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パソコン教育実践の先駆者、アマト氏逝く

他の調べ事をしていて、偶然、旧知のアンソニー・アマト(Anthony Amato)氏が昨年12月2日に亡くなったことを知りました。まだ66歳。残念です。はるか東方からご冥福を祈ります。

アマト氏のことは、日本では殆ど知られていないでしょうが、素晴らしい教育者でした。最初に会ったのは、1998年5月のこと。場所は、ニューヨーク市ブロンクスにある第6学区のオフィス。当時はまだ治安が悪い地区で、窓には鉄柵が嵌めてあるような場所です。

きっかけは、たしかMSNBCのサイトで、「米国最貧地区の児童にパソコンを配布して、成績を劇的に上げた教育長がいる」という記事を読んだことでした。日本でも、情報教育の機運が盛り上がり始めた頃です。

貧しい子供にこそ未来を与えなければならない。そうでなければ貧困の再生産になる」という力強いフレーズに痺れました。アマト氏は地元ブロンクス生まれ。実態を知っているからこそ、子供たちの未来を見据えていたのでしょう。

彼の教職キャリアはブロンクスで始まり、40歳そこそこで学区の教育長に上り詰めます。折りからのパソコン、インターネット時代を迎え、東芝と交渉し、1996年から、ノートパソコンの全児童配布を始めたのです。そして、学校で使うだけでなく、自宅持ち帰りシステムにしてしまいます。

前述のように学区は最貧地区。親兄弟がカネのために売り払ってしまいかねません。通学、帰宅途中に強奪されることも心配です。しかし、事件は1件しか起きませんでした。地元育ちの教育長の熱意を理解したからでしょうか。それどころか、親兄弟の中には一緒にパソコンを学び、転職に活かしたケースも少なくなかったそうです。

もちろん、ただ、パソコンを与えただけではありません。綿密な指導要領が準備され、子供たちの学習意欲は高まりました。そして、その結果は、かって市内でビリだった英語が中位に、数学は上位3分の1まで上昇したのです。

これは、スペイン語を母語とするヒスパニック系移民家庭が多く、給食が無料の貧困家庭に育った多くの児童たちにとっては大変な成果だと言えるでしょう。

この目覚ましい成果を買われて、アマト氏は1999年に、ニューヨーク州の隣り、コネチカット州のハートフォード市の教育長になります。ここは同州164学区のうちで、学力テストの成績がビリというとんでもないところでしたが、「Never be last again」というスローガンを掲げて、ここでも目覚ましい結果を出します。

そのあと2002年、今度は大都市ニューオーリンズの教育長にまでなりました。しかし、ここでは、アマト氏の過激な教育改革を巡って毀誉褒貶半ばする中で、2005年に辞任します。その後、カンザス州やカリフォルニア州でも”助っ人”教育長を務めた後、家族の要請でニューオーリンズに帰って、チャーター・スクールのInternational High Schoolの校長になっていました。(追記:同校のホームページにアマト校長のメモリアルページが出来ていました。アマト氏の感動的なフレーズがいくつも引用されていますので、是非、御覧ください)

私は折りに触れ、ネットでアマト氏のその後をフォローしていましたが、ハートフォード時代以降、アマト氏が、学力向上のために、パソコン、インターネットをどんな風に活用したかまでは知りません。しかし、時代がそうでしたから、活用したのは間違いないでしょうし、そこにニューヨーク第6学区時代の先進的な取り組みの経験が生きたことでしょう。

アマト氏は1999年に来日、「インターネット教育元年」と題するシンポジウムに参加しました。(その模様はNHK教育テレビで放映されました)その時、こういいました。「パソコン、ネットを活用して突出した学力向上の成果をあげることだ。そうすれば近隣の学校の親も黙っていられなくなる」(米国では「最初にホームランを打つことだ」と部下を督励していたそうです)

さて、日本。学校のコンピューター室にデスクトップパソコンが整備されたのは随分前のことですが、全児童配布なんて話は聞きません。わずかに、ツタヤの入った市立図書館整備で話題になった佐賀県武雄市の小学校で、2010年に40人にiPadが貸与されたのが話題になった程度。

同市では、今年から小学生全員に、来年は中学生全員にタブレット端末を貸与するとのことですが、ニューヨーク第6学区がノートパソコンを配りだしてから20年近く遅れた話がニュースとは・・・・

アマト氏が偉大だったと思う所以です。武雄市でも、雑音に惑わされず、アマト氏の言うような「突出した学力向上」の成果に早く繋げる「ホームラン」を打ってほしいものです。

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