別に、ネット右翼の団体や暴力団が抗議しているというわけではないのだ。
抗議の声を上げているのは、事情があって実の親と一緒に暮らすことができない様々な境遇の子どもたちや母親たちの問題と日々、向き合い、考え、悩んでいる医師、施設関係者、里親などの「専門家」たちなのだ。
だったら、もう少しは誠実に話を聞いたらどうだろうか。
そう感じた人も多いだろう。
「赤ちゃんポスト」を設置している熊本の慈恵病院が「明日、ママがいない」で抗議の意思を示したことに対し、1月20日、日本テレビが「放送中止も謝罪もしない」と突っぱねた。
<日本テレビ>放送中止や謝罪には応じない 病院側に回答(毎日新聞)
日本テレビ系列で放映中のドラマ「明日、ママがいない」を巡り、親が育てられない子供を匿名で受け入れる「赤ちゃんポスト(こうのとりのゆりかご)」を設置する熊本市の慈恵病院が日本テレビに放送中止などを求めた問題で、日本テレビは20日、放送中止や謝罪には応じない考えを病院側に伝えた。
病院は「児童養護施設の子供たちへの差別を助長する」として、日本テレビに放送中止を求めていた。同病院は近く、放送倫理・番組向上機構(BPO)に審議を申し入れる。
15日に放映開始されたドラマは児童養護施設が舞台。赤ちゃんポストに預けられたという設定の子役が「ポスト」のあだ名で呼ばれるなどしている。
同病院は、日本テレビに倫理上の問題について製作段階でどんな議論をしたのかも尋ねていたが、それについての回答はなかったという。記者会見した同病院の蓮田健・産婦人科部長は「一生懸命作られていることは分かるし、素晴らしい部分もあるが、人を傷つけてしまっていると思われる部分があることは残念だ」と述べた。
日本テレビ総合広報部は毎日新聞の取材に対し「このドラマに限らず製作の経緯を説明することはない」と答えた。
出典:ヤフーニュース(国内)毎日新聞 配信
向こうも専門家だ。抗議しているといっても、抗議することで彼らにとっては何か利害につながるわけでなく、純粋に「今、施設や里親の元にいる子どもたち」や「赤ちゃんポストで救われた子どもたち」、あるいは、そうした子ども時代を過ごして今も心の傷を抱える人たちのことを思って、放送内容の見直しを求めている。
そうした専門家の声には、きちんと耳を傾けて解決策を探るのが、大人の対応だと思うが、新聞の報道では、日テレの対応はまったく違った。相手の要望を完全に突っぱねている。記事を読む限り、居丈高で傲慢。とても不誠実な印象だ。
「専門的なご意見ありがとうございます。これからはアドバイスを良く聞いて、より良い番組づくりをしていきます。一緒に協力してください」
どうしてこういうふうに言えなかったのだろう?
実は各テレビ局のコンプライアンス担当の責任者も日テレの姿勢を疑問に感じている人が少なくない。
コンプライアンスは、「法令遵守」とも訳されるが、企業の危機管理上、社員などが法律や倫理に違反しないように徹底させるセクションだ。
テレビ局ならば、番組の制作過程でヤラセやねつ造がないように注意喚起をする。
コンプライアンスの担当者は、そうしたヤラセなどの不祥事が、致命的なダメージを会社に与えないようにする。
会社の危機管理を握る人たちだ。
そのプロの人たちが、今回の日テレの対応をこう表現している。
「あれでは相手の神経を逆なでして、喧嘩を売っているようなもの」
「なぜ、ドラマのチーフ・プロデューサーに電話させるだけという横柄な対応をしてしまったのか。ウチの会社だったら、ああいうことはやらせない。せめて自ら熊本の慈恵病院に赴いて話を聞く、というように、誠意を示すべきだった」
「結論は仮に同じだとしても、もう少し他の言い方があったはず。誠実な態度として受け止められないのでは?」
こんな声が聞こえてくる。
つまり、危機管理上、日テレの反応は誠実なものだとは相手側に受け取られずに、相手の怒りの火を消せなかったばかりが、火の勢いをより強めてしまった、というのだ。
こんな感想もあった。
日テレさんが慈恵病院に「中止はしない」と連絡したことは、この病院や関連施設・団体、そしてこのドラマを好ましく思っていない視聴者に対する宣戦布告のようなもので自ら後には引けない状況を作ってしまったような印象です。
21日に全国の児童養護施設の協議会と里親の団体が記者会見して抗議したのも、その表れということができる。