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せめぎ合いのなか友好的敵対に軟着陸したシリア和平会議 - 青山弘之

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1月22日からスイスのモントルーとジュネーブで、シリアでの紛争の解決に向けた国際和平会議「ジュネーブ2会議」が始まり、シリア政府と在外反体制組織のシリア国民連合(正式名シリア革命反体制勢力国民連立)が3年余りに及ぶ紛争の政治解決に向けて初の直接交渉に臨んだ。

米露、国連が準備を進めてきたこの会議は、バッシャール・アサド政権の退陣を前提とした「内戦」終結を目的としているようなイメージがつきまとう。だが実際のところ、会議はシリア国民連合を後援してきた米英仏、そしてサウジアラビア、トルコ、カタールなど自称「シリアの友」とシリアとの国際紛争、すなわちアサド大統領が言うところの「真の戦争状態」の幕引きを暗にねらったものだったと言える。

市民の抵抗からテロとの戦いへ

「アラブの春」が波及するかたちで2011年3月に始まったシリアの紛争は、当事者や争点を異にする複数の局面が重層的に展開している点を特徴とする[*1]。ジュネーブ2会議において「真の戦争状態」の幕引きが実質的に進められた背景には、重層的な紛争における二つの変化があった。

第1の変化は武力紛争におけるアサド政権の軍事的優位の確定と反体制武装勢力の変質である。

2012年7月に外国人サラフィー・ジハード主義者の本格参戦を機に激化した武力紛争により、アサド政権は主に国境地帯で支配権を失い、「政権の緩慢で陰惨な崩壊過程が加速している」といった主張が説得力を帯びた。だが同年末から、アサド政権はイラン、ロシア、レバノンのヒズブッラーの民兵、イラクのアブー・ファドル・アッバース旅団の後援を受け反転攻勢に転じ、2013年6月のヒムス県クサイル市奪還以降は支配地域を拡大、同年末にはダマスカス郊外県ムウダミーヤ・シャーム市、ダマスカス県ジャウバル地区などの武装集団に部分停戦を受け入れさせていった。

対する反体制武装勢力は、欧米諸国が支援する在外の自由シリア軍参謀委員会(最高軍事評議会)と一線を画すシリア人と外国人のサラフィー・ジハード主義者が、イスラーム戦線、ムジャーヒディーン軍などを名乗り勢力拡大を図る一方、アル=カーイダの系譜を汲むイラク・シャーム・イスラーム国(通称ダーイシュ)[*2]とシャームの民のヌスラ戦線が暗躍し、テロを繰り返した。

これらの武装集団は当初は戦略的に連携し、アサド政権に対抗していた。だが、外国人戦闘員による厳格な宗教的実践の強要や、人質・逮捕者の斬首に代表される蛮行への反発が強まり、2014年1月になると、ダーイシュとそれ以外の武装集団の間で戦闘が激化、またこの過程で自由シリア軍参謀委員会は国内の主要拠点をサラフィー・ジハード主義者に奪われた[*3]

その結果、アサド政権と外国人サラフィー主義者が主導する武装集団との衝突が武力紛争の中心を占めることになり、事態は「完全武装の精鋭部隊に対して、時に徒手空拳で立ち向かうシリア人」、「武器の海の中で非武装の市民が毎日死者を出している抵抗」などといった幻想からはほど遠い「テロとの戦い」としての様相を強めていった。

迷走を続ける反体制勢力

第2の変化は権力闘争における反体制政治組織の迷走である。体制転換後の政権の受け皿になることを期待されていたこれらの組織は、紛争当初から組織とヴィジョンの統一を試みてきたが、外国の介入の是非、政権掌握後の国家像などをめぐって四分五裂を繰り返した。

このうち、欧米諸国が「シリア国民の唯一の正統な代表」として承認するシリア国民連合は、欧米メディアが「反体制派の統一組織」と評してきたこともあり、反体制運動を代表しているように思える。だが、彼らは欧米諸国の後援を受けている以外に何の特徴もない在外活動家の烏合の衆で、他の反体制組織を牽引し得るような実力も信用もなかった。

反体制政治運動の本流をなしてきたのは、民主的変革諸勢力国民調整委員会、シリア国家建設潮流など国内で活動する組織で、彼らはアサド政権の弾圧に曝されつつも、欧米諸国の介入を強く拒否するその姿勢ゆえにシリア国民連合とは一線を画した。

一方、これらの組織とともに国内で活動を続けてきたクルド民族主義政党の民主連合党は、欧米諸国の干渉を嫌ってシリア国民連合と反目するだけでなく、アサド政権との戦略的パートナー関係のもとに北東部に支配地域を確保、民兵(人民保護部隊)を動員してサラフィー・ジハード主義者や自由シリア軍参謀委員会を放逐していった。アサド政権は欧米諸国の経済制裁と長期化する武力紛争のなかで疲弊してはいたが、反体制政治勢力が迷走を続けるなかで、その優位を揺るぎないものとしていったのである。

[*1]シリアの紛争の重層性については、拙稿『混迷するシリア:歴史と政治構造から読み解く』(岩波書店、2012年)のほか、末近浩太「シリア「内戦」の見取り図」(Synodos、2013年8月28日)を参照されたい。

[*2]英語名(Islamic State of Iraq and Syria、Islamic State of Iraq and the Levant)を略して「ISIS」、「ISIL」などと呼ばれる組織。「ダーイシュ」(داعش)はアラビア語名(الدولة الإسلامية في العراق والشام)の頭字語。

[*3]ダーイシュとそれ以外の武装集団との対立は、外国人戦闘員とシリア人戦闘員の対立だと思われがちである。だが実際のところ、これらの武装集団はそのいずれもが外国人とシリア人の双方から構成されており、メンバーの構成員の国籍を基準として分類することは妥当ではない。


化学兵器攻撃がもたらしたアサド政権の正統性

ジュネーブ2会議は、シリア国内での武力紛争が激化する直前の2012年6月30日にスイスのジュネーブで開かれた「シリア作業グループ会合」(ジュネーブ1会議)にその起源を持つ。

この会合には、「人道」的立場からアサド政権打倒を主張する「シリアの友」の米英仏、カタール、クウェート、トルコと、主権尊重の立場からシリア人どうしによる紛争解決を支持し、アサド政権の存続を認める露中、イラクが出席し、シリア国内での暴力停止に向けて協議し、「ジュネーブ合意」を採択した。ジュネーブ2会議の基本原則となるこの合意の要点をまとめると以下の通りである[*4]

1. 現下の紛争を平和的対話と交渉のみを通じて解決する。

2. すべての当事者は、あらゆる形態の武力行使の停止、逮捕者釈放、国際機関および報道機関の活動の自由の保障などを骨子とするコフィ・アナン国連・アラブ連盟合同特使(アフダル・ブラーヒーミー国連アラブ連盟共同特別代表の前任者)の6項目停戦案(2012年3月)を遵守する。

3. 現政権、反体制組織、それ以外の組織のメンバーから構成され、完全なる行政権を有する移行期統治機関(移行期政府)を当事者の総意のもとに発足させる。

4. シリア社会のすべての成員が国民対話プロセスに参加し、憲法改正および法改革を再検討、その結果を信任投票に諮る。新憲法制定後、自由選挙を準備、実施する。

5. 国際社会(シリア作業グループ)は、シリアの独立、主権、領土を尊重しつつ、暴力停止と移行プロセス開始に向けて行動し、紛争のさらなる軍事化に反対する。

ジュネーブ2会議に関して、欧米メディアでは、アサド政権退陣の是非をめぐる当事者間の解釈の違いを指摘しつつも、「アサド政権に代わる」移行期政府の樹立が目的とされているとの報道が目立った。

だが、上記の3.に「現政権、反体制組織……から構成され……当事者の総意のもとに発足させる」と記されていることに着目すると、アサド政権が同意しない政治解決はそもそも想定されておらず、その存続が含意されていることは明らかである。実は、この文言は、アサド政権存続を認める露中、イラクの強い意向を受けて盛り込まれたもので、米英仏などは2012年半ばの段階でアサド政権の存続を認めさせられていたのである。

「シリアの友」はその後、ジュネーブ合意を実現するには「現地のパワー・バランス」を変え、アサド政権を退陣に追い込む必要があると主張し、サウジアラビア、トルコ、カタールが外国人サラフィー・ジハード主義者の潜入支援、武器兵站支援、資金供与を加速させ、ダーイシュやヌスラ戦線の台頭を誘発した。

一方、欧米諸国は、事態に対処するため、シリア国民連合や自由シリア軍参謀委員会といった世俗的な「穏健な反体制派」の強化を試みたが奏功せず、泥沼化する混乱のなかでなす術を失っていった。

こうしたなかで2013年8月21日にダマスカス郊外県グータ地方で発生したのが化学兵器攻撃だった。2012年半ば頃からシリア国内でシリア軍、反体制武装集団双方による使用がとりざたされていた化学兵器をめぐる国際社会の対応については、紙面の制約上本稿では割愛するが、米露は事件に対処するなかで化学兵器の全廃をアサド政権に求めることで合意し、米英仏は計画していたシリアへの限定的な軍事攻撃を見送った[*5]

「シリアの友」はこの経緯を政治的勝利だと鼓舞したが、介入の根拠を「人道」から安全保障へとパラダイム転換させる契機となったこの米露合意によって、アサド政権は化学兵器廃棄プロセスを実施する「正統な代表」としての存在と、同プロセスを安全かつ円滑に進めるための措置、すなわち反体制勢力の掃討を認められた。

[*4]2012年6月のジュネーブ合意全文(英語)は「シリア・アラブの春顛末記」2012年7月1日を参照。

[*5]詳細な経緯については拙稿「シリア 武力紛争の二年半は何だったのか――欧米の思惑と跋扈するジハーディスト――」(『世界』第849号、2013年11月、236~242ページ)を参照されたい。

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