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岸政権(60年安保)と安倍政権のいま - 柴田鉄治

 2014年の年明けを迎えた。毎年、新聞社にとって元旦の紙面は特別の意味を持つ。各社ともより抜きのスクープを元旦の紙面で報じることにいのちをかけるからだ。

 しかし、残念ながら今年の元旦の紙面には、各紙ともアッと驚くようなスクープはなかった。よくいえば「穏やかな年明け」であり、皮肉な見方をすれば「何かものたりない年明け」でもある。特定秘密保護法を強行採決し、靖国神社に電撃参拝するなど安倍政権の〈暴走〉が続くなかでの新年にしては、メディアがもうひとふんばりしてほしかった。

 ところで、2014年はどんな年になるのだろうか。各社それぞれ展望しているが、私は安保騒動の年、1960年が思い出されてならない。当時の首相は岸信介氏で、いうまでもなく安倍晋三・現首相の祖父である。

 岸政権と安倍政権との間には50余年の歳月があるが、二人のやったこと、やろうとしていることは驚くほどよく似ている。二人とも憲法9条の改定を目指し、安保条約と秘密法の違いはあるが、国会で数を頼んで強行採決をし、国民の反対の声に耳をかさなかったところもそっくりだ。

 岸首相が当時、「国民の声なき声を聴く」とデモの声を軽視しようとしたことと、秘密法に反対する市民のデモまで「テロと同じ」と評した石破・自民党幹事長の言葉が重なり合う。

 日本の戦争責任をまったく感じていない歴史認識も、自らがA級戦犯だった岸首相と、A級戦犯が合祀されている靖国神社への電撃参拝をおこなった安倍首相とは同じなのだろう。中国や韓国だけでなく米国やロシア、ヨーロッパ連合からも厳しく批判された靖国参拝は、安倍首相の「自己満足」の代償として日本が失った外交上の損失には計り知れないものがあった。

 ただ、政権は似ていても、60年代といまとでは決定的に違うところがある。メディア状況だ。岸政権には当時すべてのメディアがそろって「岸退陣」を迫ったのに対し、いまの秘密法には読売新聞と産経新聞が最初から賛成に回ったことである。

 秘密を漏らした公務員を罰する法律だといっても、国民の「知る権利」を阻み、メディアを規制する狙いの法律に賛成するメディアがあるとは驚くが、これも「言論の自由」の一つだからやむを得ない。

 ただ、安倍政権が、まるでそのことの「論功行賞」のように読売新聞社の会長兼主筆の渡辺恒雄氏(87)を、特定秘密保護法の運用基準を作成するための有識者会議の座長に任命したのには仰天した。任命するほうもするほうだが、受けるほうも受けるほうだ。有識者の代表として参加するなら、せめて新聞社のトップの職を辞任してからにしてもらいたい。

 安倍首相はNHKの経営委員に自分の礼賛者や家庭教師だった人を任命するなど、臆面もなく情実人事を連発しているが、この人事はメディアに対する不信感を増大させるものとしても黙って見過ごせない。

 秘密保護法とメディアの問題では、むのたけじ氏(元朝日新聞)、原寿雄氏(元共同通信)、澤地久枝氏(元中央公論)ら62人のジャーナリストが「秘密保護法の廃止と安倍首相の退陣を求める」という声明を発表し、その代表が1月14日、日本記者クラブで記者会見した。

 この会見を読売・産経新聞が報じなかったのは分かるが、朝日新聞まで1行も報じなかったのには驚いた。99歳のむのたけじ氏や87歳の原寿雄氏ら戦前を知るジャーナリストの先輩が秘密法の危険性を切々と訴えたのに、没とはひどい。東京新聞のように1面に出したうえ中面で62人全員の名前まで報じろとはいわないが、せめて社会面に雑報として報じるくらいはできたはずだ。

「脱原発」掲げて細川元首相が出馬、俄然注目の東京都知事選

 このほか今月のニュースとしては、東京都知事選挙に細川護煕・元首相が「脱原発」を掲げて出馬すると表明したことで、都知事選が俄然、注目の的となった。小泉純一郎・元首相が応援するというので、いっそう話題を呼んでいる。

 自民党が推す舛添要一・元厚労相との一騎打ちになりそうな気配だが、舛添氏も自民党を飛び出して除名された前歴があり、小泉元首相の子息で自民党の幹部でもある進次郎氏が「舛添氏を応援する大義はない」と語るなど、にぎやかなことだ。

 原発をめぐっては、推進派の読売・産経・日経新聞と、脱原発派の朝日・毎日・東京新聞と新聞論調が二極分化しており、それがそのまま細川氏が脱原発を争点として出馬したことに対する賛否の形に分かれている。知事選をめぐってメディアの色分けがこれほどはっきりした選挙は珍しいといえよう。

 東京都知事選は23日に告示され、16人が立候補した。都知事選ではいつも大勢の立候補者が乱立し、このうち何人を「主要候補」とするかに各メディアは悩まされる。今回も主要メディアの扱いは大きく二つに割れた。

 宇都宮健児(元日弁連会長、社民党・共産党推薦)、田母神俊雄(元航空幕僚長、石原慎太郎氏支援)、細川護煕(元首相、民主党・結いの党・生活の党支援)、舛添要一(自民党・公明党・新党改革支援)の4氏を主要候補としているのが読売、毎日、東京新聞など。それに対して、朝日新聞やNHKは、ドクター・中松(発明家)、家入一真(ネット会社役員)の2氏を加え、計6人を主要候補者として、政見などを詳しく報じている。

 ただ、どのメディアも主要候補者を4人、あるいは6人に絞った理由については説明をしていない。メディアには、説明できない事柄が時々あるのだ。

 2月には東京都知事選に続いて山口県知事選がある。安倍首相の地元だが、ここでも原発が争点になりそうな気配である。前回の知事選で、脱原発を掲げた候補者があと一歩のところまで善戦したところだから、結果がどう出るか。原発については今後のあり方を探る大きなキーポイントとなりそうだ。

沖縄、普天間基地の辺野古移設に地元民も米国の識者も「NO!」

 さらにもう一つ付け加えると、沖縄の普天間基地の移設先とされている辺野古の地元、名護市長選が1月19日おこなわれ、反対派の現職市長が圧勝した。自民党は500億円という基金の提供をちらつかせて賛成派の候補を応援したが、市民は動じなかった。

 沖縄にこれからさらに新しい基地をつくろうなんて、そもそも無理な話なのではないか。安倍政権は地元の反対など意に介さず、県知事の埋め立て許可をたてに、埋め立てに向う構えだが、市長は絶対に認めないと抵抗の構えだ。

 名護市長選での反対派の勝利が、安倍政権への世論の「反撃」の幕開けとなるのかどうか、国政選挙がしばらくないだけに東京都知事選、山口知事選など今後の地方選挙の結果が注目される。

 沖縄の普天間基地の移設問題に関しては、今月もう一つ大きなニュースがあった。米国のアカデミー賞受賞監督、オリバー・ストーン氏ら29人の有識者、文化人が普天間基地の辺野古移設に反対し、即時・無条件で沖縄に返還すべきだとする声明を発表したことだ。

 声明には、ストーン氏のほかノーベル平和賞受賞のマイレッド・マグワイア氏、言語哲学者ノーム・チョムスキー氏、ピュリツァー賞受賞の歴史学者ジョン・ダワー氏、映画監督マイケル・ムーア氏ら、世界的な著名人が名を連ねている。

 声明では、普天間基地の辺野古移設について、米軍が沖縄戦の最中に住民の土地を奪って普天間飛行場をつくった経緯に触れ、「終戦後、沖縄に返還されるべきだった。返還に条件がつくことは本来許されない」と述べ、「沖縄の人々は戦後ずっと、米国の独立宣言が糾弾する『権力の乱用や強奪』に苦しめられ続けている。普天間の辺野古移設はその苦しみを恒久化させることにもつながる」と非難している。

 この声明を東京新聞は、5人の顔写真入りで1月8日付けの夕刊の1面トップで報じ、他紙もそれほど大きくはなかったが、それぞれに報じた。ところが、朝日新聞の夕刊には1行もなく、翌日の朝刊の国際面に小さく載せただけだった。

 発表記事だったのだから原稿が来ていなかったはずはなく、夕刊の編集者が没にしてしまったのだろう。1面トップとはいわないが、朝日新聞がしっかりと報じるべき記事だったのではあるまいか。秘密保護法反対のキャンペーンでは、立ち上がりこそ遅かったものの、新聞としての存在感を見せた報道ぶりだったのに、相次ぐ感度の鈍さはどうしたことか。これでは「朝日から東京新聞に換えたよ」という読者が増えたのも無理はない。

 今年はこれから、安倍政権が集団的自衛権の行使をできるように憲法解釈を変えようとしているときだけに、それに反対している朝日新聞の感度のよさといっそうの奮起を期待したい。

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