刺激的なタイトルに動画や写真が中心のコンテンツによって、ソーシャルメディアでの拡散を狙う。そんなバイラルメディアに最近注目が集まっています。
ここでは一つひとつのメディアについては詳しく取り上げませんが、有名なのはBuzzFeedやUpworthy。日本でもdropoutやWhats、animal buzzなど、動画を中心にバイラルの波は広がり始めているように思います。
思わず読みたくなるタイトルや短くわかりやすいコンテンツによってより多くの人に読んでもらおう、というのは必要な姿勢だと思いますし、僕自身もタイムラインに流れてくるとついつい見てしまうこともあります。
しかし物事はなんでもプラスとマイナスの両面を見ることが大事だと思うので、今回はあえてバイラルメディアのマイナス面を考えることで理解を深め、さらにジャーナリズムはバイラルメディアから何を学ぶことができるのかを考えたいと思います。
一歩間違えればイエロージャーナリズム
思わずクリックしてみたくなる刺激的なタイトルや感情的に読みたくなるコンテンツは、一歩間違えればイエロージャーナリズム(発行部数等を伸ばすために、事実報道よりも扇情的な記事を売り物にするジャーナリズム)になりかねません。エンターテイメントなら許されるのかもしれませんが、ジャーナリズムの世界にこの手法を持ち込むようなことがあってはいけないと思います。
先日も、CNNがレイプというセンシティブな話題に関してUpworthyのようなヘッドラインを付けたということで、批判が集まりました。「ただ関心を引きPVを集めればいい」という考えを、品の求められるメディア(というのもあいまいな定義ですが)は持つべきではないと僕は思っています。
失われやすいコンテキスト
短い動画や写真中心のコンテンツは、読まれやすくわかりやすいという利点もありますが、コンテキストが失われやすいという欠点も考えられます。メディアはフレームなので、前後の文脈がない状態で、ある映像や発言だけが発信されれば誤解を与えかねません。そんな誤解を与える情報が拡散されれば、文字通り”ウイルス”になってしまうでしょう。
photo: EcoLeft偏りやすい情報の栄養
バイラルメディアのなかには、PVを集めやすいソフトなネタがほとんど。僕が留学していたときに教わっていたジャーナリズムの教授は、ソフトなネタのことを”News Candy”、ハードなネタのことを”News Veggies”を呼び、その両方が必要だと話していました。
キャンディと野菜をバランスよくとるためには、もちろん一人ひとりの心構えが必要だとは思いますが、バイラルメディアが流行ることでキャンディだけを過剰にとってしまう人がより増えてしまうのではないか・・とも思っています。
ジャーナリズムはバイラルから何を学べるか?
最初にも書きましたが、僕はバイラルメディアがいけないものだとは思っていません。楽しく情報を得ることは良いことだと思いますし、「どうすれば忙しい現代人に読んでもらえるか」「いかにしてシェアしてもらうか」といったことを考えるのは、メディアにとって大事なことです。
ただこのようなバイラルメディアが流行る背景には、すきま時間でしか情報を消費できずにじっくりとものを考える余裕のない現代の生活や、おいしい”News Candy”だけを求めがちな読者がいることがあるのだと思っていて、その部分に関しては「これでいいのかなぁ」という気もしています。ジャーナリストの菅谷明子さんも、読者は「退屈でもカルシウムやタンパク質をとる必要がある」と述べていました。
バイラルメディアが一過性の流行で終わらず、「どうすれば忙しい現代人に必要なニュースを読んでもらえるのか」といった本質的な問いを続けることが、カルシウムやタンパク質といった一見おいしそうに見えない情報をおいしく食べてもらうために必要なのではないでしょうか。
ちなみにソフトなネタを発信するだけでないバイラルメディアもあって、BuzzFeed内の長文ジャーナリズムを行うカテゴリー「LONGFORM」や、ハードなネタをデータで見せることで理解しやすい内容にしている「Ampp3d」は、まさにバイラルの手法を使って難しい内容をわかりやすく伝えることを実践しています。
難しくて退屈だけど、知る必要がある。そんな情報を読者においしく食べてもらうために、ジャーナリズムはバイラルメディアから良い部分を学んでいければいいなと思いました。