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現代のベートーベン詐欺に見るセルフブランディング術~売れるかどうかは作品よりプロフィール

広島出身の被曝2世で聴覚障害の人が作曲した曲。 だから売れるんであって、だから注目されるのであって、 だから多くの人が「感動した」といって聴くのであって、 どんなに素晴らしい曲だったとしても、 普通の経歴の単なる非常勤講師が作曲した曲ということであれば、 ほとんどの人は聴かなかっただろうし、誰も評価などしなかっただろう。

音楽に限った話ではない。どんな作品でもそう。 作品の質よりも重要なのは、それを作った人のプロフィールなのだ。 プロフィールがおもしろければ注目され、作品を見てもらえる。 プロフィールがおもしろくなければ注目されない。 それだけの話だ。

私はセルフブランディングやブログ術の講演をしているがこんな話をしている。

大事なのはブログの文章の中身よりまず、それを「誰が」書いているか。 だから中身よりまずプロフィールが大事。 どんなに素晴らしい内容の文章を書いたところで、 何の変哲もないプロフィールの人が書いたら注目されない。 でも変わった経歴なり、内容に関連する説得力のあるプロフィールがあれば、 多くの人はそのプロフィールを見て文章なり作品なりを評価する。

例えば、営業成績トップの実績を誇る営業マンが、 営業力アップの極意を語れば、説得力がある。 でもろくに営業成績を上げていない人間が、 素晴らしい営業力アップの極意を語ったとしても、多くの人は聞く耳を持たない。

100人の女の子とつきあったことがある人が、 ナンパの極意を語れば、それがたとえ平凡な内容だったとしても、 多くの人は「へぇー」と思うわけだが、 一度も女の子とつきあったことのない人が、 「こうすれば女の子とつきあえる!」と熱く語ったとしても、 本当はその極意が素晴らしかったとしても、ほとんどの人はスルーするだろう。

子持ちのママが子育てアドバイスをするから説得力があるのであって、 子供を持っていない女性が子育てアドバイスをした途端、 「子供がいないくせに偉そうなこと語るな」と一蹴される。

多くの人は作品や中身で判断しているわけではなく、 「誰が」それを言っているのかをまず気にする。

そういえば私が障害者批判をした時、 「おまえの家族に障害者はいるのか?」 「おまえは何か障害を持っているのか?」 というとんちんかんな批判を執拗にするバカがいたが、 結局、人は書いている内容そのものではなく、 そのバックグラウンドなりプロフィールなりを重視する。 私が「いない」と答えれば「おまえに障害者の気持ちなんかわからない」 という勝手に判断し、「いる」と答えれば態度は変わっただろう。 書いている内容が変わらなくてもだ。

今回のベートーベン詐欺もそうだ。 広島出身の被曝2世が広島をテーマにした曲だからこそ受ける。 それに加えて聴覚障害という消費者やマスコミが飛びつく。 広島出身でもない人が広島をテーマにした曲を作ったところで、 「おまえには広島のことなんかわからない」と言われかねない。 被曝2世でもないのに原爆のことを語れば、 「原爆の本当の苦しさなんてわからない」と言われかねない。

だから今回の詐欺のように、仮にウソだったとしても、 多くの人にウソの情報を信じ込ませることができれば、 実際には広島出身者でもなく被曝2世でもない作った曲であっても絶賛される。 人の評価などそんなものだ。 作品そのものだけで判断している人なんてほとんどいない。 それに付随する情報=プロフィールで作品も評価しているのだ。

今回のようにハンデを武器にするというのは常套手段だ。 貧乏からはい上がって成功した起業家ならもてはやされるだろうが、 お金持ちの家に生まれて成功した起業家がどれだけもてはやされるかは疑問だ。 むしろ嫉妬されかねない。

ハンデや過去の経歴や自分の特徴を利用するのはイヤだという人もいるかもしれないが、 それは現実のものだから変えようがないし、 それをうまく利用することで世間に注目してもらい、 そこで自分の伝えたいことを知ってもらえるというやり方は私はアリだと思う。 ただマスコミや消費者ののぞき見趣味は半端なく、 伝えたいことより指輪リングやかっぽうぎばかりが注目され、 研究のジャマみたいなことにもなりかねないので、利用の仕方は注意する必要はある。

意外性の組み合わせも評価される要因になる。 例えばミュージシャンで歌がうまいのは当たり前だが、 ミュージシャンなのに写真が少しでもうまければ、 「写真すごい!」という評価になりやすい。 実際にはたいしたことがなかったとしてもだ。 お笑い芸人なのに絵がうまいとかもそう。 画家が絵がうまくても当たり前だが、違うことが本職なのに意外とうまいと、 それはかなりかさ上げされて評価されやすい。

本を出したいとか好きを仕事にしたいという場合、 いかに消費者やマスコミに注目されやすく、説得力を持つ、 プロフィールにできるかがポイントだ。 もちろん今回のように詐欺はいけない。詐称なんてもっての他だし、誇張もいけない。 でも自分のこれまでの経歴を棚卸ししてみて、自分ではすごいと思わないことでも、 人からおもしろいと思われる要素があれば、それをプロフィールに活かすべきだ。

例えば私のプロフィールで多くの人が注目するのが、サラ金で働いていたことだ。 ライターやカメラマンは腐るほどいるが、 サラ金に働いていた経験を持つライターやカメラマンとなると数少ない。 そういう変わった経歴は注目される要素になる。 またそういう経歴を見て、勝手に、 「サラ金で働いた経験もあるから社会のことをよく知っているのか」 「人物をよく見極める目があるのか」と思う人もいるかもしれない。 実際にどうかはともかく。

もし今まで世間に注目される経歴がないのであれば、 これから作ればいいと私は教えている。

例えば、温泉が好きで好きで仕方がない人がいて、 温泉入ってそれが仕事になるなら幸せだという人がいる。 でも今まで温泉に詳しいという説得材料は何もない。

ならばこれから温泉巡りをして、何か所も訪問し、 「全国1万カ所の温泉に入った温泉評論家」となれば、 1万カ所も温泉に入ったことがある人なら温泉に詳しいはず、ということになる。

私が教えている「好きを仕事にする」ブログ術とは、好きなことを続けてブログで発信し、 はじめは10カ所しかなくても、それが100カ所になり、1000カ所になり、 1万カ所になれば、その道の専門家として認識されるようになり、 好きが仕事につながっていくという方法だ。 私もそれを実践してきた。

逆にそういうプロフィールがなければ仕事は入ってきにくい。 地道な努力を重ねて、自分で実績=プロフィールを作っていけば、 やがては評価されるようになるのだが、それには時間がかかる。

だからこそ今回の現代のベートベン詐欺のように、ゴーストライターの側は、 「聴覚障害という『キャラ』を利用すれば自分の音楽を聞いてもらえる」 と思ったのだろうし、まさにその通りになった。 聴覚障害でも被曝2世でもなければ、作品が素晴らしくても、 オリンピック選手のテーマ曲になんかならなかっただろう。

悲しいかな、いい作品を作れば必ず評価され、売れるわけではない。 多くの人は作品だけでなくプロフィールも見ている。 作品の質はもちろん重要だが、自分の経歴やキャラのどの部分を強調して、 世間に注目させるのか。 戦略的なセルフブランディング術が必要だ。

ただしくれぐれも詐欺はしないように。

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