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安倍政権を殺すのは誰だ 慰安婦再燃させたNHK会長の真意

昨年5月、日本維新の会共同代表の橋下徹・大阪市長は従軍慰安婦について「必要なのは誰だってわかる」と発言し、世界中から厳しい批判を浴びたのを忘れたのだろうか。

籾井勝人(もみいかつと)NHK会長は25日の就任会見で、旧日本軍の慰安婦問題について「どこの国にもあった」「なぜオランダには今も飾り窓があるのか」と述べた。発言の真意をはかりかねる。

橋下市長が、国会に議席を持つ政党の共同代表、大阪市長という公職にとどまっていることについて、海外では今も「日本社会は橋下発言を許容しているのか」と厳しい目が注がれている。

橋下市長はしかし、その後の記者会見で率直に「過去の過ち」を反省した。これに比べ、籾井会長の発言は、もはや開き直りとしか言いようのないものだ。失言というより、確信犯である。

籾井会長のポストは英国でいえば、英BBC放送のトップだ。もし、歴史認識をめぐって公共放送のトップがこんな発言をしようものなら、本人ばかりか任命権者のクビも即刻、飛んでいるだろう。

問題の籾井発言を朝日新聞デジタルから振り返ってみる。

――慰安婦を巡る問題については

「戦時中だからいいとか悪いとかいうつもりは毛頭無いが、この問題はどこの国にもあったこと」

――戦争していた国すべてに、慰安婦がいたということか

「韓国だけにあったと思っているのか。戦争地域にはどこでもあったと思っている。ドイツやフランスにはなかったと言えるのか。ヨーロッパはどこでもあった。なぜオランダには今も飾り窓があるのか」

――証拠があっての発言か

「慰安婦そのものは、今のモラルでは悪い。だが、従軍慰安婦はそのときの現実としてあったこと。会長の職はさておき、韓国は日本だけが強制連行をしたみたいなことを言うからややこしい。お金をよこせ、補償しろと言っているわけだが、日韓条約ですべて解決していることをなぜ蒸し返すのか。おかしい」


籾井発言の問題点はいくつもある。

歴史認識について「どこの国にもあったこと」という論理のすり替えが通ると考えているのは日本だけだろう。

「お前もやったではないか?(ラテン語のtu quoque)」という反論的な質問は歴史を哲学的に問う手法としては意味があるのかもしれないが、日常生活では子供の口喧嘩でも「お前だって論法」は通用しない。まして政治、外交、国際社会では問題を難しくするだけだ。

ドイツ、フランスに加え、戦争捕虜(POW)と強制慰安婦問題を抱える「オランダ」の飾り窓を例に挙げたのは救いようがない。

籾井会長が大戦中の史実を知って発言しているとしたら、これは国家に対する最大の侮辱である。こうした日本の態度が韓国を硬化させてきたことはもはや否定のしようがない。

「強制連行はなかった」と主張した第1次安倍内閣の安倍首相はオランダから突き上げられて、「狭義の強制連行はなかったという意味だ」という苦しい弁明に追われた。

大戦中、旧日本軍占領中のインドネシアでは、日本軍がオランダ人女性35人を民間人抑留所から慰安所に強制連行し強制売春させたことは歴史上の事実だ。

オランダは、イラク復興支援のため陸上自衛隊が駐留するサマワを含む地域を警備してもらった国である。オランダ人が籾井発言を知ったとしたら、激怒するのは間違いない。

「叱られているうちが花」という言葉が教える通り、オランダが激怒してくれたら、まだ、救いがある。しかし、世界は「日本は先の大戦を肯定する確信犯だ」とあきらめつつあるのではないか。

不偏不党、社会の木鐸であるはずの報道機関、しかもNHKという巨大メディアのトップが「韓国は日本だけが強制連行をしたみたいなことを言うからややこしい」と発言した。

これは、橋下発言以上に重大だ。籾井発言で、これからのNHK報道にはバイアスがかかると疑ってかからざるを得なくなった。

籾井会長は、安倍首相の財界応援団「さくら会」の重鎮で元経営委員長の 古森重隆・富士フイルムホールディングス会長と親交がある。籾井会長就任は「政権の意向が反映された」といわれてきた。

籾井会長の発言が安倍政権の意向とは思いたくないが、安倍首相をはじめとする「保守勢力」を自称する政治家やメディアは、東京裁判に端を発する歴史認識を「自虐史観」と激しく批判してきた。

それに対抗する意味で「自由主義史観」という名の運動が起きたが、歯止めがきかなくなった最近の論調に「居直り史観だ」という批判が保守陣営からも寄せられるようになった。

筆者が恐れるのは、海外から日本では「居直り史観」が主流になったとみなされることである。安倍首相は年末、靖国神社を参拝した理由を「恒久平和を誓う」ためと説明した。

しかし、世界は、靖国参拝の目的は東京裁判の否定、すなわちサンフランシスコ講和条約による戦後秩序の否定とみなしている。裏返せば、日本は先の大戦についてまったく責任がないという歴史認識である。

靖国参拝が「靖国史観」と受け取られ、籾井会長にみられる「居直り史観」と結び付けられる。一般の靖国参拝まで色眼鏡でみられるようになる。これでは靖国にまつられている戦没者があまりにもかわいそうだと思う。

従軍慰安婦をめぐって「軍が直接関与した組織的拉致と言えるような強制連行は朝鮮半島では行われなかった」という自称「保守勢力」の主張は、日本の責任を否定する意図で行われていると受け止められ、韓国だけではなく、欧米からも厳しい批判を浴びせられてきた。

欧米の価値基準から見れば、女性の自由意思に反して性行為を強制していたこと自体が問題で、国家としての責任は免れることができない。

1993年の慰安婦関係調査結果発表に関する河野内閣官房長官談話はこう記す。

「慰安所は、当時の軍当局の要請により設営されたものであり、慰安所の設置、管理及び慰安婦の移送については、旧日本軍が直接あるいは間接にこれに関与した」

「慰安婦の募集については、軍の要請を受けた業者が主としてこれに当たったが、その場合も、甘言、強圧による等、本人たちの意思に反して集められた事例が数多くあり、更に、官憲等が直接これに加担したこともあったことが明らかになった」

「当時の朝鮮半島は我が国の統治下にあり、その募集、移送、管理等も、甘言、強圧による等、総じて本人たちの意思に反して行われた」

強制連行とは書いていない。しかし、政治・外交問題化したのは3つ目の「総じて」のくだりである。

軍が直接関与して組織的に「甘言」「強圧」を行ったようにも受け取れるし、軍の直接関与がなかったとしても全体としてみれば、そう受け止められても仕方がないと言っているようにも聞こえる。

政治的に灰色決着を図ったことが、かえって「日本政府が旧日本軍による慰安婦の強制連行を認めた」という曲解を広めてしまった。

このため、安倍首相は2007年、「政府が発見した資料の中には、軍や官憲によるいわゆる強制連行を直接示すような記述は見当たらなかった」とする政府答弁書を閣議決定した。

今回も首相に返り咲く前、河野談話の見直しを主張していたため、いつか安倍首相が河野談話の見直しを持ち出すのではないかと韓国はいぶかっている。

日本が最優先にすべき課題は従軍慰安婦問題を何度も何度も蒸し返すのではなく、戦後積み重ねてきた談話を維持することだ。

「悪いのは日本だけではない」という論理がいつの間にか「日本は何も悪くなかった」「日本の植民地支配は素晴らしかった」というとんでもない勘違いにすり替わり始めている。

こうした世間の風潮が橋下発言、籾井発言の裏側にある。

中国と紛争を起こさずに尖閣諸島の主権を守り抜き、日本経済の成長を取り戻すのは大変な仕事である。筆者は個人的には安倍首相に5年とはいわず、10年は頑張ってもらいたいと思っている。

前回の安倍政権を殺したのは誰か。朝日新聞でもNHKでもない。安倍首相のまわりで東京裁判史観の否定をたきつけた自称「保守勢力」の政治家、識者、メディアである。

そして今回も自称「保守勢力」が安倍政権を殺そうとしている。真の愛国者とはいったい誰なのか。いい加減に目を覚ませ。

安倍首相の靖国参拝を一番喜んだのは、米国のバイデン副大統領と気脈を通じる中国の習近平国家主席だろう。日本の自称「保守勢力」が騒げば騒ぐほど、ほくそ笑むのは中国共産党なのだ。

(おわり)

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