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誰もに優しい社会をいっしょに――「障害者の権利に関する条約」批准に寄せて ‐ 青木志帆

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慢性疾患患者(がん・難治性疾患他)の権利擁護

権利条約批准に向けた法改正の中で、改正障害者基本法は、障害者の定義を、「身体障害、知的障害、精神障害……その他心身の機能の障害(以下、「障害」と総称する)がある者であつて、障害及び社会的障壁により継続的に日常生活又は社会生活に相当な制限を受ける状態にあるもの」と改めた。これにより、ようやく身体障害者手帳の基準にうまく適合しない慢性疾患患者も、障害者としての権利保障の対象に含まれることになった。

慢性疾患患者の多くは、年金もなく、福祉サービスも受給できず、ごく一部の病気(難病、肝炎、一部水俣病、原爆症など)以外は医療費の助成もなく、生活保護以外はほとんど福祉的支援を受けることができない。しかし、上記障害者基本法改正を皮切りに、まず「難病」を障害者として捉える動きができつつある。

ただ、これまでまったく福祉の対象とされてこなかったために、当事者も支援者もどのような支援が必要であるか手探りの状態であり、支援のための法律(障害者総合支援法など)もまだまだ不十分な点が多い。また、権利条約批准と同じタイミングで、難病患者の医療費助成制度の大改革案が出されたものの、その対象となる患者の範囲設定方法、助成内容、ともに「患者が他の者との平等を基礎として社会参加できる」内容といえるかというと、極めて不十分であると言わざるをえない。

難病にかぎらず、多くの難治性疾患にとって医療費の異常な高額さが社会参加のネックになる。また客観的に認識可能な障害ではないので差別、偏見が根強い。医学の発展によりようやくつなぎとめた生命を、差別と偏見と医療費との闘いだけに費やすことのないよう、権利条約を意識した支援のあり方が求められる。

いっしょに

私が司法修習生に対して、高齢者・障害者委員会で研修をした時のことである。彼らは、知的障害者入所施設の見学の直後で、「想像していたよりも明るいところでした。入所者の皆さんの目もきらきらしていて、とても楽しそうでした」と話してくれた。そこで私は、「では、みなさんが、彼らと同じように1カ所に集められ、集団で施設での生活をせよ、と言われたらどう思いますか?」と尋ねてみた。すると、彼らの目は一瞬で曇った。

決して差別する意図があって述べた感想ではない。むしろ、障害者に関する仕事に興味を持ち、志願して研修を受講した者たちである。しかし、無意識のうちに「知的障害者は施設で生活しているもの」という社会通念ができあがっていることに気づいたのだろう。

社会的障壁の除去も、合理的配慮の提供も、既存の社会通念を破壊する作業であり、今までそのようなことを考えもしなかった大多数の非障害者にとって、一朝一夕に受け入れられる考え方ではないだろう。ただ、現状差別状態にあることが必ずしも責められることではない。この司法修習生たちのように、障害者の権利擁護に関心のある法律家の卵でさえ、無意識のうちに社会的障壁となる「慣習」に浸かっていたのだから。

大切なのは、差別状態の非難ではなく、どうすれば権利条約の趣旨を実現することができるのか、立場の違いを越えて「いっしょに」考えることだ。その過程を通じ、障害者がその能力を自由に発揮できる社会になっていくはずであり、そのときはきっと、非障害者にとっても優しい社会になっているだろう。

画像を見る 青木志帆(あおき・しほ)

弁護士

大阪府生まれ。弁護士。弁護士法人青空尼崎あおぞら法律事務所(兵庫県弁護士会)、「日弁連人権擁護委員会障害のある人に対する差別を禁止する法律に関する特別部会」、「介護保障を考える弁護士と障害者の会全国ネット」所属。障害者自立支援法違憲訴訟弁護団、和歌山石田訴訟弁護団、和歌山ALS訴訟弁護団などに参加。自身が難病(間脳下垂体機能障害)当事者である縁から、 難病をはじめとする「見えない障害」を啓発するポータルサイト「わたしのフクシ。」にてコラムを執筆。

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