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C君はいかにしてC大学の学生となり、退学問題を乗り越えたか②

 C君は無事にC大学の入学式を迎えました。

 入学式終了後、C大学では学部ごとにガイダンスがあります。

 C君は法学部なので法学部の部屋に行きます。その場所で法学部長はこんな話をしました。

 「大学を出た後、みなさんは社会に出ることになります。大学はここにいるみなさんにとっておそらく最後の学校です。大学は、まとまって勉強をする最後の機会です。最後の学校だと思って4年間を大切に過ごしてください。18歳から22歳前後時期に、勉強をすることはみなさんの一生を変える出来事になるはずです。

 この中には、たまたま法学部を選んだという人も多いでしょう。法律学を勉強したくて法学部に来たわけではないという人もいるでしょう。しかしその選択は間違っていません。法律を勉強することは2つの意味で、法律学を一生の糧にしない人にとっても、とても意味があることなのです。

 第一に、法律学を勉強したからといって、社会には法律を活かせるような仕事は、特に最初のうちはほとんどありません。公務員であっても、もちろん法律の知識は大事ですが、ほとんどの場合、法律を知っているからといって仕事ができるようにはなりません。むしろ、大事なのは、法律学を勉強することで身につく「考える力」です。大学での勉強とは、知識を使って自分なりの考え方を表現できるようになることが目的です。授業でのレポートもそうだし、ディスカッションにしてもそうです。こういう勉強が生涯にわたっての成長可能性をつくることになるのです。法律学はその一つの手段なのです。

 そして、法律学とは難しい言葉のオンパレードです。だからこそ、そのような言葉や概念を知ると、今まで読んだことのない文章が読めるようになり、考えたことのないことを考えられるようになります。そうした専門知識を使って考えられるようになること、これはみなさんにとって何よりの成長です。

 二つ目は、勉強を通じて身につく様々な副産物があります。みなさんは入学後ゼミに所属します。ゼミ以外にも少人数のクラスがたくさんあります。その人達とディスカッションやグループワーク、発表などを行う機会はこれからたくさんあります。そういうとき、みなさんは、「グループの仲間とよい関係を作り、一緒に課題に取り組む」必要に迫られます。人前で意見を述べ、それを元に質疑応答などを繰り返すこともあるでしょう。それは、社会で人と一緒に仕事をする上で何よりも重要な力となります。社会で必要となる力は、まず第一に大学での勉強を通じて身につくことを覚えておいてください。他にも、本学は授業の出席は厳しくとります。なぜなら、授業に遅刻しないとか、レポートを締め切りまで出すとか、自分から必要なことは大学に問い合わせるとか、そういった力は、「社会で自立して生きていくための基本的な姿勢」につながるからです。これらは「副産物」だからといって、なくていいものではありません。勉強の結果として必ず身につけてもらうつもりです。

 時には、勉強の意味がわからなくなることもあるでしょう。大学がつまらないと思えるようなときもあるでしょう。我々教員は、みなさんがそんな素振りを見せたら、すぐに相談にのるようにしています。誰かがゼミに来なくなったら、すぐさまその情報は他の教員にも伝わるようになっています。時には保護者の方と一緒に相談することもあるかもしれません。我々教員は全員で皆さんのことをみています。4年間頑張ってください」

 C君は、学部長の言葉をちゃんと聞いていたわけではないけれど、ちょっと安心しました。C君は特に法律を勉強したかったわけでもなく、法律を活かした仕事につきたかったわけでもなかったので、法学部で勉強するのが、そのためだけにあるのではないとわかったからです。

 履修ガイダンスでも驚くことがありました。大学の時間割は自由だと聞いていたのだけれど、説明を聞いてみると、ほとんど自由ではありません。自分で選べる科目は2つぐらいしかないのです。履修ガイダンスで説明してくれた先生は次のように言いました。

「法律学というのは順番を追って勉強しないとわからなくなるから、その順番通りに履修できるよう、時間割にはあらかじめ組み込んであります。自由に履修できるのは3年ぐらいになってからです。また、法律学だけでなく、考える力を身につけるための大学1年向けの科目もすでにクラス別に振り分けています。語学もクラスは決まっています。残りは2つぐらいなので、自分が取りたいと思う科目をとってください。なお、取れる科目はこの3つのカテゴリの中から選べます」

 C君は結局、心理学と社会学を自分で履修しました。その2つが面白そうだと思ったからです。

 さて、入学式が終わると、すぐさま新入生合宿です。合宿では、ゼミごとに屋外で何かをやるようです。C君はこういうの面倒だなあと思いました。しかし、入学式の後、先輩たちが来て「楽しいから絶対に参加するように」と言ってきたのです。しかたなく、大学からバスに乗ります。バスで2時間ほど揺られて、海辺のホテルに着きました。

 合宿では、ゲームみたいなものを繰り返していきます。すべての指示を上級生が出しています。次から次へと今までやったことのないゲームをやりました。名前を呼び合いながらボールを投げ合いっこするゲームや、フルーツバスケットの変形みたいなものから始まり、そのうち、手をつないでフラフープをみんなが通していくゲームなんかもやってます。新入生同士は初対面なのに、いつの間にか、名前を呼び合い、一緒にゲームをするようになっています。先生も一緒にやっています。ちょっとバカバカしい動きをさせられるのですが、みんなの雰囲気が良くなってきて、だんだんC君も安心して笑顔が出てくるようになりました。

 夕食の頃には、すっかり意気投合する仲間を見つけていました。夕食後には、ゼミごとに改めて自己紹介をします。4人一組になってテーブルの前に座り、落書きしながら話をしていいというのです。そのうち、人が入れ替わっていきます。こういう仕切りも全部上級生がやっていました。この先輩なんかすごいな、と思い、

「どうすればそういうことができるようになるんですか」

と聞きました。

 すると、先輩は、「オレたち、春休みはほとんどこの準備と練習に明け暮れたからね。新入生に安心して大学生活を送ってもらいたいと思って、みんなで相当頑張った。このイベントは法学部の伝統だから。」と言いました。C君はこういう先輩がいる大学って悪くないかもしれない、とちょっと思ったのです。

 夜は、大広間で自由に話ができます。先輩たちも先生たちもいます。ゼミのみんなと、先輩たちにアルバイトとかサークルとかのことを質問します。

 すると先輩は、「お前、奨学金借りてる?」って聞いてきました。C君は「学費のために借りてます。でも、アルバイトもしなきゃいけないんです」と言いました。

 先輩はすると、こういうことを言いました。

 「そりゃエラいね。でもね、オレの友だちもアルバイトし過ぎで、抜け出せなくて、結局単位取れなくて大学やめて、今フリーターして、しかも途中まで借りてた奨学金を返しているやつが、この大学だけじゃないけれど、いっぱいいるよ。そうなったら意味ないから、いくらアルバイト先で店長から持ち上げられて、シフトをいっぱい入れられそうになっても、断わるようにしないとダメだね。店長は結局、アルバイトをどこまで働かせられるかしか考えてないからね」と言ってくれました。

 そうか、奨学金は卒業後に返さなといけなくなるから、ちゃんと勉強と両立させないとだめなんだな、とC君は改めて気づきます。アルバイトの雰囲気は、春休みにたっぷりやったのでわかります。そういえば、大学生でもほぼ毎日オールでバイトに入っている学生がいました。C君の面倒も見てくれて、店長からの信頼は絶大だったのですが、そういう雰囲気に巻き込まれたらダメだと、先輩は教えてくれたのです。

 「先輩は何になりたいんですか?」とC君は尋ねます。

 「オレは、警察官になりたくて今はアルバイトも減らして公務員講座を受けてるよ。ゼミでも色んなイベントが入ってくるからなかなか忙しいけどね。オレは高校まで勉強してこなかったから、大学で勉強しても受かるかどうか分かんないけど、先生は、オマエみたいなやつは民間企業を受けても絶対に内定とれるから、といってくれるから、民間企業の就職活動も今やってる」といいます。

 C君が「先輩みたいな上級生が多いんですか?」と聞くと、

 「そうともいえないよ。面倒臭がって楽な方に走ってなにもしないやつも結構いるよ。でもそういうやつって3年の冬ぐらいになってから焦るんだよな。やっぱり2年以降もちゃんとしたゼミを選んで、自分から動くようにしないと、何も変わらないからね」と答えてくれました。先生も横でうなずきながら聞いています。

 C君はこの先輩が所属しているというフットサルサークルに入ることに決めました。剣道部に入ることも考えたのですが、大学では今までやったことのないことにチャレンジしてみようと思ったからです。

 合宿はほんとうに楽しみました。夜遅くまで部屋で新しくゼミとなる仲間たちといろいろ話をして盛り上がりました。翌日もまた、ゲームのようなことをしましたが、とても楽しんだのです。帰る頃には、最初行きたくないなあと思っていたあの気持がウソのようでした。

 授業は翌週から始まります。C君はちょっと大学が楽しみになってきました。

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