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慎泰俊さんとの対談記事(後半) 「多様なNPOが活躍すれば、社会はもっとよくなる」

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前回に引き続き 慎泰俊さんとの対談です

「社会を支えるNPO、NPOを支える政治という形」

細野:    日本の場合、里親や特別養子縁組がなかなか進まないと言われています。ですから、やはり施設をしっかりサポートしていくことは大事です。それと同時に、施設養護とは違う環境を作っていくことも重要ではないかと思うんですよね。もう少しいろんな人が、里親や特別養子縁組ができるような仕組みにした方がいいのではないかという議論もしているんです。

慎: おっしゃるとおりだと思いますね。施設の方々ともそんな話をしていたのですが、里親が増えることは理想だと思います。子どもは、施設で育つことはあっても、いつか社会に出てちゃんと家庭を作って幸せな生活を送っていくために施設があると考えたときに、できれば家庭に近い環境で育つということは理想だと思うんです。それが増えていけばいいと思っています。

細野: そうですね。

慎: 日本は、制度的な課題なのか文化的な課題なのか、なかなかまだ増えていないという現状はありますが、時間をかけて増えていけばいいと思います。これは地域差もあり、例えば新潟あたりは里親養護が非常に多いので、おそらく文化的な問題だけではないと思っているんです。やり方次第で進めていくことができるし、やっていくべきだと個人的には思っています。

細野:    それについては二つ問題があると思っています。一つは親権です。親の子どもに対する養育権が日本は非常に強いという点です。もう一つは、日本の家に対する考え方もあるのではないかと思っています。ある種、血縁主義というか、そうではない家庭を積極的に認めていこうという形になっていない面がありますよね。この二つは乗り越えなければいけない問題だと思っています。特に、家族というものに関しては、私は少し捉え方が狭すぎるのではないかと思います。もともと日本では、例えば長屋で生活していたら火事などがよくあって、子どもが最後に生き残って、残った大人が長屋で育てる、ということが一般的にありました。そのときの家族観は、もっとおおらかで、社会で子どもを育てるというものだったのではないでしょうか。血の繋がりに関係なく育てたという例はたくさんあったはずです。ところが、ある時期から家族観が非常に狭くなってしまって、血の繋がっていない子どもを育てるということにならない。社会もなかなかそれを受け入れない。そこをなんとかこれから乗り越えられないだろうか、と思うんです。

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慎: そうですね。日本にはコミュニティがもともとあって、その中にいる限りはいろんなサポートを、単なる家を超えてもたらしていたと思いますね。そのコミュニティが少し弱体化している感じは、特に都心部では増えていると思います。アパートの隣の人が誰だかわからないということはよくある話ですから。

細野: 全ての問題を政治で解決することはもう無理だと思うのです。そうなったときに、やはり親戚、血縁に全てを頼るというのは現実的ではないですよね。職場でもいいし、NPOでもいい、何らかのもので支えるという仕組みは必要です。滑り台みたいに、坂道を転げ落ちるように落ちてしまう人は、もうずっと下まで落ちてしまっているように思います。途中で踊り場のようなものがたくさんあればいいのですが、今はそれがあまりないですよね。その踊り場をつくる役割を、社会のいろんな主体が頑張ってやってくれて、それを政治が後ろからバックアップするというのも一つの姿じゃないかな、と思うんです。

慎:そうですね。

細野: ですから、NPOの支援の税制は大事だと思っているんです。我々は、「NPOは税金が安くなるんです」「税控除できますよ」、という言い方をし過ぎて失敗したのかもしれないと思っているんです。そうではなくて、NPOが社会の主役となってしっかりと活動することに意味がある、社会の仕組み自体をより分厚くしていく、多層なものにしていく、そういうものがたくさんあればあるほど世の中良くなるんです、ということを伝えていれば、皆さんの受け止め方も違ったかな、と、今さら後悔しているんです。

「知らない問題を、人は解決しようとしない」

慎: いやいや、そんな。税金は支払ったものが何らかの形で社会に再分配される仕組みだと思うんです。寄付もある意味同じです。100%完璧な政府があれば、税金だけ支払ってあとはお任せします、ということでいいと思うのですが、やはり向いている仕事と向いてない仕事があると思うので、それはおっしゃるとおり複層化していくべきだと思うんですよね。おそらく小回りが利くということが、小さいNPOの一番いいところなので。

細野: あとは多様性ですよね。多様な価値でいろんな団体が動いた方が、そこに関わる人の種類も、引っかかってくる人の数も多いので。政府で、このあたりが公益、公的な役割です、と限定してしまうと、その外の人が救われないですよね。そうではなく、多様な主体があった方がバランスもいいし、関わる人も多くなるということだと思うんです。

慎: そうですね。リスク管理という観点からも、多様な人が関わる方がいいと思います。

細野: 今日こうやって筑波愛児園に伺って、この施設がいよいよ新しい建物に替わって、本当にお金集めにも大変なご苦労をされたので本当に良かったなと思うのですが、これからの児童養護施設の課題についても少しお話を伺えますか。

慎: はい。

細野: わずかながら職員さんの定員を増やしたということはあるけれど、現場を見ていると、昼間だとまだ小学校に入る前のお子さんで1人の大人がだいたい5~6人を見ているような感じですよね。

慎: そうですね。根本的な問題を三つとすると、一つ目はやはり今おっしゃった、「人手不足」ですね。ケア職員は単に子どもの世話をする人ではないんです。子どもが生きていくために一番重要なものは、「自分を肯定して努力する能力」「なんとかやっていく力」だと思うんです。それは、基本的には、自分以外の人からの愛情によって育まれるものだと思うのです。

細野: そうですね。

慎: それが今は圧倒的に足りていません。この「人手不足」は一番根本的な課題だと思ってはいるのですが、一方で、施設養護という形態でこれを解決するのはとてもお金かかるんです。

細野: なるほど。

慎: 例えば、今の職員さんの数を倍にすると、数百億円規模で毎年出ていくお金が変わってきます。そう簡単にできる問題でないということは理解しています。だからこそ里親を増やすなどの代替案が必要だとも思います。しかし、残り十年くらいは、日本では施設養護が常に主流であり続けると思いますので、これは本当にお金を使った方がいいと思っています。ここで子どもが自分の人生を自分でしっかり生きていこうという力がついていくことは大きいです。例えば、今問題になっている生活保護の受給者に施設出身の子どもたちがなることも多いので、それも改善するんですね。

細野: そうですね、それは大きいですね。

慎: 課題の二つ目は、「家庭的な環境が少ないこと」です。里親養護は社会的養護のまだ一割強にしかなっていませんし、施設も合宿所みたいな施設が多い。これは、子どもが将来家庭をつくるときにすごく困るんですよね。家庭で食卓を囲むことがどういうことなのか、それがいまいち分からないような状態のまま家庭をつくると、いろんなところでつまづきそうになると思うんです。

細野: なるほど。

慎: そして三つ目は、違った側面からですが、「社会の認知がほとんどない」ということですね。「児童養護施設」と聞いて、その言葉を理解する人はたぶん10人に1人もいないと思うんです。昔の養護学校を思い浮かべる人が多く、言葉そのものを初めて聞いたという方もいます。孤児院という言葉は知っている方が多いのですが。

細野: それは、今は使わないですからね。

慎: はい。認知が圧倒的に足りていないということ、これが先ほどの票にならないという話にも繋がっている気がするのですが、知られていない問題はやはり社会は解決しようとしないので。その三つが、私たちは今なんとかしなければいけないな、と思っている課題です。

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