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- 2014年01月24日 20:51
新年会に見る今年の日本経済
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常々思うことですが、経済が面白いのは理屈通りには動かない点にあります。ミクロの現実は、しばしばマクロの推測を大きく越えてしまう。だから理屈に現実を合わせるのではなく、現実に適合する理屈を考え出さなければなりません。
アベノミクス2年目の日本経済では、今まで経験したことがないような現象がいくつも見られます。いろんな業界の新年会に出てみると、生きた経済の面白さを教えてくれるような出会いが少なくありません。2014年の経済はどうなっているのか。新年会の風景を通して浮かび上がってくる「今年の日本経済」に思いを馳せてみました。
極端な話、主催者や来賓の挨拶を聞いているだけで、「この業界の現状」がくっきりと見えてくる。毎年、続けて出ていれば、それこそ格好の定点観測となる。ということで、今年の新年会の様子をいくつかご紹介してみたい。
かなり以前から続けて呼んでもらっているのは、住宅建材関係の新春懇親会である。ここ数年、もっとも浮き沈みが激しかった業界と言っていいだろう。今でも印象に残っているのは、リーマンショック直後の2009年1月、マネーとモノの動きが止まっていた時期の暗かった新年会のことである。
挨拶に立った人が、「今年の住宅着工戸数は80万戸くらいでしょう。でもゼロにはなりません。建築基準法に合わない家を建て直すだけでも、この国には膨大な需要があるのです」と言っていた。こちらは利害関係のない立場なので、岡目八目的に「ああ、この業界は今がボトムで、これから良くなるな」と感じたものである。経験的に言って、謙虚な発言が出るようになった業界は、最悪期を脱している。逆に「皆の努力で何とか危機を乗り切ろう」などと言っているようだと、まだまだ泥沼が続くものである。
2013年の住宅着工件数は97.0万戸の見込みだそうだ。案の定、2009年の78.8万戸をボトムに上昇しており、特に昨年は消費税の駆け込み需要があったために、久々に高い水準となった。お陰で新年会の雰囲気は明るい。だったら2014年はどうなるかというと、「反動減で80万戸台に戻る」という意見もあるし、「いやいや95万戸はいける」との強気論もある。「4月からの住宅ローン減税とすまい給付金は意外と良い」、「2015年10月に向けて、もう1回駆け込みが来る」などの理由からである。
そうかと思うと、「そもそも駆け込み需要期は仕事量が増えるので、どうしても工事が雑になる。一生に1度の買い物なのだから、この際、3%には目をつぶって、増税後のメーカーが暇な時期に仕事を発注してもいいのでは」「住宅メーカーは、去年は儲けたはずだから、4月以降でも『消費税分は3%値下げします』というところも多いのでは」という声も聞いた。いかにもプロらしい意見である。
人手不足によるコスト高、建設期間の長期化を嘆く声も増えている。「ガン吹き屋(塗装業者)が不足、左官屋は絶滅危惧種、畳屋はほぼ居なくなった」という話を聞いた。職人などがどんどん減っていて、しかも高齢化している。なおかつ若い人が育っていない。「供給力不足」という建築現場の問題は、これから着実に広がっていくだろう。
ともあれ、住宅産業においては「消費税は既に過去のこと」になっているという点が興味深い。極論すれば、消費税の問題は2013年の新年会の時点で終わっていた。そのくらいでないと、住宅産業においてはとても間に合わないのである。
今年、会場で聞いて驚いたのは、「1月15日、恒例の冬のクリアランスセールで、新宿の伊勢丹本店前には開店前に6100人が行列を作った」という話である。店側は15分繰り上げて開店したそうである。
この日の売り上げは、平日にもかかわらず1日で22億円。1月2日の初売りの2倍強であったとのこと。セールの時期を他店に比べて遅らせたことにより、三越・伊勢丹グループに対する「飢餓感」が醸成されたのであろう。ブランドイメージを高く保つためのお手本のような「競争戦略」である。
それ以上に驚くべきは、行列一番乗りのお客さん(たぶん徹夜組)が向かった先はメンズ館で、この日は特に紳士物の売れ行きが良かったとのことである。何か途方もないことが起きているとしか思われない。
通常の景気回復局面においては、まず婦人物から売れ始めるものである。紳士物が売れるのは、相当に景気が良くなってからである。つまり「男は後回し」というのがファッション界の通例である。メンズ売り場に人が集まること自体が近年ではめずらしかった。なぜ今年は違うのか、という「謎解き」は興味深いところであるが、これは経済学ではなく、むしろ社会心理学やマーケティングの範疇であろう。ファッションに「縁なき衆生」の筆者としては、深入りを避けたい話題である1。
昨年末から百貨店では、高額消費が増えていると聞く。昨年末の株高と冬の賞与が良かったことによるものだろう。アベノミクスによる景気回復パターンは、しみじみ今までとは違う。そのために、バブルっぽい感じもあるし、今まで暗かった業界にも薄日が差している。少なくとも百貨店業界が前年比売り上げ増なんて、ずいぶん久しぶりのことではないか。
もっとも古いタイプの筆者としては、「輸出が伸びて、製造業が復活しないことには、景気回復とは認めたくない!」的な思いもある。野球で言うならば、四番打者に当たりがないままに味方が得点を重ねているようなものではないだろうか。
アベノミクス2年目の日本経済では、今まで経験したことがないような現象がいくつも見られます。いろんな業界の新年会に出てみると、生きた経済の面白さを教えてくれるような出会いが少なくありません。2014年の経済はどうなっているのか。新年会の風景を通して浮かび上がってくる「今年の日本経済」に思いを馳せてみました。
●住宅産業~消費税は既に過去の問題
エコノミストにとって、年末が仕入れの時だとすると、年初はかき入れ時である。いろんな業界で新年会があり、そういう場で講師として「今年の経済見通し」を求められる。評判が良ければ、翌年も続けて呼んでもらえる。当方としては、機会を与えられるのもさることながら、そういう場所で聞く現場の話がまことに勉強になるのである。極端な話、主催者や来賓の挨拶を聞いているだけで、「この業界の現状」がくっきりと見えてくる。毎年、続けて出ていれば、それこそ格好の定点観測となる。ということで、今年の新年会の様子をいくつかご紹介してみたい。
かなり以前から続けて呼んでもらっているのは、住宅建材関係の新春懇親会である。ここ数年、もっとも浮き沈みが激しかった業界と言っていいだろう。今でも印象に残っているのは、リーマンショック直後の2009年1月、マネーとモノの動きが止まっていた時期の暗かった新年会のことである。
挨拶に立った人が、「今年の住宅着工戸数は80万戸くらいでしょう。でもゼロにはなりません。建築基準法に合わない家を建て直すだけでも、この国には膨大な需要があるのです」と言っていた。こちらは利害関係のない立場なので、岡目八目的に「ああ、この業界は今がボトムで、これから良くなるな」と感じたものである。経験的に言って、謙虚な発言が出るようになった業界は、最悪期を脱している。逆に「皆の努力で何とか危機を乗り切ろう」などと言っているようだと、まだまだ泥沼が続くものである。
2013年の住宅着工件数は97.0万戸の見込みだそうだ。案の定、2009年の78.8万戸をボトムに上昇しており、特に昨年は消費税の駆け込み需要があったために、久々に高い水準となった。お陰で新年会の雰囲気は明るい。だったら2014年はどうなるかというと、「反動減で80万戸台に戻る」という意見もあるし、「いやいや95万戸はいける」との強気論もある。「4月からの住宅ローン減税とすまい給付金は意外と良い」、「2015年10月に向けて、もう1回駆け込みが来る」などの理由からである。
そうかと思うと、「そもそも駆け込み需要期は仕事量が増えるので、どうしても工事が雑になる。一生に1度の買い物なのだから、この際、3%には目をつぶって、増税後のメーカーが暇な時期に仕事を発注してもいいのでは」「住宅メーカーは、去年は儲けたはずだから、4月以降でも『消費税分は3%値下げします』というところも多いのでは」という声も聞いた。いかにもプロらしい意見である。
人手不足によるコスト高、建設期間の長期化を嘆く声も増えている。「ガン吹き屋(塗装業者)が不足、左官屋は絶滅危惧種、畳屋はほぼ居なくなった」という話を聞いた。職人などがどんどん減っていて、しかも高齢化している。なおかつ若い人が育っていない。「供給力不足」という建築現場の問題は、これから着実に広がっていくだろう。
ともあれ、住宅産業においては「消費税は既に過去のこと」になっているという点が興味深い。極論すれば、消費税の問題は2013年の新年会の時点で終わっていた。そのくらいでないと、住宅産業においてはとても間に合わないのである。
●ファッション業界~紳士物が売れている?
筆者はお洒落にはほとんど縁のない人間だが、繊研新聞主催の「ファッションビジネス懇話会」の1月朝食会では、なぜか3年連続で講師に呼んでいただいている。今年、会場で聞いて驚いたのは、「1月15日、恒例の冬のクリアランスセールで、新宿の伊勢丹本店前には開店前に6100人が行列を作った」という話である。店側は15分繰り上げて開店したそうである。
この日の売り上げは、平日にもかかわらず1日で22億円。1月2日の初売りの2倍強であったとのこと。セールの時期を他店に比べて遅らせたことにより、三越・伊勢丹グループに対する「飢餓感」が醸成されたのであろう。ブランドイメージを高く保つためのお手本のような「競争戦略」である。
それ以上に驚くべきは、行列一番乗りのお客さん(たぶん徹夜組)が向かった先はメンズ館で、この日は特に紳士物の売れ行きが良かったとのことである。何か途方もないことが起きているとしか思われない。
通常の景気回復局面においては、まず婦人物から売れ始めるものである。紳士物が売れるのは、相当に景気が良くなってからである。つまり「男は後回し」というのがファッション界の通例である。メンズ売り場に人が集まること自体が近年ではめずらしかった。なぜ今年は違うのか、という「謎解き」は興味深いところであるが、これは経済学ではなく、むしろ社会心理学やマーケティングの範疇であろう。ファッションに「縁なき衆生」の筆者としては、深入りを避けたい話題である1。
昨年末から百貨店では、高額消費が増えていると聞く。昨年末の株高と冬の賞与が良かったことによるものだろう。アベノミクスによる景気回復パターンは、しみじみ今までとは違う。そのために、バブルっぽい感じもあるし、今まで暗かった業界にも薄日が差している。少なくとも百貨店業界が前年比売り上げ増なんて、ずいぶん久しぶりのことではないか。
もっとも古いタイプの筆者としては、「輸出が伸びて、製造業が復活しないことには、景気回復とは認めたくない!」的な思いもある。野球で言うならば、四番打者に当たりがないままに味方が得点を重ねているようなものではないだろうか。
- 吉崎達彦(かんべえ)
- 双日総合研究所取締役副所長・同主任エコノミスト。



