記事

民主主義とメディアと教育と、無自覚。


静岡県の川勝知事が、教育長を事実上更迭し、後任に文部科学省職員を受け入れる意向を示した。http://sankei.jp.msn.com/region/news/140115/szk14011502150001-n1.html

知事と教育長とはかねてより、学テの成績公開などを巡って対立していた。「全国学力・学習状況調査」(全国学力テスト)の結果について、同県の小学校6年生の「国語A」の成績が全国最下位だったことが発端だった。「国語A」は漢字など単なる知識量を問う問題だ。それほど大騒ぎするものかと個人的には思う。現在の学校現場は「生きる力」を伸ばそうということで、知識の活用力を問うB問題的な学力養成に重きを置いている。A問題の成績を上げたければ毎日ドリルばかりやっていればいいのである。

以前から遺恨はあった。週刊ダイヤモンドが発表した全国高校別大学合格力ランキングで、県下の高校が上位に入っていないことにも腹を立てていたことがあった。しかしあのランキングがいかにいい加減なものであるかは拙著「間違いだらけの中学受験」の中で述べたとおり。実際、あのランキングでは毎年のようにランキングが乱高下するので学校選びの基準にはなり得ない。そのことがランキングとしての精度の低さを物語っている。

川勝知事は、ランキング過敏症なのだろう。痛々しい。

ま、客観的に見てそういうツッコミどころはあるものの、もしかしたら、実際に静岡県の教育行政はうまくいっていないのかもしれない。そこまでは私にもわからない。

ただし、だからといって教育行政を行政の支配下に置くということは、基本的にはあってはならない。戦時下の体制に戻すことになる。

現在の日本にある不穏な流れとの整合性が怖いのである。

日本では、そもそも行政が教育に対して口を出しすぎる。学習指導要領は法的拘束力をもっているし、検定教科書制度というものがあることも象徴的だ。

日本では、明治時代、富国強兵の施策の一環として学校制度が整備されてきた歴史があるため、「現場軽視の上意下達」が、戦後の日本の教育行政においても伝統なのである。それによって、やれ「ゆとり」だ、「脱ゆとり」だと現場は右往左往させられている。問題が起こればルールを追加し、制度によって教員を縛る。現場の教員たちは号令一下、それに従うしかない。

昨年、松江市の教育委員会が、管轄の小学校に「はだしのゲン」の閲覧規制を通達 し、現場もそれに従ったということが大きく報道された。 それなどはまさに、現在の公教育において、教育現場の裁量などないことの証左 である。

「県費負担教職員の従事する教育事業は、市町村の事業であり、これらの教職員は当該市町村の公務員であるから、その服務監督は市町村教育委員会が行うものである」という原則はしょうがない。しかし教育の中立性という上位概念も合わせて考えれば、「市町村から教育現場への通達・指導の類は、行政上やむを得ないものでない限り、最低限に慎むべきである」という大原則が守られなければならない。「この歌を歌え」だの「この本は読ませるな」だのは、行政が命じるべき類のことではないのである。

「教師たちの最高の力量は、自由という空気の中でのみ花咲くものである。これを整備することが教育行政官というものの責務であって、その反対ではない」と、戦後日本の教育現状を視察した米国視察団 はマッカーサーに提言している。その通りだと私は思う。

教育とは本来、次世代が、自分たちの力で未来を選択し切り拓いていくために行われる営みだ。政府が間違っているときにはそれを指摘し、「正しい選択」ができるような能力を、次世代に身につけさせる営みだ。そしてその判断力の女房役がメディアである。メディアは判断材料となる正しい情報を人々に提供する役割を担っている。

健全な民主主義を継続していくためには、教育とメディアの力が欠かせないといわれるのはこのためだ。そのために、教育とメディアは政治的に独立でなければいけない。だから教育とメディアは政治的な規制に、極力さらされてはいけないのである。

どこぞの市長が、「教育は、行政の管理下にあって、行政の指示に従うことが当然だ」と言うようなことをまくしたてているのを聞くと愕然とする。教育という営みの本筋がまるで見えていないのである。

民主主義ではない国において、メディアが政府の広報機関として位置づけられていることに、私たちは強い違和感を覚えるが、自国において、教育が、政府の思想伝達手段に利用されかねない状態にあることに、あるいはすでにそのような状態になりつつあることに、私たちはあまりにも無自覚ではないだろうか。

あわせて読みたい

「川勝平太」の記事一覧へ

トピックス

議論福島第一原発処理水の海洋放出は許容できるリスクか?

ランキング

  1. 1

    給付金効果はあったが見えぬだけ

    自由人

  2. 2

    橋下氏 任命拒否の教授らに苦言

    橋下徹

  3. 3

    日本における次世代の目玉産業は

    ヒロ

  4. 4

    ロンブー淳 TVに抱く気持ち悪さ

    文春オンライン

  5. 5

    岡村結婚の裏に涙のエレベーター

    文春オンライン

  6. 6

    大阪の幻想 維新が得する都構想

    猪野 亨

  7. 7

    NHKと国民の関係性は「強制」に

    PRESIDENT Online

  8. 8

    官僚へ負担どっち? 野党議員反論

    BLOGOS しらべる部

  9. 9

    すすきの感染 酒飲みにうんざり

    猪野 亨

  10. 10

    ネットゲームに求められる人間力

    シロクマ(はてなid;p_shirokuma)

ランキング一覧

ログイン

ログインするアカウントをお選びください。
以下のいずれかのアカウントでBLOGOSにログインすることができます。

コメントを書き込むには FacebookID、TwitterID のいずれかで認証を行う必要があります。

※livedoorIDでログインした場合、ご利用できるのはフォロー機能、マイページ機能、支持するボタンのみとなります。