地球環境を維持・安定させる生態系の一部なのです」

一方、農業からみた場合、土壌は作物収量で評価され、評価の低い土地には大量に肥料投入されるなど、人間の都合に合わせた土壌改良が行われる。これは土壌本来の役割を無視したもので、アスファルトなどで舗装された道路が土壌の役割を果たせず、環境に悪影響をもたらしているのと、ある意味、同様に考えられるだろう。

「ただ、現実的には、人間は作物を食べ、生かされているので農業を無視することはできません。だからこそ今後は、私たちが正常に暮らすために、①自然本来の土壌、②農業用地、それに加え、③アスファルトなどの生活空間、この3つの適切な比率を考える必要があるのです」

土壌消滅の危機、 現時点で193ヵ所、55種類

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(北海道から沖縄まで、日本各地から集められた土壌標本のオブジェ。 狭い日本の中にも、これだけさまざまな種類の土壌があることがわかる。)

そんな発想から、平山さんが中心となり2000年に作成したのが、失われゆく土壌のリストである土壌のレッドデータ。そこには現時点で、沖縄県の乾性黒色土、鹿児島県の火山放出物未熟土、兵庫県の赤黄色土など、全国193ヵ所55種類の土壌の消滅危機の緊急度合がランク付けされている。

「ただ、いくら農業や宅地開発で土壌が失われていると警鐘を鳴らしても、日本では、その重要性の認識や消滅の危機感が希薄です。というのも、乾燥地などの厳しい自然環境では、水不足によって食塩が土に溜まるため、土壌がアルカリ性になって植物は育ちません。しかし、雨の多い日本では、雨に含まれる栄養分で植物はすくすくと育ち、世界的にみれば、まだまだ緑豊かな土地だからなんです」

とはいえ、最近多発の、都心部のゲリラ豪雨などは、先に述べたように、アスファルトなどで地表が覆われ、土壌本来の働きができないことが理由のひとつだと指摘される。世界規模で見ていくら緑豊かな土地であろうと、失われた土壌による影響は少なからずあるのだ。

「だからこそ、私はみなさんに、ご自分の足下を見てください、と言いたい。そして土壌の重要性を認識してもらいたい。土壌が、利便性や生産性といった人間の勝手な目的によって失われるということは、土中生物の死を意味し、生態系の破壊につながる。それはつまり、人間の存続の危機をも示しているのです」

環境問題を考えるとき、私たちは土壌のことを忘れがちである。しかし、空気、水、植物など、あらゆる自然はお互いに作用し合い、均衡を保っている。その中のひとつが土壌であることを忘れてはならない。

(堀家由紀子)
Photos:浅野カズヤ
モノリスパッチワーク制作:田中康憲
ひらやま・りょうじ
農学博士。埼玉県立川の博物館研究交流部部長。土壌学の研究者からなる「日本ペドロジー学会」所属。国立科学博物館主任研究官時代は、筑波研究資料センター筑波実験植物園において植物と土壌の相互作用について研究。その後、現職。現在、INAXライブミュージアムで開催中の企画展『1100年の土のプロフィール――モノリス・真下の宇宙』に携わる。

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