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「赤ちゃんポスト」ができるまで〜慈恵病院・蓮田院長が語る

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熊本市の慈恵病院が「こうのとりのゆりかご」として2007年に運用を開始した、いわゆる「赤ちゃんポスト」は大きな議論を巻き起こしてきた。「安易な"子捨て"の増加」、「出自を知る権利を奪う」といった批判もある中、病院側は一貫して「赤ちゃんが生き延びる権利が最も重要で優先されるべきである」と主張してきた。

さらに、預けられた赤ちゃんのうち、乳児院で育てられるケースが多い現状について、同病院では早期から家庭で育てられることの重要性を訴えてきた。また、中絶の防止や若年層の出産への対応、生まれた子ども自身のことも踏まえ、養親の実子として戸籍に入れ育ててもらう「特別養子縁組」も実践してきた。

昨年、同病院をモデルにしたドラマがTBS系で放送され、再びその存在がクローズアップされた「赤ちゃんポスト」。現在放送中「明日、ママがいない」(日本テレビ系)では、作中の描写が視聴者の誤解を招くとして、病院側が放送中止を申し入れたことも話題になっている。

1月17日、同病院理事長兼院長の蓮田太二医師が講演を行い、これまでの取り組みや課題について語った。

"望まない妊娠"への対策

慈恵病院は、コール神父(カトリック宣教師)がローマ教皇庁に5人のシスターを派遣してもらい明治22年に設立した、貧しい方々のための診療所が前身です。修道会からの援助を元に診療を行ってきましたが、日本が豊かになり、これからは発展途上国での援助が必要だということで、私たちが病院を託され、昭和53年からは医療法人を作って運営しています。

2002年から、24時間体制で妊娠・育児の悩みを受け付ける電話相談窓口を設置しています。私達が「こうのとりのゆりかご」を作ろうという思いを持っていることが報道されましたら、急激に相談が増えまして、平成19年には501件、そしていまでは昨年は1000件を超えました。県外からの電話も多く、27%が関東からのものでした。年齢は20歳代が40%、30歳代34%となっています。テレビドラマの放映直後は24時間ずっと電話がかかってきまして、対応している人間の声が枯れてしまうほどでした。

寄せられる相談には、望まない妊娠による出産への葛藤、育児の問題、とくに若年妊娠の問題もあります。平成19年から昨年11月30日までの間に寄せられた相談の中で、本人はもちろん、家族の方にも、繰り返し相談をして、最終的に出産し、自分で育てることになったのが235件、特別養子縁組を実施したのが190件、乳児院に預けることになったのが28件と、あわせて453人のいのちが救われました。

慈恵病院で特別養子縁組を行った190件のうち、実に43件が若年層の妊娠でした。高校3年生で、進学も決まっていたというケース、強姦による妊娠で、親に言えず6ヶ月になっていたケースなど、様々です。実は15歳未満の方も23%、小学校5年生という方もおられました。背景には、性意識の低下の問題もあるでしょう。"相手の数"が多いことが友だちの間での誇りだと考えていたという学生さんもいました。学校での教育、それ以前の家庭教育、社会での教育が大事だと思います。我が子を信頼しているのか、それとも無関心なのか、妊娠に親が気づいていなかったというケースもあります。

特別養子縁組の場合、養親になって頂く方には、分娩疑似体験として、分娩室の隣で待機していただき、産みの苦しみをともに感じていただき、分娩後、すぐに抱っこを経験していただくなどしています。

一方、実母の方は、"周りに迷惑をかけた、育てられなかった"、という心の痛みを抱えることになります。ですから、退院後も定期的にお電話をし、前向きに進んでいけるよう、じっくり時間をかけてお話を聞くようにしています。

「こうのとりのゆりかご」ができるまで

2004年5月、東京にある「生命尊重センター」の呼びかけで、「ベビークラッペ」という、匿名で預けられる「赤ちゃんポスト」を見学にドイツへ行きました。ドイツでは、70箇所の「赤ちゃんポスト」に、年間40人くらいが預けられそうです。1箇所あたり、2年に1人くらいの利用頻度ということです。

私のキャリアの中で、それまで赤ちゃんが捨てられていたのを経験したのは1度だけでした。ある朝早く、神父さんの家の軒下に捨てられていたのです。その後警察の捜査で、誰が母親かもわかりました。ですから、熊本に「赤ちゃんポスト」を作ったとしても、どうなんだろうという思いがありました。そのことを説明してくださったドクターに軽々しくお話すると、それまでににこやかに話してくださっていたのが、突然真っ赤になって「あなたは何と考えているんだ。そこに作って、いつでも利用できるということが大事なんだ」と言われました。

預けられる赤ちゃんが一人だったから作る、作らないと悩むのは根本的な間違いだと思い、それから設立について考えるようになりました。

ところが、赤ちゃんを預かるということは、捨てることを助ける、つまり「遺棄幇助罪」に当たるのではないかと考えられます。大学の法学部の先生方の意見も、幇助罪に当たるという方と、安全なところに預ければ幇助罪には当たらない方と、意見がまちまちでした。また、赤ちゃんが匿名なので出自の問題も出てくる。そういうことを考えていたところ、熊本で赤ちゃんが捨てられる事件が立て続けに起こり、3人のうち2人が亡くなりました。これは早くしなければと思いました。

「愛の反対は憎しみではなく無関心です」というマザー・テレサの言葉があります。それまでの私は、虐待事件の報道を見るにつけ、心が傷んで、怒りを覚えていたんです。子どもが泣き叫んでいるというのに、なぜ助けられないのか、どうしてだったんだろうと、児童相談所の人たちを責めるような気持ちがありました。赤ちゃんポストがあれば、捨てられた赤ちゃんを助けられたじゃないかと思いながら、作らないことを反省しました。

警察、市の保健所、県の福祉課に相談したところ、警察は快く応じてくれました。赤ちゃんが傷ついていたり、事件が疑われるときには捜査をしますが、赤ちゃんを見せて下されば、とのことでした。市と県は悩んでしまわれました。市長は悩んで、厚生労働省に何度も足を運んで相談されたが、はっきりした返事がもらえない。最終的には医療法上違法ではないという返事をいただきましたが、通常、病院の改修の許可は2週間くらいで出るところ、このときは4ヶ月かかりました。

その後、たくさんの報道があり、電話やメールやら、病院のほうで対応できないくらいで、電話回線を増やしたりしました。最終的には家の方にかかってくるようになりました(笑)。

共同通信社
「こうのとりのゆりかご」を設置した場所は、職員の出入口のすぐ横です。預ける人にとっては人目につかない場所が良いですが、赤ちゃんの安全も考えなければなりません。扉の中には、「お母さんへの手紙」を置いてあります。これをぜひ持ち帰ってもらいたいと思っています。赤ちゃんを預け入れたものの、去りがたい状態で佇んでおられる方には声をかけて、病院の中でお話を伺い、こちらからの説明をすることもあります。

最初に預けられた子は、乳児ではなく、3歳児でした。社会は騒然となり、批判もありました。その子は里親に育てられていますが、随分大きくなりまして、学校でも周囲の方々も立派な、すばらしい子に成長したと喜んでおられます。

当初はメディアの「誰が預けたのか」の取材競争で、私の家の前に12時くらいまで記者の方が張り付いていらっしゃいまして、私の家族も大変な時期がありましたね。

3ヶ月に一度、「こうのとりのゆりかご」の検証会議が行なわれていますが、そこでは"出自を知る権利"の問題がよく議論されます。預けられた子どもが、実の親が誰なのか、知ることができないからです。そのため、"預けられたらすぐに走って行って捕まえろ"、"親が誰であるかを知るように努力しろ"という意見も頂戴します。

これまでに預けられた件数ですが、昨年3月31日までに92件。北は北海道、南は沖縄と、全国各地から預けに来られました。熊本・九州以外では、特に関東・関西からが多いですね。

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