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  • 2014年02月06日 22:19

「佐村河内守」が作曲したという理由で曲を聴くこと

 耳の不自由な作曲家、佐村河内守氏が実際は大学講師の新垣隆氏を「ゴーストライター」として作曲を依頼していた問題について思うことがあったので、これについて少し。

1 本物

 以前真贋について書かせてもらったことがありますが(嵐のサイン偽造事件と真贋)、何をして「本物」とするかは思った程単純ではないと考えます。

 そこでも小林秀雄の随筆を引用させてもらいましたが、彼の『本居宣長』に大変興味深い話があります。最初に本居宣長の『国歌八論斥非再評の評』を以下に引用しておきます。
 姿ハ似セガタク意ハ似セ易シ、然レバ姿詞ノ髣髴タルマデ似センニハ、モトヨリ意ヲ似セン事ハ何ゾカタカラン、コレラノ難易ヲモエワキマヘヌ人ノ、イカデカ似ルト似ヌトヲワキマヘン、試ニ予ガヨメル万葉風ノ歌ヲ万葉歌ノ中へ、ヒソカニマジヘテ見センニ、此再評者決シテ弁ズル事アタハジ、是ヲ名ヲ顕ハシテ、コレハ予ガ歌コレハ万葉歌ナリト云テ見セタラバ、必予ガ歌似セ物ナリト云ベシ
 これを受けて小林秀雄は次のように述べています。
 この宣長の冗談めかした言い方の、含蓄するところは深いのである。

 姿は似せ難く、意は似せ易しと言ったら、諸君は驚くであろう、何故なら、諸君は、むしろ意は似せ難く、姿は似せ易しと思い込んでいるからだ。先ずそういう含意が見える。人の言うことの意味を理解するのは必ずしも容易ではないが、意味もわからず口真似するのは、子供にでも出来るではないか、諸君は、そう言いたいところだろう。

 言葉とは、ある意見を伝える為の符帳に過ぎないという俗見は、いかにも根強いのである。古の大義もわきまえず、古歌の詞を真似て、古歌の似せ物を作るとは笑止である、という言い方も、この根強さに由来する。

2 名前

 万葉集の中にそっくりの歌を置いておいても誰も気づかないだろうが、宣長の作として、万葉調の歌をつくっても「偽物」としか言われないというのは大変興味深い指摘です。

 今回の騒動でも曲そのものは、既に存在しており、誰が作曲したかということはありますが、それによって曲そのものが変わるということはありません。

 しかし、レコード会社はCDの回収・絶版も考えているということですし、予定されていたコンサートも全てキャンセルになるそうです。

 その曲そのものがよければ、誰が作ったものであってもの良い曲であるはずですが、そうはならないという話で、必要なのは誰が作ったかということを多くの人が重要視しているということを示しています。

3 美術鑑賞

 実際問題、音楽を聴きに行っても、絵画を見に行っても有名な音楽・絵画を見に行っているだけでの話で、有名な作曲家・画家の作品を鑑賞することに満足しているということです。

 ま、専門家でも贋作に騙されることもあれば、流行るとおもって売り出しても一向に売れない歌手などたくさんいます。専門家ですら何が良いか何が悪いかわからない状態なわけで、一般人に何ができるかという話でもあります。

 格好良いことを言っておりますが、実際問題私もルーブル美術館に行けば、真っ先にモナリザを探して見てきたわけですが(パリ雑感)、囲いがあって遠くからしか見ることができず、これなら複製品を近くから見た方がマシと本気で思ったものです。

 それでもルーブルに行ったら必ず有名な作品は見ないともったいないという発想がはたらくのが本音です。本来ならそれほど有名なものではなくても、自分の好きなものをゆっくり見た方が良いはずなのですが、なかなかそうはできないのがつらいところです。

4 最後に

 つまり以前「永仁の壺事件」(嵐のサイン偽造事件と真贋)で書いた様に、一般人には作品の良さとは本来関係のない重要文化財とか国宝とかいった肩書が必要なわけで、それがあると美術館でも目玉になりうるという話です。

 もっと身近な例でいえば、本を買うときも著者の肩書などを見て、○○大学の教授ならということで本を買う人が多いのも同じ理屈です。

 売上○○万部、増刷などというアオリ文句も、他の人がそれだけ認めているということを売りに本を売ろうという発想です。

 本来であれば、他人がある作品について何といおうと自分にとって良いものは良い、悪いものは悪いという話なはずですが、自信を持ってそういうのは難しいという話でもあります。

【関連記事】
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