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安倍晋三首相と下村博文文科相が、「いじめ・体罰自殺事件」を逆手に、教育委員会死滅、文科省統制を強化

◆安倍晋三首相と下村博文文科相は、教育委員会制度を事実上廃止し、「戦前の文部省直轄型地方教育行政」を取り戻そうと画策している。道徳教育に力を入れるのは、戦前の「修身」「教育勅語」の復活版である。これは、大東亜戦争(日中戦争、太平洋戦争など複合的戦争)以前の「美しい日本」への復古を目指しており、「日本を、取り戻す。」という標語を掲げる安倍晋三首相の教育改革の真骨頂と言えるだろう。

◆敗戦後、連合国軍最高司令官総司令部(GHQ/SCAP)の要請で、米国教育使節団が1946年3月5日と7日に来日して作成した第1次米国教育使節団報告書(3月30日)により、米国流の教育委員会を設置するよう勧告を受け、文部省は1948年に教育委員会を設置した。米国流の教育委員会教育行政の地方分権、民主化、自主性の確保の理念、とくに、教育の特質に鑑みた教育行政の安定性、中立性の確保という考え方を基本にしており、これらの理念に従って、教育委員会法を制定し、教育委員会を創設した。

 文部省の統制からも、地方自治体の首長からも独立した公選制・合議制の行政委員会で、予算・条例の原案送付権、小中学校の教職員の人事権を持ち合っていた。教育委員は、各自治体の住民有権者の選挙によって選出され、教育委員のなかから教育委員長を選んだ。

 しかし、極めて民主的な制度であったが、米ソ冷戦が始まり、保守勢力と社会党、共産党の左翼勢力との対立が激化し、とくに共産党の極左暴力集団が「火炎瓶闘争」を繰り広げるなど騒然たる政治状況のなかで、「教育委員選挙の低投票率、首長のライバルの教育委員への立候補・当選、教職員組合を動員した選挙活動」などにより、党派的対立が持ち込まれたため、その弊害から教育委員会は発足直後から廃止が主張された。

 その結果、1956年、公選制の廃止と任命制の導入が行われ、教育長の任命承認制度の導入して、一般行政との調和を図るため、教育委員会による予算案・条例案の送付権の廃止を盛り込んだ「地方教育行政法」が成立した。

 都道府県では、教育委員会議において教育長を任命し、文部大臣が承認することになっていた。市区町村では、教育委員会議において教育委員のうちから教育長を任命し、都道府県の教育委員会が承認することとしていた。

すなわち、都道府県の首長が、都道府県教育長を任命する当たり、文部大臣に人物鑑定の「お伺い」を立てなければならないとする「事前承認権」(事前に文部大臣が個人面接を行い、文部大臣の言うことを聞く人物だけを承認する権限)を盛り込み、文部省の統制を強化して、地方教育行政を戦前の文部省直轄型に復活させる第一歩とした。

 戦前の文部省は、「思想統制」の機能を果たしていたものの、取締り官庁だった内務省のいわゆる「下請け機関」にすぎなかったので、教育委員会は、文部省が支配テリトリーを築くための格好の「橋頭堡」となったのである。

 文部省は、都道府県教育委員会に対し「助言と承認」を行う権限を有するにすぎないという建前を守りつつも、その実、都道府県・市町村教育委員会に対して、強い影響力と非公式の権限を行使した。文部官僚のキャリア組を教育長として教育委員会に送り込み、「日教組対策」に当たらせたのは、その実例である。

◆しかし、文部大臣の「事前承認権」は1999年の地方分権一括法により廃止され、事前承認を経る手続きが必要なくなり、都道府県、市区町村ともに、教育長は、当該自治体の首長によって任命された教育委員(委員長を除く)のうちから、教育委員会によって選任されることになった。ただし、教育長候補者としての教育委員は予め首長により特定されているため、首長が選任権について影響力を有していて、一括法により、首長に選任権があるという実態には変わりはない。

 今回、安倍晋三首相と下村博文文科相は、大津市中2いじめ自殺事件(2011年10月11日、滋賀県大津市内の市立中学校の当時2年生の男子生徒が、いじめを苦に自宅で自殺するに至った事件)あるいは、大阪市立桜宮高校体罰自殺事件(2012年12月22日にバスケットボール部の顧問を務めていた男性教諭=当時47歳=が同部キャプテンを務める2年男子生徒に体罰を与え、翌23日に生徒が自殺した事件)などで、教育委員会が、「事件隠蔽」を図り、無責任な姿勢を取り続けたことを重大視し、これらの事件を逆手に取り教育委員会改革に乗り出した。

 安倍晋三自身がメンバーとなった「教育再生実行会議」は2013年4月、首長が任免権を持つ教育長に教育行政の権限を集中させる提言をまとめている。これを受けて、文科相の諮問機関である中央教育審議会は、2013年10月、教育政策の理念を定める「大綱的方針」を首長が策定、教育長は事務執行の責任者、教育委員会は大綱的方針などの審議や首長への是正勧告を行うことにする改革案を答申している。

 これは、すでに形骸化している教育委員会を事実上、廃止して単なる「審議会」に格下げしてしまうのに等しいいわば「教育委員会処分」というものに他ならない。

第1次安倍晋三内閣では、「教育委員会に是正指示の権限」を文部科学大臣に付与する法改正を実現しているので、これから断行する改革は、教育委員会を「審議会化」することによって、文部科学大臣、文部科学省が地方教育行政を「全権」完全掌握し、文部科学省が戦前型の文部行政を完遂していく時代に入ることを意味している。

これにより、いよいよ日本は、教科書の事実上の国定化、戦前の「修身」「教育勅語」の復活、さらには「憲法改正=国防軍創設」に伴い、「愛国心教育」「国防教育」の強化へと突き進んでいくことになる。米国流の公選制教育委員会制度、地方教育行政法下の教育委員会制度は、「完全死滅」を見る。

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